「VAIO Phone」効果は? - 日本通信、営業利益43.5%減

文●大河原克行、編集●ハイサイ比嘉/ASCII.jp

2015年05月01日 21時00分

 日本通信は、2014年度(2014年4月〜2015年3月)の連結業績を発表した。

 売上高は前年比10.1%増の51億3900万円、営業利益は43.5%減の4億800万円、経常利益は34.6%減の4億6300万円、当期純利益は62.8%減の3億2700万円となった。

売上高は前年比10.1%増の51億3900万円、営業利益は43.5%減の4億800万円、経常利益は34.6%減の4億6300万円、当期純利益は62.8%減の3億2700万円

 期初見通しでは、売上高は62億3000万円、営業利益は12億3000万円、経常利益は12億円、当期純利益は11億3000万円としており、第4四半期に発売したVAIOとの協業による「VAIO Phone」効果によって計画達成を見込んでいたが、発売日が3月20日にずれ込んだことも影響し、計画を下回った。同社では4月2日に、2014年度の業績見通しの下方修正を発表していた。

 「法人向けソリューションとVAIO Phoneを組み合わせて提供する企業向けVAIO FMC Phoneでの展開が遅れたことが業績に響いた。また、取引先からはVAIO Phoneには強い引き合いがあったが、3月までの生産が予定数量に届かなかった点も影響した。当初は混乱もあったが、4月になってようやく落ちついて購入できるような状況になってきた」(日本通信の福田尚久副社長)と語った。

日本通信の福田尚久副社長

 また、日本通信の三田聖二社長は、「VAIO Phoneは、2014年12月の投入を目標に展開してきたが、タッチパネルメーカーが破綻し、それによって遅れた。VAIO Phoneの機能の8割はパネルの間に集中しており、欠かせない部品。それによって、製品企画をし直したこともあって発売が3月になり、しかもすべてをかき集めても、3月には1万台しか手に入らなかった。

 VAIO Phoneは、ブランド戦略を生かした製品。ブランドで売る戦略は、発表して短期間に出荷をしなくてはならないが、それができず、注文した人たちを待たせる結果となり、デマンドが冷えたともいえる。だが、VAIOというブランドは、セキュリティが高く、安心に使ってもらえる端末。これは、どこにもないフィーチャーである。期待していた数字はこれからもいけると考えている」と述べた。

 VAIO Phoneは、現時点では当初予定した数量はすべて確保しているというが、今後は、2009年に買収した米Arxceoが持つセキュリティ技術をスマホに提供。これをVAIO Phoneと組み合わせて法人向けに提供することを考えているという。

 「VAIO Phoneは、最新技術を搭載したスマホであり、すぐに陳腐化するものではない。法人向けに十分展開してける機能を備える」(福田副社長)とした。

MSP事業は約4倍の成長。VAIO Phoneの販売が寄与

 VAIO Phoneを含むMSP(モバイルソリューションプラットフォーム)事業の2014年度の実績は、売上高が14億6800万円と、前年実績の3億6900万円に比べて約4倍の成長。その成長部分の多くは、VAIO Phoneの販売が寄与しているという。

VAIO Phoneを含むMSP事業の2014年度実績は、売上高が14億6800万円と、前年実績の3億6900万円に比べて約4倍の成長。その成長部分の多くは、VAIO Phoneの販売が寄与しているという

VAIOのタブレット・次のスマホ、ノートPCに、
米Arxceoのセキュリティ技術を搭載か

 「VAIO Phoneは、2015年度の予算にも組み込んでいる。VAIO Phoneでは、いろいろなことを検討している。VAIOとは、タブレットの話や次のスマホ、ノートPCにも、米Arxceoが持つセキュリティ技術を搭載したいという話し合いをしている。VAIOは、法人向けにきちっとしたソリューションを提供していく会社。そこで協業できると考えている」とした。「MSP事業は2015年度にはさらなる成長を見込む」として、2015年度も215.8%増の31億6800万円を計画。MSP事業が同社売上高の半分近くを占めることになる。

 「これだけMVNOが林立する中で、サービスはどんぐりの背比べであるのが事実。差別化できないSIM事業に投資するのではなく、独自の差別化ができるMSP事業を大きく伸ばす。プリペイドSIMの平均単価は6509円と、過去にないほど高くなった。当社の仕組みを利用したサービスを開始する企業もいる。SIM事業はこれからも維持をしていくが、SIM事業全体では横ばいでいいと考えている」(福田副社長)と語った。

差別化できないSIM事業に投資するのではなく、独自の差別化ができるMSP事業を大きく伸ばす

2014年度の事業別売上高

 2014年度の事業別売上高は、月額課金SIM事業が前年比9.2%減の21億6300万円、プリペイドSIM事業が22.3%減の7億7500万円、モバイルソリューションプラットフォーム(MSP)事業が397.8%増の14億6800万円、その他事業が10.5%減の7億3100万円となった。

