Amazonで電子書籍の出版を体験! 本の未来について考える

文●ASCII.jp編集部

2013年05月26日 14時00分

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Kindleダイレクトパブリッシングで出版したコーヒーの本。出版の新しい時代が開けようとしている

 日本でも昨年Kindleによる電子書籍の販売が始まり、日本でも本格的な電子書籍普及の契機になりそうです。米西海岸から東京に戻ってきて地下鉄の中を眺めてみると、スマートフォンでは、パズドラ、パズドラ、2ちゃんまとめアプリ、電子書籍、マンガといった感じで時間を使っている様子が見えてきます。

 特に海外に住んでいると、電子書籍でリリースされればすぐに購入できるため、とても重宝しています。ただ、電子書籍のありがたみは新しい本を買うことだけでありません。すでに読んだ本の保存にも重宝するはずです。第10回でご紹介しましたが(関連記事)、海外引っ越し時に処分せざるを得なかった大量の本がデジタルだったら、と今でも悔やまれます。

 電子書籍には、ここにもう1つ新しい魅力が加わっています。それは本を読む立場ではなく、本を書く立場です。KindleやiBooksなどの電子書籍プラットホームは、個人が自分で本を発行することができる機能も備えています。Kindleでは、「Kindle Direct Publishing(KDP)」と呼ばれ、有料で配信する場合は印税を得ることができます。

Kindleダイレクトパブリッシング。ここから電子書籍を出版することにした

Kindle Direct Publishingで出版を初体験

 前回(関連記事)でも紹介した米国西海岸のコーヒー文化について、コーヒーユニット「茶太郎豆央」としてまとめた本「サードウェーブ!サンフランシスコ周辺で体験した最新コーヒーカルチャー」(http://l.ta6.me/thirdwavebook、以下「コーヒー本」)は、AmazonのKDPでKindle向けに発売した書籍です。私自身何冊か紙の書籍は書かせていただいた経験がありましたが、電子書籍向けにゼロから本を作ったのは初めての経験でした。

 電子書籍だからといって、本というコンテンツを1冊にまとめる作業は紙の本と大きく違いませんでした。作業は前後しますが、大まかなプロセスとしては、

●本の企画を考える
●タイトル・章立て、目次を作る
●文章を書く
●ページデザインや体裁
●図版や写真を集める
●校正をする
●ゲラチェック
●カバーデザイン

という工程があります。出版社と一緒に本を出す場合、担当の編集者と議論をしながら全編を見ていき、ページのデザインや構成、カバーデザインなどはその道のプロにお願いすることになります。しかしコーヒー本の場合、カバーデザインはロサンゼルス在住のイラストレーター、高橋杏奈さん(http://www.annatakahashi.com/)にお願いしましたが、それ以外の作業はすべて自分たちで行なわなければなりません。

 特に、文章を書き始める前の目次作りはとても大切な時間となりました。本全体に含める情報やメッセージ、ストーリーの設計図となる部分だからです。書きながら、あるいは取材を進めながら変更したり、順序を入れ替えたりすることはありましたが、始めに設計図を固めることはポイントだったと思います。

どんなアプリで仕上げたか?

 では、書籍をどんなアプリで仕上げていったのでしょうか。この点については非常に楽観的で、Mac向けワープロ・ページレイアウトソフトであるPagesを使えばいいや、と言う程度に考えていました。というのも普段から使い慣れていたPagesにはEPUB書き出し機能があり、そのままKDPにアップロードすることができたからです。

Pagesでのアウトライン編集は、目次作りから本文執筆へとシームレスに移れる

 まずは目次。Pagesのアウトラインモードで作成し、章・大見出し・小見出しという3階層で組みました。アウトラインの作り方はここでは割愛しますが、まず章立てで本全体の流れを作り、章の中に大見出しを、大見出しの中に小見出しを、という手順で掘り下げていきました。その見出しの中に本文を書く、という方法で書き進めました。

 電子書籍でなく長めのレポートを書く際にも利用する事ができるこの手法ですが、結果的には、Pagesで作ったEPUBデータを入稿することはありませんでした。理由は、Aamazonが用意しているプレビューソフト「Kindle Previewer」でエラーが出たことと、そして出来上がったファイルが200MBを越えていたことが原因でした。

 結局、フリーのEPUB編集ソフト「Sigil」にPagesから文章をすべてコピー&ペーストし、再度見出しをつけてファイルを作り直すことにしました。ペーストする際に書式がついていない普通のテキストに戻りますが、構造化された文書だったため、校正をしながら見出しをつけていく作業をしました。

