松村太郎の「西海岸から見る"it"トレンド」

社会はどこまで効率化にあらがえるか? (1/2)

文●松村太郎(@taromatsumura) 編集● ASCII編集部

2018年10月30日 19時00分

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 先週、プライベートライティングについて触れました。やはり打ちやすいキーボードと、正確なタイピングが重要と言いつつ、誤変換をTwitterでご指摘いただいて、なんともお恥ずかしい限りです。

 今回はそのキーボードの話題です。

従来のiPad Pro用のSmart keyboardは、まだ突起のあるキーなのですが、これも今後どうなっていくでしょうか?

どんどん薄型になっていくキーボード

 時折話題にしていると思いますが、私は14年ほどのキャリアの多くの時間をHHKBシリーズで過ごしていました。学生の頃からMac向けの「Lite」というモデルを使い始め、お金が貯まってきたらProfessionalを手に入れて愛用しています。

 しっかりとした打鍵感と深めのストロークは、キーボードを叩いているという感覚がより感じられ、個人的には好きな体験です。その一方で、できるだけどんな道具でも使いこなせるようにする、という個人的な趣味もあり、MacBook Proも、Surface Goも、iPad ProのSmartKeyboardも、どれでもきちんとタイピングできるようにしています。

 以前この連載で、だんだんキーボードの厚みが減っているという傾向についてお話ししました。以前深かったキーボードが、さまざまな理由でだんだん薄くなっていき、iPadのようなタブレットや特にスマートフォンの場合、ガラス面に触れるだけなのですでにストローク0mmのキーボードで1日に数千文字を入力しているのです。

 ガラスの上を指で動かしても、打鍵感がないじゃないかと言われるかもしれませんが、Appleはそこにも取り組んでいます。TapTic Engineというバネがビヨーンとはじかれるような感触フィードバックのインターフェイスを内蔵するデバイスが増え続けています。

 たとえば、MacBook Proのトラックパッドや別売のMagic TrackPadは、上下にまったく動かないガラスの板ですが、指で圧力をかけると感触フィードバックが返ってきて、まるで押し込んで物理的なスイッチが作動したような感覚を覚えます。iPhoneにも3D Touchとして、押し込む動作が採用されました。ただ、今年のiPhoneの販売の中心になるであろうiPhone XRからは、圧力検知は省かれましたが、HapTic Touchとして感触フィードバックは残されています。

 今、実はAppleのイベントのためにニューヨークに向かう飛行機の中でこの原稿を書いていますが、iPadにもTapTic Engineが内蔵され、タイピングに対して感触フィードバックを与えるようになったら、おそらくiPadのバーチャルキーボードの使い勝手は劇的に変わるはずです。密かに期待しているのですが、どうなるでしょうか。

「なんで効率の良いものに合わせて自分をアップデートしないんだ?」

 シリコンバレーの稼ぎ頭はプログラミングができるエンジニアであり、彼らの主たるインターフェイスはキーボードです。筆者のような文章書きは、腱鞘炎気味になってきたり、ガングリオンという手首のこぶが膨らんでくると、音声入力を多用して、手首の動きを休ませても仕事にならないことはありません。ただ、プログラミングはまだまだ音声では効率が悪そうです。

 そのため、キーボードはわりと共通のトピックになりやすいのです。そのなかで意外なほど、薄いMacBook Proのキーボードに支持が厚いのです。その理由は、薄い方が押し込む距離が短くて、効率が良いでしょう、という話です。

 イヤ、確かにそうではあるのですが、効率が良いのと使いやすいのは別じゃないか、と思ってしまします。ただ、そういうことを言うと「そこがダメなんだよ」と呆れられてしまいます。彼らは真顔で、「なんで効率の良いものに自分をアップデートして、メリットを最大化しないんだ?」と疑問を投げかけてくるのです。

 確かに、移動、時間の使い方、働き方、生き方に至るまで、シリコンバレーでは効率の良いものを進んで採用して最適化し、ライフスタイルを変革させる風景を何度も見てきました。それらよりも圧倒的に回数の多いキーボードの打鍵を、効率の良い方法に最適化しない道理がありません。

 いや、しかし……。読者の皆さんもそう言葉を詰まらせるかもしれません。筆者だっていつもそうです。その一方で、じゃあどれだけ効率的なことが良いのだろう? と試してみたくなる自分もいます。ダメなら戻せばいいのだし、別にダメから嫌いになる必要もありません。ただ、知らないことが一番悪だ、そう思うようにしています。

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