山根博士の海外モバイル通信

時代はDSDV! 4Gの同時待受&データ+通話が可能なスマホが今秋登場っぽい

文●山根康宏 編集●ゆうこば

2017年07月28日 15時30分

 SIMを2枚同時待受可能な「DSDS」(Dual SIM Dual Standby)端末が増えています。片側のSIMは3G接続となってしまうため、VoLTEや高速な4Gデータ通信が利用できないのが残念なところですが、MNO+MVNOなんて組み合わせで2枚のSIMが利用できるのは便利です。

 ところが、間もなく「4G+4G」の同時待受が可能な端末が登場します。

「DSDS」に変わる「DSDV」ではVoLTEの同時待受ができる

 4Gを2回線同時待受できる端末は「DSDV」機と呼ばれます。DSDVはDual SIM Dual VoLTEの略で、2枚のSIMどちらの回線でも4Gのデータ通信とVoLTEによる音声通話をサポートします。

 従来のDSDS機だと「どちらのSIMを3Gにするか」と悩む必要がありましたが、4G+4Gの2回線待受となることで、SIMや回線の組み合わせが自由自在になります。

DSDV対応のクアルコムのリファレンス機。「SIM-1」「SIM-2」どちらにも4Gの設定があり同時利用可能

 DSDVのデモは2017年6月に上海で開催されたMWC上海2017で見てきました。展示されていた端末は、クアルコムとMediaTekのリファレンス機。それぞれSoCはSnapdargon 835とHelio X30を搭載していました。

 クアルコムは最新のX20モデムからDSDVに対応していますが、現行のSnapdragon 835は一世代前のX16モデムを搭載。そのため現在発売されている「OnePlus 5」などのSnapdragon 835搭載スマートフォンは、DSDVには対応していません。

クアルコム(左)とMediaTek(右)のリファレンス端末によるDSDVのデモ

 DSDVのメリットは高速な4Gが2回線同時待受ができることですが、高音質なVoLTEをどちらのSIMでも使えることも大きな利点になります。

 既存のDSDS機では、3G側に入れたSIMでの通話は3Gの低品質な音声でしか利用できず、4G回線やVoLTEを使うには設定メニューからSIMを切り替える必要があるため面倒です。

4Gのアンテナピクトが2本立っている

農村などでの音声通話需要に応えるため、中国最大キャリアが急ピッチで準備

 では、DSDV対応のスマートフォンはいつ、どの国で発売になるのでしょうか。実は、DSDV端末をメーカーに要求しているのは中国最大キャリア、中国移動(チャイナモバイル)なのです。

 中国では、DSDS機は10年以上前から利用されています。4G+3Gだけではなく4G+2G機がいまでも現役ですが、片側のSIMは通話専用SIMを入れて使うユーザーも多くいます。それらを4G+4GのDSDV機に置き換えようと中国移動は考えているのです。

DSDVは中国移動がメーカーに要求している仕様なのだ

 中国移動は2Gから3Gへ移行する際、独自のTD-SCDMA方式を採用しました。しかし、W-CDMA方式のように世界中には採用は広がらず、通信速度の高速化などの面で劣っていました。

 その反省もあり、現在はTD-LTE方式での4Gの全国展開を急ピッチで進めています。4Gは高速通信向けだけではなく、地方や農村なども利用され、それらエリアでは音声通話しかしないようなユーザーであっても4G回線を利用することになります。その結果、VoLTEの全国展開も急ピッチで進んでいるのです。

中国移動が自ら販売する4Gフィーチャーフォン「K1」。VoLTEも利用できる

 DSDV機が普及すれば、2枚のSIMどちらも4G契約を利用してもらえます。また、たとえ片側のSIMがライバルの中国聯通(チャイナユニコム)や中国電信(チャイナテレコム)のものであっても、中国移動のSIMでも4G回線を使ってもらえ、データ通信収益を確保できるわけです。

 ただし、DSDVはDSDA(Dual SIM Dual Active)ではないため、片側でVoLTE通話中には、もう片側の回線は一時的に停止状態となります。

SMSのIP化「RCS」の普及も進む可能性

 そして、VoLTEの先にはRCS(Rich Communication Service)の展開も中国移動は視野に入れています。VoLTEがIPベースの音声通話なら、RCSはSMSなどのIP化と言えます。

 システム標準でグループチャットや写真・動画の送受信など、SNSのようなことが利用できるのです。DSDVになれば2枚のSIMどちらも高速な4Gデータ通信が利用できますから、RSCの普及にもメリットは大きいでしょう。

RCSが普及すれば端末のシステム標準でチャットライクなことも可能になる

 MWC上海2017の中国移動ブースの説明員によると、DSDV対応スマートフォンは今年の第4四半期に登場予定とのこと。

 どのメーカーから出てくるかはまだ不明ですが、クアルコムとMediaTekの最上位SoCを搭載した端末が対応することから、シャオミなど中国の新興メーカーの対応が早いかもしれません。また、サムスンもシェア奪回のために、対応機を出してくる可能性もあるでしょう。

 一方、いまやイケイケのOPPO(オッポ)やVivo(ビボ)はSnapdragon 600系など、ミッド・ハイレンジのSoCを採用しています。このSoCにX20モデムが搭載されれば、両者からDSDV機が出てくるかもしれません。あるいは、DSDVに対応したHelio X30を搭載した「OPPO Vシリーズ」なんて製品が出てくる可能性もあるかもしれません。

初のDSDV機はどのメーカーが出してくるのか

 日本へのDSDVの投入は、SIMフリー機として販売するメリットが現時点では少なく、キャリア側の導入も慎重になるでしょう。しかし、4G回線を同時待受できる利便性は高いので、SIMフリー機としての投入を願いたいものです。

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