サンノゼ・テックイノベーションミュージアムで体験できる未来とは

文●松村太郎(@taromatsumura) 編集● ASCII編集部

2017年06月16日 12時00分

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
Adobe Wetbrushで作品を仕上げるAdobe Researchの伊藤大地さん。エンジニアとアーティストという2つのプロフェッショナルで、コードを書く日、絵を描く日を分けないと頭がついてこないとのことです

 先週は、バークレーから南に1時間半ほどの距離にある、シリコンバレー最大の都市、サンノゼに滞在していました。Appleの開発者会議「WWDC 2017」の取材では、初日の基調講演、そして新製品3つのレビューとホテルに缶詰だったのですが、その日程が始まる前に、ちょっと寄り道をして、テックイノベーションミュージアムに行ってきました。

 サンノゼの緑が心地よい、中心的な広場に面した施設は、子供達が、最新のテクノロジーやサイエンスに触れることができる、常設のテック博物館です。カラフルに作られた重機と大きな文字、そして物理から遺伝子に至るまで、さまざまな工夫を凝らして、伝える工夫がなされており、子供はもちろん大人も存分に楽しめる場所となっています。

 そこで始まったのが、「Reboot Reality」という企画展。

 Adobe、Facebook、Google、HP、スタンフォード大学などが、仮想体験、拡張現実、複合現実のツールやアプリを展示し、未来の表現の可能性を伝えようという実験的な試みです。

筆先の仮想体験で、絵画も変わる

 まずはAdobeが展示した「Wetbrush」。液晶ペンタブレットのキャンパス、という姿はさほど珍しくありませんが、実際に筆を握って書いてみると、全く違う手触りを体験することができるのです。

 WetBrushで表現しているのは、バーチャルな油絵の絵筆と絵の具。ペンや水彩画とまったく違う油絵の世界をデジタルで再現しようという試みです。

 油絵の絵の具は水彩画と違い、絵筆をキャンパスに滑らせると絵の具は盛り上がって塗られていきます。そのため、筆使いとその時間の経過が、油絵では層になって記録されているのです。完全に乾いてから上塗りすれば、色が混ざらず描くことができる、という特性もあります。

 そうしたストロークや感想などをデジタルで再現したのがWetbrushです。

 Adobe Researchに所属しているエンジニアで、自身もアーティストとして活動する伊藤大地さんが、Wetbrushのデモを行なっていました。実際の油絵にも取り組んできた伊藤さんは、油絵をデジタルで再現したWetbrushの可能性を活き活きと指摘していました。

 「筆の角度や動かす速さなどを正確に読み取り、これをコンピュータのグラフィックスエンジンによって忠実に再現しています。毛先の1本1本まで趣味レーションするような感覚ですから、多大なグラフィックスのパワーが必要です。しかし、油絵という、時間もコストもかかる表現を身近にしてくれる仕組みとして評価でき、私自身作品作りにも生かしています」(伊藤氏)

 Wetbrushでは、油絵ではご法度だったやり直しも可能ですし、早く乾燥させることもできます。そして、油絵の層になって塗られている特性を利用して、3Dプリンタで絵画を出力することもできるようになりました。

Wetbrushで描かれた作品を、3Dプリンタで出力すると、油絵の重ね塗りやストロークが活き活きと再現されます

 その出力結果を見ると、筆のストロークやインクの流れる目、盛り上がりがきちんと再現されています。アイディアとして、液晶タブレットで描くことで、油絵を3Dデータとして記録しているわけですね。

ケーブルがあるうちは、真のVR体験じゃないと思った

 AdobeのWetbrushが気に入ったのは、ほぼ唯一、ゴーグルをかけないで済むバーチャルな体験、かつ“道具”だった点です。それ以外のGoogleやFacebookなどの展示は、ゴーグルを装着するVRでした。

 GoogleのVRペイントアプリ、Tilt Brushを体験してみると、空間に描ける感覚を楽しむことができました。たとえば目の前に上から下にペンキを塗ると、そこは壁になります。

GoogleのTilt Brush。空間にお絵かきができるのですが、外から見ていると何が起きているのかはわかりませんね。ゴーグル外の人が理解できる空間描画が必要そうです

