Appleの次のiPhone戦略は「生活のショートカット」

文●松村太郎(@taromatsumura) 編集● ASCII編集部

2018年06月07日 14時00分

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
WWDCで発表されたSiriのショートカット機能。一声で4つのアプリの機能をまとめて教えてくれたら? そんな新機能には「生活のショートカット」というフレーズがふさわしく感じます

 Appleはカリフォルニア州サンノゼで世界開発者会議、WWDC 2018を開催しました。基調講演では、iOS 12/watchOS 5/tvOS 12/macOS Mojaveが発表されました。

 本題に入る前に、Macの新OSの名前についてです。ネコ科の動物からカリフォルニアの地名に変わり、海(Marverics)、山(Yosemite、Sierra、High Sierra)ときて、今度は「Mojave」。モハーべ砂漠のことですね。たしかにカリフォルニアの地名ではあるのですが、この砂漠自体はアリゾナ、ネバダ各州にまたがっています。そして世界最高気温を記録したデスバレーも含まれます。

 macOS Mojaveのテーマとなっている、時間帯によって自動的に明るさが切り替わる写真も、デスバレーにある砂丘に見えます。まあ製品名に「死の谷」とは付けたくありませんが。

 コンピュータの世界だと、2008年ごろにMicrosoftが行なった、広告キャンペーンで使われたことがありました。あまりに不評だったWindows Vistaを「コードネーム、Mojaveだ」としてブラインドテストをする内容でした。そのことを知っていたWWDCの会場にいる開発者からは、ダークモードが採用されたUIデザインも含めて「Vistaの二の舞にならなきゃいいけど」との声も聞かれました。

 個人的に最も注目しているのはApple WatchのwatchOS 5です。インタラクティブ通知や今回のテーマとなるSiriの活用で、普段することを手首だけで済ませられる可能性が高まったからです。そのあたりの話を含めて、早速。

生活のショートカット?

 今回iOS 12向けの新しい機能として紹介されたのは、「Shortcuts」です。

 ショートカットは、パソコン用語にも出てくる、アプリや機能を起動するためのボタンや、それらのキーボード操作を指します。よく使う機能ほど、ショートカットを作ったり、用意されているキーボード操作を覚えて、素早く済ませられるようにして効率化を図ります。

ショートカットは各デバイスで共有できます

 これが生活全般に広がったらどうなるか、というのが、iOS 12におけるShortcutsの導入のポイントとなります。確かにスマートフォンは生活全般での活用が広がっています。iPhoneで利用するショートカットは、いわば生活の中でのショートカット。

 このメタファーは、実際に使い始めてからあらためて考えてみたいテーマです。

 じゃあ、iPhoneを使っていて、どんなショートカットがあると便利だろう? と考えてみましょう。たとえば、家族に帰宅する旨をメッセージで送り、自宅までのナビを起動するなど、毎日必ず行なう操作がみなさんにもあるのではないでしょうか。

 もしこの作業をタッチ操作でするのなら、メッセージアプリで「これから帰ります」と家族に知らせ、ホーム画面に戻ってマップアプリを立ち上げて自宅までの経路を検索します。これぐらいの操作だったら、別に大したことはありませんが、帰りながらポッドキャストを再生するのを日課にしていれば、マップアプリから一度またホームボタンに戻り、ポッドキャストアプリを立ち上げて新着エピソードの再生をしなければなりません。

 ここまで説明すれば何が起きるかおわかりだと思いますが、これを「Hey Siri, 帰宅します」や「Hey Siri, 帰る」といえば、全部こなしてくれるようになるなら、どうでしょうか。そうSiriに告げると、メッセージが自動的に送信され、ナビが自宅にセットされた状態でPodcast再生が開始されるようになるわけです。

 Appleによると、ショートカットを呼び出すフレーズは自分で吹き込むため、一度発音している分、覚えも良いというものです。また、同じ動作であったとしても、ほかの人とは異なるフレーズを設定できます。つまり、iPhoneのSiriが、どんどん自分だけのものになっていくわけです。

