5Gスマホはまもなく登場!? MWC Americas 2018で5G開始直前の状況をチェック

文●山根康宏 編集●ASCII編集部

2018年10月02日 10時00分

5Gの話題一色だったMobile World Congress Americas 2018

 毎年2月にバルセロナで開催される世界最大のモバイル関連イベント「Mobile World Congress」(MWC)、そのアメリカ版である「MWC Americas 2018」が今年も9月12~14日までロサンゼルスで開催されました。開催日初日の9月12日にはロサンゼルスのすぐそばのサンノゼでアップルがiPhone XS/XRを発表し、大いに盛り上がりました。ところがMWC Americas 2018の会場ではその新型iPhoneの話題はほとんど聞かなかったのです。

 なぜならiPhone XS/XR発表と同じ日に、アメリカのトップキャリアであるベライゾンが10月1日から世界初の5G商用サービス「5G Home」を開始すると発表したからです。また、ほかのキャリアもベライゾンを追いかけ年末から年始にかけて5Gを開始する予定です。そのため、MWC Americas 2018の会場は右を見ても左を見ても5Gの話題ばかりで、スマートフォン系の端末よりもネットワークの展示が目立っていました。

世界初の商用サービスを始めるベライゾン

 ベライゾンのサービスはインディアナポリス、サクラメント、ヒューストン、ロサンゼルスの4都市で選考開始となります。料金は50ドル/月からで、データ利用料は上限なしの定額とのこと。端末は「5G Home」の名が表すように家庭用の固定型で、ベライゾンのブースには2種類が展示されていました。

ベライゾンの5G Homeは家屋内向けのブロードバンドサービス

 端末はCPEと呼ばれる固定型の宅内通信機器。CPEはアンテナ搭載の5Gモデムというイメージです。メーカーはサムスン電子。サムスン電子は2018年2月に韓国・平昌で行なわれた冬季オリンピックでも5Gタブレットを提供しており、その5Gモバイル端末に引き続きCPEでも世界に先駆けで実働製品を商用化したことになります。

サムスン製の家屋内用5G CPE。スマートフォンのサービスはまだ先とのこと

 ベライゾンが今回提供する5Gは28GHzという高い周波数を利用します。「ミリ波」と呼ばれる周波数で、直進性はありますが障害物に弱いという欠点があります。そのためベライゾンが提供するCPEには屋内に設置して電波を受けるタイプと、屋内に5Gの電波が届かない家屋のために屋外に設置するCPEの2種類を提供します。

室内に5Gの電波が入らないエリアは屋外用5G CPEを利用する。家の外の壁などに設置

 このCPEから家庭内に設置したルーターを接続し、このルーターから改めて有線または無線で室内のスマートTV、IPTVのセットトップボックス、スマートフォン、タブレットなどを接続します。通信速度は理論上1Gbps以上ですが、平均速度は300Mbps程度になるとのこと。これだけの速度が出れば家庭内のネット環境も、もう完全ワイヤレス化することが可能でしょう。

CPEからこのルーターを経由して、室内の機器を接続する

5G、4Gどちらの電波を拾っているかの判別も可能

 なお、スマートフォンは現時点で発売時期は未定とのこと。5GスマートフォンはMWC Americas直前にベルリンで開催された「IFA 2018」の会場にモトローラが5G対応の「5G Mod」を取り付けた「moto Z3」を展示していました。この5G Modはベライゾンの28GHzの5Gに対応しており、ベライゾンの5Gネットワークが拡充次第投入される予定です。スマホでギガビット通信も早ければ年明けには実現しそうです。

ベライゾンの5Gに対応するmoto Z3+5G Mod。おそらく年明けに販売される

 ベライゾン以外のキャリアも2019年サービス開始予定の5Gのデモや展開説明を行なっていました。ソフトバンクグループのスプリントは2019年上半期にアトランタ、カンサスシティー、シカゴ、ダラス、ニューヨーク、ヒューストン、フェニックス、ロサンゼルス、ワシントンDCでサービスを開始予定。周波数はLTEでも利用されている2500MHz、Band 41を利用します。

ソフトバンクグループであることをアピールするスプリントブース

 なお、スプリントはLGと協業で2019年に5Gスマートフォンを展開予定ですが、会場には製品やモックアップの展示はありませんでした。スプリント関係者によると5Gの開始直後からスマートフォンを投入する予定で、来年を楽しみにしてほしいとのことでした。