 もちろん人は通りぬけられますが、壁で紙面を囲むと、空間が作られます。屋根をつければ、部屋になる。当たり前のことも、実際に自分で描きながら創ってみると、実感が湧いてくるものです。

 前述のAdobe Wetbrushのように、データを原寸大で出力すれば、バーチャル空間に描いたものが建造物にもなりえます。Tilt Brushはペイントですが、物理エンジンや強度計算を加えてある環境であれば、自分で家をデザインして組み立てるといったことも可能になると思えるのです。

 Googleはスマートフォンを軸にしたDaydreamというVRのブランドを打ち立て、スマホを装着するゴーグルに加えて、スタンドアロンのゴーグルを発表しました。このゴーグルが進歩的なのは、ケーブルも何もなく、ただ装着すればVR体験が楽しめる点です。

 実験的なソフトウェア、という前提はありますが、GoogleのTilt Brushを体験するためには、VRゴーグルから伸びるケーブルを束ねて天井へ引っかけ、空間での動きの邪魔にならないように配慮していました。

 それでも。ペイントをするために手を動かしていると、ケーブルの性で頭の動きが制限されることが多々ありました。やはり邪魔ですよね。スマホ並みのディスプレイとプロセッサを内蔵するVRゴーグルの登場は、VR体験から、ケーブルという制約を取り去ることを意味し、よりスムーズな体験へと発展する可能性を秘めています。

視覚のVRに体の感覚が加わると……

 最後に、今回の企画展で一番ダイナミックなVR体験、Birdlyについてです。Birdlyは、VRゴーグルを装着してうつぶせに装置の上に寝そべると、名前のとおりにさまざまな場所を鳥になって飛ぶことができる仕組みです。広げた手にもセンサーがあり、自分で羽ばたいて速度調節をしたり、上下左右に方向を変えたりします。

鳥になって飛ぶ体験を楽しめるBirdly。ゴーグルとヘッドフォンを装着し、羽根のようなデバイスに手を通して羽ばたくと、画面の中で飛ぶことができます。正面の扇風機からは飛行速度に応じた風も

 装置は画面の中の動きに応じて、わりとしっかりと傾きます。また顔の正面には扇風機があり、やはり画面の中の飛行速度に応じた風が顔に当たる仕組みです。雪山では、山々を鳥の視点で俯瞰しながらゆったりと飛ぶことができ、ニューヨークではビルの間を縫って飛んでいく体験を楽しむことができました。

 視覚に加えて、体のバランス、手の動き、そして風が当たる感覚など、複数の感覚で作り出されるバーチャル体験は、非常にリアルなものでした。いや、リアルかどうかはわかりません。実際には鳥のように生身で空を飛んだことはないのですから。

 VRは、知っている体験の再現だけでなく、自分が経験したことがない感覚を体験するツールにもなりえます。数分の飛行体験でしたが、羽根の傾け方によって高度が変わったり、高度変化と羽ばたきでスピードを付ける感覚などもわかった気がします。もし自分に羽が生えたら、最初から上手に飛び始められるのかもしれません。

 羽が生えて飛ぶ、というのはちょっと極端な例ですが、体のバランス感覚をつかめばできる類いのもの、スキーやサーフィンなどは、VRで学んで実践という流れがより盛んになる可能性もあります。

 その意味で、自宅でも、バランス感覚を養える、VRゴーグルと連携する装置は、早めに手ごろな価格になってくれると良さそうですね。


筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura

mobileASCII.jp TOPページへ

mobile ASCII

Access Rankingアクセスランキング

アプリ週間ランキング

アプリランキングをもっと見る

for Biginnersスマホ入門

スマホからスマホへ機種変更する前に読む! 各種アプリ&サービスのデータ移行・引き継ぎ方法

「Xperia A」「GALAXY S4」へ機種変更したらチェック! ケータイとの違い&スマホの使い方をマスターしよう

「Xperia A」ほか夏スマホ購入前にチェック! スマホへの機種変更&乗り換えQ&A

スマホのトラブル解決ガイド2013

スマホ定番アプリ活用術!

連載:スルッとわかる! 高速通信規格「LTE」

おサイフケータイ乗換案内!

Linkリンク