アップル株急落の理由 iPhone販売台数なぜ非公表に?

文●松村太郎 @taromatsumura

2018年11月13日 09時00分

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 アップルは米国時間11月1日、2018年第4四半期決算(7〜9月)を発表しました。売上高は前年同期比20%増となり、日本の37%増をはじめとするあらゆる地域での売上高の増加を果たす好決算となりました。

 しかし、アップル株は決算発表を受けて時間外で230ドル以上の水準から急落。その後3営業日も下落が続き、8月に達成していた時価総額1兆ドル、株価200ドルなど、節目となる数字を次々と割り込んでいきました。

 また、2018年の本命とも言われているiPhone XRの増産計画にストップがかかっているというニュースも波紋を広げています。アップルの業績と見通しについて、どのような見方をすればいいのでしょうか。

 あらためて決算の数字を見ていきましょう。

 売上高は629億ドルで前年同期比20%増。1株あたりの利益は前年同期比41%増となりました。低迷が続いていた中国市場は16%の売上増、その他の地域でも2ケタ成長を果たしており、総じて良好な決算だったと振り返ることができます。

 成長を牽引しているのは引き続きiPhoneです。

●iPhoneが好調だった9月期決算

 iPhoneは4688万9000台を販売し、前年から1%未満の増加でした。一方、売上高は371億8500万台に到達し、29%の増加。カラクリは「より高いiPhoneが売れている」という意味で、1台あたりの販売価格は昨年の618ドルから724ドルへと大幅に上がっています。iPhoneの売上高は9月期としては過去最高だったと、ティム・クックCEOは決算発表の電話会議で述べました。

 続いてiPadは1000万台を割り込む969万9000台で前年同期比6%減、売上高は40億8900万ドルで、こちらは15%減でした。349ドルで販売している廉価版のiPadが好調ながら、昨年は6月に発表していた新型iPad Proが10月30日の発表までずれ込んでいたことが影響しています。Macは529万9000台を販売し、前年同期比2%減。しかし売上高は74億1100万ドルで3%増加し、Macとしては9月期過去最高の売上高を達成しました。

 アプリ販売やサービス課金を含むサービス部門は99億8000万ドルで前年同期比17%成長。いよいよ四半期100億ドルの売り上げに限りなく近づきました。購読者数は3億3000万人で、こちらも前回発表の3億人から10%増加しています。

 最後にその他の製品。ここが最も成長率が高いカテゴリで売上高42億3400万ドル、前年同期比31%増を記録しました。Apple Watch、AirPodsなどのウェアラブル機器が50%成長しており、引き続き期待が集まる領域と言えます。

 9月期としては過去最高の決算でしたが、発表後に株価は急落しました。理由は来期の見通しが弱気だったことに起因しています。ウォール街の予測では、2019年第1四半期の売上高は93億ドル近辺になると見られていました。

 しかしアップルが出した予測は89〜93億ドル。アナリスト予測が最大値で、下限は2018年第1四半期と同等のレベルにとどまることを意味します。つまりアップルはこれまでのような高成長を予測していないことのあらわれでした。

●株価急落の理由は弱気な見通し

 アップルが厳しい見通しを出した背景として、外部環境からは米ドル高と消費者信頼指数の低下が挙げられます。

 米国外での売り上げが6割以上を占めるアップルにとって、米ドルが他の通貨に対して強くなっていくことで、現地での販売価格の上昇や、収益を米ドルに直した際の目減りが起きます。一部新興国では通貨危機に近いレベルでの下落が見られ、そうした不安は米ドル高を強化するのです。

 また市場環境悪化の見通しにより、高額化したアップル製品がこれまでのように売れていかないと考えている点も興味深い指摘でした。裏を返せば、2018年までに高付加価値化を終え、売上高を最大化できる期間にすべりこんだと見ることもできます。

 こうした見通しに加え、もう1つ考えられるのが販売台数の非公表化です。2019年以降の決算では、これまでのように個別製品の販売台数を決算で発表しないという方針を述べたのです。「iPhoneが3ヵ月で数千万台売れた」というような指標は、来年以降決算発表からは得られなくなることを意味します。

 深読みすれば、アップルは今後、決算発表でアピールしてプラスの材料になるような販売台数の数字を用意できない、と考えているということです。そうした見通しをポジティブにとらえられないのは当然で、結果として株価の急落というショック反応が見られました。

 ただしアップルは販売台数を発表しないとする方針について、「販売台数が業績を反映しなくなった」との説明を加えました。

●販売台数非公表は驚くことでもないかも

 たとえばiPhoneの場合、449ドルのiPhone 7から、512GBモデルのiPhone XS Max 1499ドルまで、1000ドルの開きがあるラインアップを用意しています。Macに至っては、799ドルから1万4000ドルまでのレンジです。しかし販売台数はどちらが売れても1台のカウント。もはや意味を持つ数字ではなくなった、というのがアップルの言い分です。

 しかし、やはり発表しなくなる背景には、今後アップルの業績を引っ張っているiPhoneの販売台数が下落を続けることを予測してのことだと思いました。スマートフォン市場全体は8%程度の下落に転じているため、何もアップルだけの話ではありません。むしろアップルはここ数年、販売増もしくは維持をよく続けてきた方だと思います。

 また、販売台数を追求しないという姿勢は、その他の面でも現れています。アップルは9月のiPhone発表会で、iPhoneをより長持ちさせる施策をアピールしました。最新のiOS 12は、5年前のiPhone 5sでも動作し、アップルが売りにしているARアプリは4インチのiPhone SEでも動きます。急いで買い替えなくてもいいというメッセージは、販売台数を追求する従来の指標と矛盾するものでした。

 世界のスマートフォン市場の下落、アップルの「長持ち」という環境対策との整合性を考えても、販売台数を発表しない方針はさほど飛躍したアイデアではないのです。


筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura

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