 ちなみにSigilでは、h1、h2といったHTMLでおなじみの見出しをワンタッチでつけていくことができ、見出しから目次を生成するのも簡単です。

結局使うことにしたSigilもシンプルで軽快なオーサリングが可能だ

秘策はInstagramとAutomater

 Sigilで作り直したといっても、画像そのもののサイズは変わりません。ファイルサイズを小さくした方が、ダウンロードして読むまでの時間が短くなります。一方でできればキレイな写真で見せたいと思い、大きめの解像度の写真を使っていましたが、点数も多くなり、とんでもないサイズになってしまいました。解像度や画質を落とせばファイルサイズは小さくなりますが、本の中でディザが出る画像を見せたくないなという悩みもあります。

 見栄えの良さとファイルサイズの小ささを両立するにはどうすればよいか頭をひねりましたが、普段からわざと劣化させた写真を楽しんでいることに気づきました。そう「Instagram」です。フィルターをかけた正方形の写真は、決して画像がクリアというわけではありませんが、雰囲気と情感の伝わる写真に仕上がります。そこで、すべての写真をInstagramで加工して貼り付けることにしました。

 Instagramにアップロードされている写真のダウンロードには、「Instadesk」というMac App Storeのアプリを利用しました。また裏技として、iPhoneを機内モードにして写真を加工しアップロードしようとすれば、Instagramにアップロードされずにカメラロールに加工済みの写真だけが保存されます。1枚ずつInstagramで加工する作業もまた楽しいものでした。

画像の容量削減と見栄えを両立するため、Instagramを使うことに。Instadeskで写真をダウンロードできる

 さらにファイルサイズを小さくするため、Macの標準アプリ「Automater」で、PNG画像をJPEG画像に、1辺を400ピクセルにするという処理を施してSigilへ取り込みました。こうして200MBあったEPUBファイルは7MBにまで小さくすることができました。これは大きな差ですね。

MacのAutomaterでInstagram加工した写真のサイズを整えた

 このようにしてできあがったEPUBファイルをKDPに登録し、3時間ほどでAmazonの店頭で購入できるようになりました。珈琲本の取材活動自体を始めたのはちょうど1年前だったのですが、本にまとめるまでの時間は3週間程度。そんなKDP初体験でした。

こうしてKDPを介して書籍が発行された

紙ならではを感じた2つのメリット
校正作業と周囲の人に見せやすいこと

 ここまで紹介してきたように書籍を作る作業をKDPを使って行ないましたが、非常に手軽でこなれたプロセスだと感じることができました。長い文章をまとめなければならないため、すぐに誰でもできるというわけではないかもしれませんが、無料や短い本など、さまざまなパッケージングが可能で、今までの紙の本のスタイルにとらわれることなくコンテンツをまとめることができるため、可能性が眠っていると言えます。

 今回の本では特に意識しませんでしたが、KindleやiPhone、iPadなどのスマートフォン・タブレットはネットにつながっており、Kindleアプリにもソーシャル連携機能があります。これらをうまく使うというアイディアも面白そうです。

 しかし一方で紙の書籍との違いを感じる点が2つありました。

 1つは校正作業。紙の書籍の場合、レイアウトをしてから紙の状態で校正を行うことができますが、電子書籍ではそういう勝手が利かず、誤字脱字を取り去るのに難儀しているところです。今後デジタルだけで本を作る体験が増えていけば、もっとこなれてくるのではないかと思いますが、まだまだ慣れていないといったところでしょう。

 もう1つは、本を人に見せたりする方法が難しい点。本の場合、ぱっと手渡してぱらぱらと見てもらうことができますが、Kindleの場合、スマートフォンかタブレットを渡さなければなりません。AmazonのウェブサイトからダウンロードしてもらわなければKindleアプリで読めない点は手軽ではありません。Kindleで読むのは初めて、という友人も意外に多く、これから普及していけばそうした状況も変わるでしょう。

 Amazonは23日に「Kindle Worlds」という二次創作用のプランを発表しました(関連記事)。原作のファンによる作品を公開し、原作者とロイヤリティーを分けるプランで、日本ではすでに同人誌などで市場として広がっているファンのパワーを作品に昇華させることができる仕組みとして期待しています。

 ということで、皆様も1冊、いかがですか?


筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura

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