オートメーションのジレンマ再び

 さてここで嫌なイメージが蘇ります。それはスマートホームです。スマートホームの肝はオートメーション、つまり自動化であって、今回のShortcutsと共通しています。そのスマートホームのオートメーションは、身の回りにあるものを連携させたり、発動条件を設定する、ほぼ「プログラミング」なのです。

 現在、プログラミング教育の重要性が叫ばれ、2020年には必修化が始まります。しかしそうした教育が組み込まれること自体が、プログラミングが一般的ではなく、多くの人たちにとってこれから学ばなければならないテーマになっていると言えるでしょう。

 そこでスマートスピーカーと音声アシスタントです。人が喋る声で面倒な機器の設定を済ませることができるよう、インターフェイスとしての役割を担ってくれるようになりました。しかしスマートホームに慣れてくると、やはり前述のとおりに、いちいち指示や操作をしなくても、家に帰ると電気が点灯してほしいし、家に帰る15分前にはエアコンで室温を調節しておいてほしいわけです。

 そうなると、時間や自分の位置情報、外の気温などの条件を加味したオートメーションの設定が必要となり、その設定作業からデバッグまでの一連の作業は、気の利いたインターフェイスを持つプログラミングそのものなのです。

 教育的な側面で捉えれば、iOS 12のShortcutsは、プログラミング的な作業を経験する人を圧倒的に増やし、自分で組み立てる楽しみ、それによって便利になる喜びがより一般的になるかもしれません。しかし自分の親世代でプログラミングになじみがなかった人たちが、こぞってSiriに機能を教え込めるようになるとは思えません。

人工知能に対する
FacebookとGoogleとAppleの考え方の違いがハッキリと

 GoogleやAmazonのように、中央集権的に賢くなっていく人工知能は、利用する人がわざわざプログラミングをしなくても、そのオートメーションを実現するコマンドを提供してくれるようになるかもしれません。

 ただし、それが自分の生活や環境に適したものであるかどうかはわかりませんし、自分に役立つコマンドがいつ用意されるのかもわかりません。その点で、AppleのShortcutsアプリによる自動化の設定は、自分に必要なショートカットを取り入れられる点で、即効性がある可能性があります。

 しかしプログラミングのスキルを要求されることには変わりありません。そこでSiriの登場です。Siriは我々がいつどこでiPhoneを使っているのかという、統計的な情報を持ち続けています。iOS 12でスマホ中毒抑制機能として取り入れられたScreen Timeアプリも、すでにiPhoneが持っている情報を可視化しているにすぎません。

 Siriは我々のスマホ利用の中で頻出するパターンを見出し、ショートカットの提案をしてくれます。もしこれが気に入れば、声のラベルをつけて呼び出せるようにすればいいし、Apple Watchを使っていれば、Siri Watch Faceに的確なタイミングで表示され、すぐに呼び出せるようになります。人工知能そのものの機能を充実させるのではなく、AppleはSiriに、ユーザーの利用動向のパターンを見つけ出す役割を任せているのです。

 そこでAppleの姿勢は、人のために人工知能が働く、という明確な関係を示しています。

 Googleも、人口知能が人の代わりになることを否定していますが、人の能力を次々に取り入れ、すでに人間以上の知識を持つGoogleアシスタントの凄みに圧倒され、また恐怖を感じる声も聞かれるようになりました。AppleはSiriを、そういう存在にしたくないと考えていることがはっきりしたわけです。

 また、これもAppleらしいアプローチですが、Siriを育てることにもアプリ開発者の力を頼りにしていますね。今回のFacebookのF8、Google I/O、WWDC 2018では、特にAI分野における考え方の違いが明らかになった点も興味深いポイントでした。


筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura

mobileASCII.jp TOPページへ