Google Glassの対抗馬としての注目のTelepathy Oneを体験

文●ASCII.jp編集部

2013年05月17日 14時00分

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Telepathy Oneは非常にシンプルでファッショナブルなメガネ型デバイス。Google Glassとのデザインの差は歴然か?

 ゴールデンウィークからの1週間、1冊の電子書籍を作っていました。普段文章を書いているITの内容ではなく、趣味のコーヒーについて。サンフランシスコを含む米国西海岸沿いは「サードウェーブ」と呼ばれる新しいコーヒーカルチャーが発達しており、日本でも雑誌などでも注目を集め始めました。これについて1年間体験してきたことをまとめた1冊となります。

 本の中身とその編集過程に関して、詳しい話は次回の原稿で触れる予定ですが、本を1冊仕上げるための労力というのは大変なもので1週間缶詰になってしまいましたが、無事に出版することができました。最新コーヒーカルチャーに至るまでの歴史や、サンフランシスコを訪れた際のカフェ巡りに役立ちますので、ご興味ある方はぜひ(http://l.ta6.me/thirdwavebook)。

 そんな缶詰になる直前の日曜日、シリコンバレーのお家のディナーに招待を受けまして、そこで1つの未来を体験してきましたのでご紹介しましょう。

ウワサのメガネ型デバイス「Telepathy One」をかけてみた

 かつてケータイによる独自の発展を遂げた日本は、カラパゴス化と揶揄されるとともに、スマートフォン化の時代に一歩乗り遅れました。しかし、やっと最近アプリ面でもキャッチアップし、そのセンスを発揮し始めています。AppleやSamsungなどの海外勢に押されているデバイス面でも、フィーチャーフォンの時代から機能やデザイン、電池の効率、ユーザビリティーのアイディアなどは非常に先進的でした。

 こうしたハードの光る技術でもう一度世界を狙おうとしているのがTelepathy Oneです。チームを率いるのは、ARアプリ「セカイカメラ」でおなじみの井口尊仁氏。井口氏の新しい会社であるTelepathyが、ウェアラブルデバイスを世の中に送り出すべく、立ち上がりました。

 Telepathy Oneをかけて、右目の前にフレームを合わせると、映像が見えてきました。始めは少し位置合わせにコツが必要でしたが、一度見方が分かると、「自然に視界の中にディスプレイが浮かんでいる状態」として定着してきます。

デザインや技術には日本らしさがふんだんに盛り込まれており、“辺境”から世界を変える勢いを感じる

 デモではTelepathy One用のAndroidアプリ、「漫画カメラ for Telepathy」を用いた拡張現実の体験を楽しむ事ができました。Androidデバイスのカメラの映像をリアルタイムで受信して漫画のようなエフェクトを通して目の前のディスプレー、もとい、目に直接映し出しており、ハンズフリー、ディスプレイフリーで程よく現実世界とARが混ざった「視界」が作り出されていました。

 またスマートフォンのカメラは自在に他の方向を向けることができ、自分が向いていない視点の映像を、自分の目の前の映像に重ねて見る体験を楽しむこともできます。このときは自分でカメラを上下左右に動かしていましたが、まったく別の人の映像がここに入ってくることを想像すると、その情報量やコミュニケーション、あるいは時間軸が多重化されるようになるのだろう、とぼんやり考えながら過ごした時間は心地よいものでした。

 視界の一部に画面があり、別のリアルタイム映像が映し出されているという状況自体が初めてでしたが、慣れと用途次第で「当たり前の風景」として定着する可能性を十分に感じることができます。

Telepathy Oneを体験。非常に自然に、視界の中にディスプレー生まれる。Google Glassよりも視界を遮るモノが小さいのも特徴

Google「お前ら、コンペティターだからな」

 Googleが発表したメガネ型デバイス「Google Glass」は、よい企画を出した開発者向けの販売がスタートしています。Google本社があるマウンテンビューまで取りに行くという条件ですが、未来に触れられるとあれば、それは本社まで行きますよね。早速着用禁止などのルール整備に対する議論も始まり、新しいデバイスを技術者、社会が受け入れるきっかけとして注目しています。

 そんなGoogleのコンペティターとして内外のメディアで大きく採り上げられたのがTelepathy Oneです。3月にテキサス州オースティンで開催されたSXSWで発表したこのデバイスは、Google Glassが急にダサく見えるほど、端正でクールなデザインと称賛され、メガネ型デバイスの話題を独占するはずだった帝国Googleに一矢報いたと言ってもよいでしょう。

 それはGoogleとしても面白くありません。「競合だから」と言われたとチームを率いる井口氏はエピソードをふりかえりつつ、「競合ともコミュニケーションを取って、切磋琢磨する寛容さ、オープンさはシリコンバレーならではの魅力」と語り、Googleとの対決も楽しもうとしている様子でした。

Google、Appleが作るトレンドの中で

 スマートフォン以降のコンピューティング環境は、GoogleとAppleによってその多くが定義され、市場化され、そして彼らがマジョリティーとなっています。ソーシャル分野にはFacebookが、クラウド分野にはAmazonがおり、MicrosoftやOracleなどとともに、世界のITがシリコンバレー周辺で動いています。

 Telepathyはそうしたシリコンバレーで存在が知られたことのメリットをビジネス面やファイナンスの面で最大限に生かそうとしていますが、「日本発」のアイディアと技術にこだわる姿勢も崩していません。井口氏は「シリコンバレーに来てから日本を褒める言葉しか聞かない」と指摘します。日本にいるとどうしてもネガティブになりがちですが、悲観している様子をむしろもったいないと諭されるほどだと言うのです。

 Telepathyはニューヨークやサンフランシスコで「リアルなソーシャルネットワーク」をコンセプトにコ・ワーキングスペースを展開するWeWorkと組んで、Telepathyを体験したり、開発者とコミュニケーションを取るラボの取り組みを発表し、単なる米国進出ではなく、人のつながりを生かしたスモールネットワーキングを基盤にしようとしていますが、こうしたつながりを作る時にも、日本のクールさは役立っていると言います。

 日本の良さに関する視点は、冒頭でご紹介したコーヒーの本に通じるものがあります。

 サンフランシスコで勃興するクールな最新のコーヒーカルチャーのなかで、コーヒー豆1粒ずつ、ドリップ1杯ずつをていねいに淹れるサービスは日本の喫茶店からの学びが生かされています。またサードウェーブ・コーヒーカルチャーを支える道具は、使いやすさと美しさから日本製がもてはやされているのです。

 技術、デザイン、そしてアイディアと精神性。次のデジタルメディアやコミュニケーションに、こうした「日本性」が入り込む余地は、とても大きいのではないかと、考えています。Telepathy Oneが、こうした日本性とシリコンバレーの架け橋となることに、期待を寄せることができる体験でした。

ウェアラブルデバイス元年となるであろう2013年、日本発の製品が世界にどの様に受け入れられるか、楽しみだ

筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura

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