アップルストアの閉店・改装が世界中で相次いでいるワケ

文●松村太郎 @taromatsumura

2018年07月10日 09時00分

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 アップルの新製品を見に行ったり、アクセサリを探したり、製品の修理やサポートを受けたり。iPhoneやMacなどを使っている人にとって、Apple Storeは駆け込み寺であり、また用がなくても立ち寄ってみたい場所となっています。

 日本では、銀座の1号店を皮切りに、東京に合計4店舗、日本全国には8店舗が展開されています。このうち渋谷店は現在一時的に閉店中と案内されており、かつて存在していた札幌店はアップルの小売店のリストから完全に消えてしまいました。

 また、伊勢丹新宿店にはApple Watch専門ブティックがありましたが、2018年4月にApple Store新宿店がオープンしてその役割を終えました。

 アップルは年内に、日本国内で新たに2店舗を開店することをアナウンスしました。日本でも小売店は着実に強化されています。夏には京都にオープンするとうわさされており、残りのもう1店舗は川崎になりそう。いずれも、それらしき商業施設のスペースが確保されていることが、ツイッターなどで話題になっています。

 Apple Store出店強化、そして改装は、世界中で展開されています。先進国の主要都市で印象的なデザインを持つ店舗が作られ、また韓国やオーストリアなど、Apple Store初出店も目立ちます。

 これらの取り組みは、どこへ向かっていくのでしょうか。

■Apple Storeの歴史と、米国での位置づけ

 Apple Storeは世界で500店舗以上が存在しますが、その半数以上は米国内にあります。日本は全国に展開する家電量販店にアップル製品の販売・サポートコーナーを設けることで、販売網の充実ができましたが、米国は基本的に自前の販売店で展開してきました。

 2001年5月、Apple Storeはバージニア州タイソンズコーナー、そしてカリフォルニア州グレンデールの2店舗から出発しました。1997年にCEOに復帰したスティーブ・ジョブズ氏は、販売のテコ入れとして、Macを扱う電気製品チェーンと連携をしていましたが、独自の小売店を整備することでよりよい顧客体験の提供を目指すようになります。

 1999年、ジョブズ氏は小売店創設チームを構築。サンフランシスコ発の世界的カジュアルブランドとなったGAP元CEOのミラード・ドレクラー氏、米国における大規模小売店ターゲット副社長ロン・ジョンソン氏らを招き、クパティーノ本社近くの倉庫内に秘密裏に模擬店を作ってテストしてきたそうです。

 現在の米国の小売店の現状からすれば、Apple Storeは大成功だったと言うべきでしょう。米国の小売店の床面積あたりの売上高は、小さな店で高額商品を扱う宝飾店を上回る成果を挙げています。

 Apple Storeはどんな電器店よりもiPhoneやMacのアクセサリの品ぞろえが良く、オンラインストア史上主義となった米国においても、小売店としての魅力を放ち続けています。筆者の住んでいる街バークレーにも、一番おしゃれなショッピング街に路面店のApple Storeがあります。

 そここからクルマで15分走ったあたり、ピクサーがスタジオを構える海沿いの街エメリービルにもApple Storeがもともとありましたが、こちらは新しいスタイルで新装オープンしました。

 都市圏の中では15~30分程度で店舗にアクセスできるよう整備されており、日本とは異なる身近なお店となっているのです。

 最近でも、おもちゃ専門チェーン・トイザらスの倒産にみられるように、米国の小売業の崩壊はアマゾンをはじめとするオンラインショッピングの影響だと考えられています。

 しかし、現場は異なる視点を持っていました。

 米国の靴を専門とする小売チェーン・フットロッカーは、オンラインマーケティングの一大イベント「Adobe SUMMIT 2018」のセッションで、「アップル、ナイキなどの人気のあるブランドが軒並み直営の小売店を展開したことが、オンラインショッピング以上に最も脅威だった」と結論づけています。ブランドが顧客と直接つながることに、専門の小売店は勝てないといいます。

 そのパワーを早期に見抜き、実践してきた姿がApple Storeそのものなのです。

■新しい店舗デザインとその変化の理由

 現在、日本ではApple Store渋谷が改装中です。また、1号店の銀座店と、最新の店舗となる新宿店では、雰囲気や設備が異なっていることに気づくでしょう。

 新装オープンの店舗や改装中の店舗は、「タウンスクエア型」というコンセプトで作られています。アップルというブランドと人々のコミュニティがつながる街の中の拠点という位置づけです。

 この新しいスタイルの店舗は、サンフランシスコに移転オープンした「アップル・ユニオンスクエア」や、シカゴの河岸に作られた「アップル・ミシガンアベニュー」が象徴的です。

 街のランドマークになるようなデザインと、開放的でオープンな「プラザ」と呼ばれるスペースを用意し、電源やWi-Fiが利用できるようにしています。冬寒く、雪が多いシカゴでは、河岸の階段の床が凍結しないように川の水を使った床暖房を張りめぐらせるほどのホスピタリティが垣間見られます。

アップル・ミシガンアベニュー。河岸の階段も、アップルが整備したもので、床暖房によって冬季でも凍結を防いでいる。(撮影:筆者)

 店内では、イベントを行える大画面を備えた「フォーラム」を生かし、毎日異なるテーマでアップル製品の使い方を紹介する「Today at Apple」プログラムを展開しています。

アップル・ミシガンアベニューで2018年3月に撮影した「アベニュー」。季節ごとに変わるアクセサリのコレクションの展示は、iPhoneケース、iPadカバー、Apple Watchバンドのコーディネートを提案してくれる。(撮影:筆者)

 季節ごとにアクセサリのセレクションを変化させる「アベニュー」、これまでサポートカウンターとなっていた「ジーニアスバー」は、モバイルデバイスの気軽なサポートを実現する「ジーニアスグローブ」へと変貌を遂げました。開発者や地元のビジネス客とのミーティングを行う「ボードルーム」もあります。

 Apple Storeは単なる小売店、ブランドショップから、自然と人が集まり、最新製品に触れたり学び、生活の中でアップルブランドを身近に深く活用して行くコミュニケーション拠点へと変化させようとしています。

 iPhoneが世界中で使われるようになる過程で、いずれ飽和を迎えます。その中でも、iPhoneを使い続け手もらえるようにするために、新しいApple Storeは重要なピースと位置づけられているのです。

 テクノロジー専門ショップだったApple Storeは、テクノロジー、スマートフォンの生活への深い融合によって、ライフスタイルの大きな部分を占める拠点へと変化が求められています。

 昨今世界中で進行する既存店の改装と新装開店の背景は、ブランドとしてのアップルの変化を反映したものといえるでしょう。


筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura

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