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GoogleによるHTCの一部買収――HTCには延命措置、ではGoogleの狙いは? (1/2)

文●末岡洋子 編集● ASCII編集部

2017年09月27日 12時00分

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 GoogleがHTCのスマートフォン部門の一部を買収する。9四半期連続で損失を計上し、身売りも噂されていたHTCにとっては、ひとまずの延命となった――Googleが11億ドルで約2000人の従業員の面倒を見てくれるのだ。とはいえ、この取引の狙いを考えると、GoogleとHTCの両方に疑問が残る。

「Made by Google」として、Google自身がハードウェアの開発に本格的に取り組んだというPixel。この開発・製造に関わってきたのがHTCだ。その部隊を中心にGoogleに買収されることになった

Androidの初期段階で大いに盛り上げたHTC

 2007年のiPhone以来、スマホ市場は激動が続いている。HTCは、iPhoneに対抗しようとGoogleが立ち上げたAndroid、そしてOpen Handset Allianceの初期メンバーだ。なんといっても初のAndroidスマホはHTC製の「HTC Dream」なのだ。2社の蜜月は直近の「Pixel」まで続いている。PixelはGoogleが設計、開発した端末で、2016年秋に発表された。

 Googleが今回取得するのもPixelに関わったチームであることから、Googleの狙いはハードウェア事業の確立だと言われている。

 そのGoogleの思惑は後ほど見てみるとして、HTCのこの10年を振り返ってみたい。

 HTCは1997年創業のハードウェアメーカーだ。2007年にAndroidと出会うまで、Siemens MobileとMicrosoft CEベースの携帯電話を開発したり、HPやPalmブランドでデバイスを開発していた。技術とノウハウを積み重ねた同社は、Androidにより自社ブランドを確立する。当時まだAndroidに懐疑的なメーカーが多い中、HTCは”ファーストムーバー”の利を得た。同じく早期にAndroidにかけたソニー(当時はSony Ericsson)とともに、スマホ市場に新風を吹き込んだ。

 同社のピークは2010〜11年。「HTC Evo」などのスマホに加えて、初のAndroidタブレット「HTC Flyer」を投入。HTC Flyerを発表した2011年のMWCでは、発表会に入れない記者もおり、ブースには人だかりだった。2012年のMWCでは「HTC One X」を発表したが、盛況の中でもすでに当時のCEOであるPeter Chou氏には焦りも見え隠れした。

HTC Oneシリーズを最初に発表した2012年のMWCでのPeter Chou氏。日本での発表会でもおなじみの存在だった

世界シェアはついに1%割れの0.4%まで落ちていた

 当時はスマホ市場の10%近くのシェアを占めながら、HTCが後退していった理由はさまざまなのだろう。1つに競合がある。iPhoneが現れたのち、SymbianをオープンソースにしたNokia陣営に加わるわけでなく、立場が曖昧だったSamsung(2007年ごろはNokiaが約30%のシェアでトップ、Samsungは約15%の2番手)がAndroidに本格的に注力することに。膨大なマーケティングと開発費をつぎ込み、Samsungは落ち目のNokiaを潰した。結果として、HTCなどのAndroidで先駆けたメーカーも劣勢になった。

 もう一つの課題がマーケティングだ。2012年頃からずっと指摘されてきたが、解決できないまま中国勢にも押されるようになった。また、再起をかけたHTC Oneは発表後に不具合があり、ブランドに傷がついたことも不幸だった。この段階ではまだ軌道修正ができたのではないかと思われるが、その後も流れを変えることができなかった。

 数字にも現れている。同社は2015年に大規模な人員削減をしており、2年以上連続で四半期決算は損失となっている。シェアを見ても、ここ数年は調査会社が発表する上位5ベンダーに入っていない。Wall Street Journalなど各紙が引用するCounter Researchのデータによると、現在0.4%まで落ちているとのことだ。近年はスマートフォンよりも、「Vive」ブランドで展開するVRデバイスの方に力を注いでいるように見えなくもない。

HTCはVRデバイスの企業になってしまうのだろうか?

 それでも同社には熱心なファンが多かった(過去形にすべきではないが)ところを見ると、やはり魅力ある端末を作る技術力を持っているのだろう。

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