米国でスマホのアプリが生み出した「体験の確実性」というイノベーション

文●松村太郎(@taromatsumura) 編集● ASCII編集部

2017年07月28日 12時00分

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
Amazonが買収したWhole Foods Marketにはスマホアプリと連携して、商品の取り置きや配達をしてくれるサービスが以前からありました

 ここ5年間のアメリカにおけるスマホアプリを中心としたイノベーションについて考えるとき、最も重要だった変化は、この「体験の確実性」というキーワードだったと思います。

 モバイルアプリによってさまざまな問題解決がなされた期間、アメリカで生活しながらそれを体験してきましたが、やはり何が一番かと言われると、体験の確実性というキーワード以外に思いつきません。

 体験の確実性が何を指すかというと、非常に単純なことです。やろうと思ったことが、きちんと実現できるということです。日本で暮らしていると、どうしても「当たり前じゃないか」と思いがちですが、それが当たり前じゃなかったのがアメリカだった、ということです。

米国では公共交通機関は確実な移動を期待できない
移動の確実性を実現したUber

 たとえばUberを見てみれば、「移動の確実性」を実現したサービスと位置づけることができます。公共交通機関が比較的発達しているサンフランシスコ周辺においても、最も確実な移動手段は自家用車です。都市に住んでいる人にはクルマを持たない人も増えてきましたが、じゃあ交通機関が「移動の確実性」を担保してくれるか、といわれるとそうではなかったというわけです。

 そもそも通勤時間帯は、電車のキャパシティを超えた乗客が押し寄せるため、来た電車には乗れません。休日も、20分に1本の地下鉄BARTに乗って、1時間に1本の郊外電車、CalTrainを捕まえなければなりません。ちょっとでもBARTが遅れれば1時間の待ち時間が加算です。

 Uberは、出発地から目的地まで、おおよその時間と料金を提示した形で確実に移動することができます。もちろん途中の交通事情による変化はありますが、それでも前述のような電車での移動よりは確実なのです。

 この変化を見てみると、最も重要だったのは、サービス提供側のクルマとサービス利用側双方が、GPSによるピンポイントの位置情報を持っていたからでした。お互いの場所がわかるからマッチングができ、さらに連続的なマッチングを実現して相乗りサービスを提供することができています。

 スマートフォンの位置情報機能がオープンになっていなかったら、こうしたライドシェアサービスは成立しえなかったのです。

食の確実性を高めたYelpとOpenTable

 もう一つ例に出すのが、食に関してです。

 食に限らず、お店から学校、公園まであらゆる物事にレビューがついているYelpは、新規オープンするレストランのクオリティを格段に高め、サービスのクオリティを高めた存在だった、と言っても過言ではありません。

 Yelpには、ときには辛辣とも言える本音のレビューがつきます。お店がオープンするときに、低いレーティングと悪いレビューがついてしまうと、そのお店のビジネスの立ち上がりに大きく影響してしまうことになります。

 そのため、お店は料理やサービスのクオリティに気遣いしながら、初期の顧客を大切にします。そして、そのクオリティの維持に努めます。Yelpは街をテーマにするソーシャルメディアであり、人々がいろいろな街の中の経験について「失敗したくない」という思いから、より良い場所を探すツールとして活用されています。

 そのため、Yelpのレビューは長くても参考にしていますし、正しくないレビューについてはユーザー同士での議論も行なわれます。また店側も、Yelpにつくレビューで指摘された問題点をきちんと修正し、そのレビュアーにコメントを返します。

 こうした良い循環によって、「Yelpがレストランの味をおいしくした」という評価が生まれ、「食の確実性」を実現したアプリ、と評価できます。

 またOpenTableは、Yelpで見つけたお店を予約することができるアプリです。こちらも、「食の確実性」を高めるアプリとして重宝しています。

 もしYelpでお店を見つけて、実際に行ってみても、満員で1時間待ちですとなったら食事ができません。再びYelpで、同じジャンルのお店を見つけてみても、車で15分、30分離れた場所だった、ということが当たり前なのがアメリカです。

 きちんと予約して、自分の席を確保しておくという、食の確実性の担保をOpenTableが実現している、というわけです。

社会ですでにさまざまな確実性が実現されている日本では?