2019年に5Gを開始する都市。最初からスマートフォンを投入予定

 そしてT-Mobileは同じく2019年に5Gを開始しますが、こちらは600MHzという低い周波数を利用します。ベライゾンが採用するミリ波と異なり、電波の到達距離は短いものの障害物を回り込むことができます。そのため都市などビルの密集地帯では少ない基地局数で5Gエリアを拡充できまず。

 T-Mobileも5Gサービス開始と同時にスマートフォンを投入する予定とブース担当者は話していましたが、はたしてどのメーカーから製品が出てくるか楽しみなところです。

T-Mobileは600MHzを採用。スマートフォン向け5Gサービスに最適な周波数だ

 ところでアメリカではこのスプリントとT-Mobileの合併交渉が進んでいます。アメリカの通信キャリアの加入者シェア数でそれぞれ4位、3位の両社ですが、合併すれば1位のベライゾン、2位のAT&Tに匹敵する規模のキャリアとなります。しかし、重要なのは加入者数ではありません。合併により両社は5Gの周波数を共有でき、より多い帯域を確保できます。

 5Gでは複数の周波数を束ねて利用するキャリアアグリゲーションは基本性能となるため、どれだけの周波数帯域を持てるかが競争力につながります。両社の合併でキャリア間の競争が失われ、料金が値上がりするという懸念の声も聴かれますが、アメリカ全体の5Gサービスを加速化するためにはむしろ2社の合併は必須と言えます。

5Gで巻き返しを図る両社の合併動向に注目が集まる

 これだけ5Gで盛り上がっているのであれば、会場のどこかに5Gのスマートフォンやタブレットの試作モデルが展示されているのでは? と期待したのですが、残念ながら目新しい端末を見つけることはできませんでした。韓国のキャリア、KTのブースには平昌オリンピックで利用されたサムスン電子製の5Gタブレットが展示されていましたが、ショーケースの中に置かれ動作しない状態でした。

サムスン電子の5Gタブレットは2月に韓国でテスト利用されたもの

 また、インテルが2月のMWC 2018で展示した5Gモデム内蔵の2in1 ノートPCも見つけましたが、こちらもショーケースの中に入れられた状態で触ることはできませんでした。実際に5Gの試験電波を飛ばして動画のストリーミング配信のデモを行なっていましたが、通信速度などの情報は非公開。年明けのCES 2019あたりで商用化端末が出てくることに期待したいところです。

インテルの5GノートPCを使ったストリーミング配信のデモコーナー

 もはや5Gは遠い未来の夢の技術ではなく、すでに商用化が始まる現実のサービスとして、これから世界各国で展開が始まります。2019年になれば大手メーカーから次々に5Gスマートフォンも登場するでしょう。まだ気が早いのですが、来年9月に発表されるiPhoneが5Gに対応する可能性に期待しつつ、5Gの商用化の動向を見守りたいところです。

5Gスマートフォンの登場が待ち遠しい

山根康宏さんのオフィシャルサイト

「スマホ好き」を名乗るなら絶対に読むべき
山根博士の新連載がASCII倶楽部で好評連載中!

 長年、自らの足で携帯業界を取材しつづけている山根博士が、栄枯盛衰を解説。アスキーの連載「山根博士の海外モバイル通信」が世界のモバイルの「いま」と「未来」に関するものならば、ASCII倶楽部の「スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典」は、モバイルの「過去」を知るための新連載!

 「アップルも最初は試行錯誤していた」「ノキアはなぜ、モバイルの王者の座を降りたのか」──熟練のガジェットマニアならなつかしく、若いモバイラーなら逆に新鮮。「スマホ」を語る上で絶対に必要な業界の歴史を山根博士と振り返りましょう!

→ASCII倶楽部「スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典」を読む

ASCII倶楽部は、ASCIIが提供する会員サービスです。有料会員に登録すると、 会員限定の連載記事、特集企画が読めるようになるほか、過去の映像企画のアーカイブ閲覧、編集部員の生の声を掲載する会員限定メルマガの受信もできるようになります。さらに、電子雑誌「週刊アスキー」がバックナンバーを含めてブラウザー上で読み放題になるサービスも展開中です。

→ASCII倶楽部の詳細はこちらから!

mobileASCII.jp TOPページへ

mobile ASCII

Access Rankingアクセスランキング