 月額課金SIMは、データ通信ARPUが第4四半期実績で前年比46円減の1088円、音声通信ARPUが100円増の1192円。

月額課金SIM(データ通信)

月額課金SIM(音声通信)

プリペイドSIM

 解約率は3.9%。MNPキャッシバック狙いを目的に1ヵ月以内の解約を含めたグロス解約率は10.5%とした。また、第4四半期のプリペイドSIMの平均販売単価は6509円となった。

2015年度のMSP事業は215.8%増と大幅な成長を計画

 一方、2015年度の通期見通しは、売上高が前年比32.9%増の68億3000万円、営業利益は169.4%増の11億円、経常利益は135.0%増の10億9000万円、当期純利益は220.4%増の10億5000万円を見込む。

 SIM事業などの売上高は前年比0.3%減の36億6200万円と微減を見込むが、MSP事業は215.8%増の31億6800万円と大幅な成長を計画している。

 MSP事業では、03スマホ戦略、無線専用線戦略、モバイルセキュリティ戦略の3つの柱を掲げ、「すべて当社の特許技術群に裏打ちされた差別化戦略になる」(福田副社長)とした。

MSP事業では、03スマホ戦略、無線専用線戦略、モバイルセキュリティ戦略の3つの柱を掲げる

 03スマホ戦略は、同社が2011年1月から開始した050モバイルIPフォンサービスに端を発するもので、03の電話番号を使ったモバイルIP電話サービス。VAIO Phoneとの組み合わせ提案も行なっている。

 無線専用線は、2002年にある企業からのM2M案件をもとに開発した無線専用線技術を発展させたもの。NTTドコモの無線網との接続を可能にするレイヤー2接続を行ない、米国では、ATM向けの無線専用線としてサービスを提供。日本でもATM、POS、KIOSK、IoT向けの技術として展開。

 また、この技術を利用して、2013年からFMCフォンとして提供しているものだ。さらに、モバイルセキュリティは、2009年に買収した米Arxceoが持つセキュリティ技術によって実現するものだという。これも5月下旬から6月をめどにVAIO Phone向けに提供することになる。

 こうした同社ならではの技術を核にした独自サービスによって、MSP事業を拡大する考えを示した。

日本通信の今後の方針

 日本通信の三田聖二社長は、同社事業に対する基本姿勢と今後の方針についても説明。「日本初のMVNOとして、1996年から2004年には、日本通信のビジネスを定義し、通信事業はどうあるべきかということを模索してきた。2005年から2014年までは、移動体通信の相互接続を日本で初めて開始するなど、日本のネットワークが変わり、通信設備を持たなくても事業ができるという通信業界の新たなルールができたことで、SIMを販売するという新たなビジネスを開始できた。キャリアができないこと、やりたくないことをやるのがMVNO。これを実践してきた。だが、MVNOのリーダーとして次の時代に何をやるかということを考えていかなくてはならない」とした。

 また、「水道会社は、必要とする顧客のところまで、水道管を引くのが仕事。これを飲み水用に使うか、風呂のために使うかは利用者の自由。それにあわせて、建設会社と話をしながら、蛇口をつければいい」としながら、バケツとボトルウォーターを掲げて、「水を飲むならばどちらに入った水を選ぶか。ほとんどの人がボトルウォーターを選ぶはずである。これを選ぶ理由は、持ち運べるモバイルウォーターであるという点。そして、へんなものは入っていない安心感がある点だ。水でもこうした差別化ができる。

バケツとボトルウォーターを持って説明する日本通信の三田聖二社長

 こうしたパッケージは水道会社が作ったものではない。水を使って、様々な形で商売ができている。顧客のニーズを考えて、それを顧客に提供するのが付加価値ビジネス。通信会社も水道会社と同じで、通信インフラを利用して、そこで何をやるのかは自由である。そこにMVNOの役割がある」などと語った。

セキュア・ネットワーク網の提供に力を注ぐ

 さらに、「日本通信は、今後、セキュア・ネットワーク網の提供に力を注ぐことになる。これによって、安心して使ってもらえる環境を提供する。インターネットの良さは、誰でも、どこでも使えるが、言い換えれば、“悪いことは、誰でもどこからでもできる”となる。

 日本通信では、PWLLというネットワークサービスを提供することで、企業でも、家でも、現場からでもセキュアなネットワーク環境を実現できる。これからIoT時代においては、速度や価格も重要だが、一番大切なのは、リライアビリティとセキュリティで保護された安心感である。これは、2009年に買収した米Arxceoが持つセキュリティ技術によって実現するもので、法人顧客に対して提供していくことになる」とした。


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