新しい形の“未来のお金”は日本でも社会を変えるのか?

文●松村太郎(@taromatsumura) 編集● ASCII編集部

2019年03月14日 12時00分

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まだまだ混迷化が進む
日本のキャッシュレス決済とポイントサービス

 本連載でも、日本のポイントカード武装や電子マネーの話にも何回か触れてきました。それとは別に、この話題は友人や出会う人に色々とお話をうかがうようにしています。

「Next Generation Bank and Beyond」というイベントで中国やインドにおけるキャッシュレス決済から始まった社会の変化を知りました

 自分の近所のポイントカード事情を鑑みて、1種類のメインを決める方法、楽天経済圏に入る人、取りあえず全部集めて航空会社のマイルにつぎ込む人、そして買う店を決めないから一切集めない人、ポイント還元率(と年会費)でトクするクレジットカードを持つ人……。今のところ、だいたい5つのパターンに分かれています。

 いずれのパターンにも、その行動を選ぶ理由の根底には「面倒くさい」という問題が隠れていますし、そう言われれば筆者もうなずかざるを得ません。「ポイントカードって財布がかさばる」「お会計がスマートじゃない」「ポイントカードの有無を聞かれる会話が無駄」「使える店かどうかがわからない」「オトクの価値が店によって違う」など……。

 確かに、店頭に貼ってある利用できる決済の案内シールもどんどん巨大化し、そこに印刷されているロゴは小さくなっています。「ああ、いつものパターンね」と思っていたら、それでも自分が集めているポイントが使えなかった、なんてこともあるのです。

 個人的には、ポンタが現状最もユーザーの利便性を考えているポイントカードだと思います。Apple PayにiDかQUICPay、Suicaのいずいれかをセットしておくと、iPhoneをかざして決済すると同時にポンタカードが読み込まれる仕組みになっています。すでに「かさばる」「会計のスマートさ」という問題は解消されています。しかしこれは意外と知られていなかったりしていて、Appleもポンタももうちょっと知ってもらう努力が必要かもしれません。

世界における“未来のお金”の現在を見る

 日本のポイントカードの話が些末に聞こえてくるほど、世界ではお金にまつわるイノベーションが巻き起こっています。未来のお金と聞くとビットコインのような仮想通貨を思い浮かべる方もいるかも知れません。中央集権的な支配とは異なる仕組みで運営されている「仕組み」の面で、先進国からすれば未来の仕組みと言えるでしょう。いや、タイミングによって価値が大幅に変化する財布(=仮想通貨相場)って、未来過ぎると思うわけですが。

 しかしテクノロジーをベースとした未来のお金の現在をみると、ビットコインはややインパクトに欠けます。もっと巨大な動きが起きているからです。

 2月23日、東京・原宿にあるWeWork Icebergで、「Next Generation Bank and Beyond」というイベントが開催されました。元WIRED編集長で現在黒鳥社で活動する若林 恵さんの責任編集で発行されたムック、「Next Generation Bank」から発展したイベントで、中国やインドで起きているお金にまつわる変革について詳しく紹介される貴重な機会でした。

 日本ではバーコード決済という新しい手段と気軽に考えられているかもしれませんが、中国のアリペイは芝麻信用(ジーマクレジット)という信用度の点数制のインフラを持つなど、決済手段以上の意味合いを帯び始めています。またインドではIndia Stackと呼ばれる戸籍と銀行口座などを統合した巨大データベース&API群によって、登録人口12億人という世界最大の巨大な行政システムが急速に構築されました。

 未来のお金といっても、紙幣や硬貨が電子化されるインターフェイスだと不十分です。金融システム、あるいはお金を用いて活動するあらゆる仕組みが変わらず、「デジタルラッピング」(デジタル化によって既存システムを包み込む)が起きているに過ぎません。そして、アリババは商取引のデジタルラッピングを推進することで、アリペイは2017年の決済金額500兆円以上、利用者7億人を数える規模になりました。

 インドの場合も、政府が出す補助金が必要な人にきちんと行き渡らない、という問題を解決するため、スマートフォンと生体認証で、戸籍と銀行口座の仕組みを構築し、問題を解決しています。お金はあくまで人々の日々の生業の中で優先度の高いテーマであって、実際に進んでいることは、個人に紐付く社会インフラの急速な構築だったのです。

結局のところ、便利じゃなければ行動は変わらない

 ここで注目したいのは、アリペイにしてもIndia Stackにしても、人々のお金にまつわる問題が解決されて便利になる点が、強烈なインセンティブになっているという点です。アリペイはお互いの信用が低い、中国におけるEコマースの取引に利便性とスピードを与えました。India Stackは、都市ではシリコンバレーの巨大プラットフォーマーに決済インフラを握られることを阻止し、一方の農村部では確実に補助金が受け取れるというメリットがあります。

 翻って、日本の電子決済やポイントサービスには、そうした便利さや強烈な動機があるでしょうか。たとえば消費税の還付が議論されていますが、これは使うインセンティブになり得るでしょう。しかし店舗側・客側の双方の便利さが伴わなければ、今までの日本の役所などの手続きと同じように「やらされている感」が強まります。

 理想的には、取りあえずスマホによる1タッチで決済から手続きまでが済んでいることが理想なのですが、あれだけプレイヤーが多様化している電子決済とポイントサービスの状況では、その理想の形が当事者に見えているのか心配になります。


筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura

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