スマホ分離プラン 国の危険な主張

文●石川温

2018年11月26日 16時00分

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 11月19日、内閣府に設置された規制改革推進会議が「規制改革推進に関する第4次答申」を取りまとめ、安倍晋三総理大臣に提出した。そのなかで、モバイル(携帯電話)市場の競争環境についても触れられ、端末代金と通信料金の「完全分離」を促すよう整備すべきだと記されている。

 この「完全分離」がスマホ業界に波紋を広げている。

 某海外メーカー担当者は「完全分離が導入されたら、日本のスマホ市場は崩壊しかねない」と懸念する。日本でスマホが普及した背景にあるのは、「実質0円」やキャッシュバックによって、端末代金の負担を感じることなく、ハイスペックなスマホを手に入れられたという背景が大きい。

 完全分離が徹底されれば、端末代金に対しての割引は一切なくなり、新しく機種を買う際には、端末代金そのままの値段で購入しなくてはならない。10万円以上するような機種であれば、購入に尻込みし、いままでの機種を使い続けるあるいは、安価なスマホで我慢するという人が増えるだろう。

 政府としては、通信料金と端末代金を完全に分離し、端末への割引をやめさせる代わりに、その原資で通信料金を値下げさせ、菅官房長官が掲げる「4割値下げ」を実現しようという腹づもりなのだろう。

 しかし、一般的なユーザーが「完全分離」を求めているのか、はなはだ疑問なところもある。

●完全分離プランは一般消費者にとってハードルが高い

 大手3キャリアはこれまで、端末代金と通信料金をセットにして、端末代金を2年間、割り引きにするというプランが一般的だった。一方、格安スマホを展開するMVNOは、当初はSIMカードだけを提供するというのがビジネスモデルであった。

 「端末は家電量販店でSIMフリースマホを調達してください」、あるいは「アップルの直営店でSIMフリーiPhoneを購入してください」、さらには「今まで使っていたスマホのSIMロックをはずしてうちのSIMカードで使ってください」というビジネスモデルだ。

 しかし、最近はMVNOもさまざまなスマホを取り扱い、端末とSIMカードのセット販売をするところが増えた。今では端末とSIMカードのセット販売が主流になりつつある。

 たとえばUQモバイルでは、端末とSIMカードのセット販売が全体の7割を占めている。しかも「マンスリー割」という割引が適用されていることもあり、端末とSIMカードのセットが選ばれているというのだ。

 IIJにおいても「最近は端末とのセット販売が好調であり、収入を増やす要因になっている」(同社幹部)という。IIJは法人向けMVNOサービスに比べて、個人向けMVNOサービスの新規契約獲得が伸び悩んでいる感があるのだが、端末販売の割合が増えていることもあり、収入は増加している。ちなみに、IIJは現金での割引はないが、1万円のAmazonギフト券がもらえるなどの販促を実施している。

 MVNOが端末ラインナップを増やすのは、SIMカードだけを提供するだけではユーザーが契約してくれないという事情がある。

 あるMVNO関係者は、

 「一般的なユーザーには、自分のスマホのSIMロックを解除してSIMカードだけをMVNOと契約するのはハードルが高すぎる。そもそもSIMロック解除できる機種なのかを調べなくてはならないし、SIMロックを解除しても他キャリアのネットワークできちんと動くかの動作確認もウェブページで調べる必要がある。知識のないユーザーを取り込むには、端末と対応するキャリアを増やしたほうが確実だし、お客さんにも優しいはずだ」

 と、本音を語る。

●格安SIMと格安スマホをセットにした方が契約しやすい

 ここ最近、NTTドコモのネットワークだけでなく、KDDIやソフトバンクの回線を借りて格安スマホのサービスを手がけるところが増えてきた。

 IIJや楽天はNTTドコモに加えてKDDIを取り扱い始めたし、NTTドコモとKDDIを取り扱っていたmineoは、ついに3キャリア目として、ソフトバンクも手がけるようになった。

 前出のMVNO関係者は「ユーザーにSIMロックを解除をお願いするくらいなら、対応キャリアを増やし『これまで使っていたスマホをSIMロック解除しなくても、そのまま使えますよ』と手を差し伸べたほうが手っ取り早い」と語る。

 まさに、mineoは、誰が契約しに行っても、そのままのスマホが使えるわけで、知識がない人でも格安スマホにデビューしやすいというわけだ。

 2014年にイオンが当時、市場で売れ残り、どこかの倉庫で眠っていたNexus 4と、日本通信のSIMカードをセットにして販売したところ「格安スマホ」として、この市場が一気に花開いたということがあった。

 もちろん、当時も日本通信がMVNOとしてSIMカードの販売を手がけていたが、一部の人たちが、SIMフリーのスマホを別途購入して、組み合わせて喜んで使っていただけに過ぎなかった。

 一般の人が気軽にスマホを使おうと思ったら、SIMカードと端末をセットにして、何も考えずに使えるほうがありがたかったりする。

 もちろん、完全分離で、通信料金は徹底的に安く、端末も、自分で好きな物を使いたいというニーズもあるのは間違いない。

●完全分離プラン導入には慎重な議論が必要だ

 政府の主張が危険なのは、イチかゼロの結論しかなく、完全分離しか選べないような雰囲気を作ろうとしているところだ。答申書には端末と通信料金のセット販売に関する記述もあるが「完全分離で通信料金を安くしろ」という主張が強いようにも見える。

 はたして、完全分離の導入が、本当に今のスマホ業界の問題を解決する完璧な回答と言えるのか。慎重な議論が必要だろう。


筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ)

 スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)など、著書多数。

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