●ハロー効果も狙っていくか
アプリ活用にiPhoneが前提ではなくなるということは、Androidユーザーにも、Apple Watch活用の可能性が開けることを意味します。
たとえば、Android向けにApple Watchアプリを用意してペアリングや設定のサポートができるようにすればいいだけです。実際アップルは、Apple Musicや環境教育アプリなど、いくつかのAndroidアプリを既にリリースしており、全くありえない可能性ではないのです。
同様の前例に、デジタルミュージックプレイヤー、iPodがあります。
iPodは2001年登場当初、Mac専用の音楽プレイヤーでした。Mac向けのジュークボックスアプリ「iTunes」とペアリングして音楽を転送する仕組みだったため、Windowsからは利用できなかったのです。
その後アップルは2002年7月に第2世代のiPodを登場させ、Windows向けiTunesを用意し、iPodをWindowsに対応させました。こうしてiPodはMacユーザーに限らず、爆発的なヒットとなりました。
Apple Watchにも、その戦略が活用できる可能性がある、と踏んだかもしれません。MacとWindowsをiPhoneとAndroidに見立てて、Apple WatchをAndroidに対応させることで、Apple Watchの販売をより拡大させようというアイディアです。
iPodにはいくつかの神話が実証されており、おそらくデザイン思考もその1つと筆者は解釈していますが、もう1つマーケティング上の話として「ハロー効果」があります。iPodの売り上げによってApple Computer(当時)への関心や認知が増し、Macの売り上げに貢献するというものです。
当時のMacと現在のiPhoneでは、認知や売り上げの面でiPhoneが存分に優位な状況にはありますが、市場が飽和しAndroidからユーザーを奪うしかないスマートフォンの現状を考えれば、Apple WatchをAndroidに解放して、ユーザーをiPhoneに連れてくるハロー効果を活用する戦略は、悪くない話だと思いました。
現在までのApple Watchアプリの活用度合いはさほど高くなく、App Storeの提供が劇的な変化をもたらすとは筆者は考えていません。ただ、Watch App Store設置によって実現できるApple WatchのAndroid対応は、大いに魅力的だ、と考えています。
筆者紹介――松村太郎
1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。
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