 ここまで読んできて、日本の読者の皆さんには違和感が大きくなってきたのではないか、と思います。

 「イノベーション」なんてタイトルを付けていますが、そもそも体験が不確実だからこれらのアプリが登場し、役立っているじゃないかという感想を持つでしょう。

 仰るとおりです。

 日本だと、Uberがなくてもタクシーもバスも電車もきちんと運行され、移動の確実性はそもそも高いです。また食についても、行きつけの店は予約しないでも大丈夫でしょうし、もし満員でも隣の店もおいしいことが多い。

 UberもOpenTableも、日本に進出していますが、米国と同じような「確実性」のイノベーションを実現した存在と言い難いのはそのためです。

 位置情報を核としたモバイルアプリによるイノベーションは、その場所、つまり国や地域、あるいは都市に根ざした問題の解決に非常に親和性が高いと言えます。裏を返せば、ところ変われば問題も変わるというわけで、日本、あるいは東京という都市では、都市にまつわる「確実性」が、モバイルアプリ以前から解決されていたのです。

 アメリカでは、Apple PayやAndroid Payでモバイル決済が普及しつつあります。やっと地元のお店のカード決済端末もNFCに対応し、だんだんクレジットカード本体を出さず、iPhoneだけで八百屋でも買い物を済ませることができるようになってきました。

 しかし日本では、貨幣とお札が中心でカードが使えることの方が珍しかったため、「カードが使えないから、買い物の確実性が下がっていた」という問題がそもそもなかったわけです。

 加えて、Suicaなどの電子マネーが都市部ではすでに普及しており、モバイル決済以前に、決済のスマートさ、小銭を出さずに買い物をするといった体験が実現されていました。

 AppleがSuicaをサポートしたのは、そうしなければApple Payが普及する状況が日本に作り出せないからと考える事もできます。

InstacartやNoomコーチは別の側面?

 さて、AmazonがWhole Foods Marketを買収して、生鮮品の配達である「Amazon Fresh」が、Whole Foods Marketを拠点に展開されるのではないかという見方が強まっています。筆者も、そうするだろうと予測しています。

 Whole Foods Marketなどのスーパーを拠点にして、生鮮品の配達サービスを展開しているのは、Instacartと呼ばれるアプリです。

 バークレーのWhole Foods MarketもInstacartに対応しており、アプリからスーパーの商品をオーダーすると、取り置きしてくれたり、配達してくれたりします。お店には、取り置き用の冷蔵庫、冷凍庫も用意してあり、オーダーした人はお店にただピックアップすればよいだけです。

 スーパーマーケットに行かなきゃならない。でも時間がない、あるいは夕方の時間帯のレジの長蛇の列に並びたくないというニーズから、アプリからオーダーして支払いを済ませておいて、家まで届けてもらったり、スーパーでピックアップするだけにする仕組みです。

 これも、時短という意味では、買い物の確実性を確保するという意味合いもありますが、一方で、位置情報とは異なる「時間」という側面がより強いように思います。

 また、筆者のダイエット話はまた別の機会に紹介しますが、Apple Watchと、Noomコーチというアプリの組み合わせは、ダイエットの確実性を、データの面、そして心理的な面から支えてくれたと思います。

 「確実性」を高めるというキーワードの対象も体験から、時間や目標といった、より不確実なものへシフトしつつあるのかなと考えるようになりました。


筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura

mobileASCII.jp TOPページへ

mobile ASCII

Access Rankingアクセスランキング

アプリ週間ランキング

アプリランキングをもっと見る

for Biginnersスマホ入門

スマホからスマホへ機種変更する前に読む! 各種アプリ&サービスのデータ移行・引き継ぎ方法

「Xperia A」「GALAXY S4」へ機種変更したらチェック! ケータイとの違い&スマホの使い方をマスターしよう

「Xperia A」ほか夏スマホ購入前にチェック! スマホへの機種変更&乗り換えQ&A

スマホのトラブル解決ガイド2013

スマホ定番アプリ活用術!

連載:スルッとわかる! 高速通信規格「LTE」

おサイフケータイ乗換案内!

Linkリンク