アップルが「米国製iPhone」を出す日は来るか

文●松村太郎 @taromatsumura

2019年02月07日 16時00分

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 トランプ政権は米国第一主義を掲げ、製造業の復興を主なターゲットとしています。世界の製造拠点の役割を一挙に引き受けてきた中国との貿易不均衡に着目し、関税で中国経済を締め上げながら、米国やその他の国の企業に対して米国内での製造の経済合理性を作り出そうとしてきました。

 トランプ大統領は当選前から、分かりやすいゴールとして「世界で最も知られている米国企業の製品であるiPhoneを米国内で製造すること」を掲げてきました。トランプ政権になって2年が過ぎましたが、今のところアップルから、そのゴールに対する答えは出されていません。

 代わりに、トランプ政権は法人減税や、米国外に滞留する資金を環流しやすくする優遇を与えました。アップルの決算書類を見ると税率が25%前後から15%前後に落ちていて、優遇の恩恵にあずかっていることがわかります。

 一方でアップルは米国内でiPhoneを作るという話については答えを出していませんが、米国の製造業を盛り立てて雇用を作り出す活動はアピールしています。

 先端製造業ファンドを作り、光通信製品のフィニサー(Finisar)やガラス製品のコーニング(Corning)といった企業に投資をしたり、二酸化炭素の代わりに酸素を排出する新しいアルミ製造方法に投資をするといった活動です。

 最新の数字では、アップルは2018年に、米国のサプライヤーに対して600億ドルを支出し、これは前年と比較して10%増加したとしています。また45万人の雇用を支えたとも報告しました

●iPhoneさらに値上がりの可能性

 しかしトランプ大統領は「米国製造業への投資は当然」としか扱わないかもしれません。依然として、世界最大規模の収益力を誇る電子機器であるiPhoneは中国で作られ、米国に輸入されているのです。

 今回の米中貿易戦争はテクノロジーや知的財産(IP)の覇権争いといった背景も読み取れるため、単純な貿易不均衡だけがテーマとも言いきれません。

 しかし、他の問題が解決されなければ、中国からの輸入品に関税がかかることになり、アップルは米国内での販売に大きなマイナスの影響をもたらされることになります。すなわち価格の上昇です。

 ティム・クックCEOは2019年第1四半期決算の電話会議において、iPhoneの販売不振には「価格の問題」がある点を認めています。主に米ドルの上昇によって、米国以外の国でのiPhoneの価格上昇を原因だとしていますが、米国でのiPhoneの価格が上がれば、さらに販売が抑制されてしまいます。

 それを避けるため、iPhoneは上位機種についてもインドでの生産が検討されていると報じられるようになりました。米国内にiPhoneの製造が移されるわけではありませんが、対中関税を当面避けることができる、というわけです。

 一方、iPhoneの米国製造への移行をトランプ政権が大きなゴールとしたことは先述の通りですが、アップルとしては現実的ではないと考えているはずです。それを裏づけるようなエピソードがThe New York Timesによって報じられました。

●米国ではネジすら作れない?

 「小さなネジが、なぜiPhoneが米国で組み立てられないのかをあらわしている」という記事です。

 2012年にティム・クックCEOは、Mac Proを米国内で製造することを発表しました。これまでアップル製品には「Designed in California, Assembled in China」と書かれていましたが、このAssembled(組み立て)の国がUSAになると話題になりました。ところが工場では、Mac Proに用いるネジを米国内から見つけることに難儀したというのです。

 中国ではカスタマイズされたネジであっても、短い期間で十分な数を作って調達することが容易です。しかし米国ではそれができなかったというわけです。Mac Proの出荷が遅れたのは、他にも問題がありましたが、ネジが足りないことが理由の1つだったとThe New York Timesは指摘しています。

 アップルは年間2億台のiPhoneを製造してきました。米国向けだけでも5000〜8000万台の製造能力は確保しなければなりません。ネジの不足に悩む米国でこれを実現できるとは到底思えないわけです。しかもMac Proは2013年からの5年間アップデートされていませんが、iPhoneは毎年アップデートされています。

 アップルは、現実と、トランプ大統領の曲げないゴールに、どう折り合いを付けていくのか、非常に興味のあるテーマです。


筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura

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