6年目を迎えたTOMODACHIソフトバンク・リーダーシップ・プログラム

文●松村太郎(@taromatsumura) 編集● ASCII編集部

2017年08月09日 16時30分

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 今年も、東北地方の被災地域の高校生100人が、筆者の住むバークレーにやってきました。6年目となるソフトバンクのTOMODACHIプロジェクトでは、高校生が孫正義氏が卒業したUCバークレーで3週間過ごし、リーダーシップを養います。2012年に300人、2013年以降100人ずつの高校生が毎年夏にバークレーにやってきました。今年で800人目の高校生が学びに来ているわけです。

今年も東北の高校生が筆者の住むバークレーに来ました

 本連載でも毎年追いかけていますが、学ぶことは、若者が地域の問題を発見し、解決に向けたアクションを起こす「Y-PLAN」というプログラムです。東北地域に抱える問題を、若者として発見し、それをどのように変えていくか。そうした視点を持つ人たちが増えていくことが、東北にはまだまだ必要なのです。

 今年の高校生ということは、2011年の震災当時は小学校高学年だったということになります。そのため、当時起きた体験を当時の段階できちんと言語化できていなかったと高校生は話していました。一方で、大きなショックを受けたことに変わりありません。

 さまざまな地域から集まった高校生たちがお互いに話すことで、自分の経験を昇華し、前向きになる。そんな光景が今年もまた、繰り広げられていました。

今年はリッチモンドで、問題発見と解決のプランニング

 例年、UCバークレー周辺の地域のフィールドワークを元にした問題発見と、その解決のための計画を立てる形でY-PLANを学んでいく高校生たち。ソフトバンクが出資したWeWorkにも見学に訪れており、仕事中の筆者も彼らの見学風景を見ることができました。

 ただ、今年のフィールドワークの舞台となったのは、バークレーから北へ車で15分ほど走ったところにある街です。高い犯罪率と石油精製所の公害に悩まされる港町を選んだ理由については、諸問題が解決しない東北沿岸地域と重なることだったと言います。

 サンフランシスコ湾に面した美しい岬と丘がある一方で、精製所や巨大な貨物鉄道拠点などによって、地域が分断されている地理的条件があるリッチモンドを舞台にして、高校生たちは今年も自分たちの耳目と感覚をフル回転させて、問題解決に取り組みました。

 こうしたフィールドワークのあと、100人各自がテーマを持って、自分の地元の問題を解決する計画を立てます。今までは、自分の目につく問題をいかに解決していくかという視点が強かったというTOMODACHIプロジェクトの参加者の問題意識は、段々と街全体、地域全体、あるいはより長期的な将来へと目を向けた問題へと興味が広がっていると言います。

 個人の成長と連帯感。そんな2つの経験が、東北の地域の将来に役立つ日も遠くないかもしれません。

情熱を傾けられる集中力を発揮できるかどうか

 7月31日、UCバークレーの講堂に集まった100人の高校生は、堤大介さんの講演を聴きました。「Think out of the box」というテーマで始まった講演で、堤さんは、情熱の対象を見つけること、常になぜ何をやりたいのかを考える事を、メッセージとして伝えていました。

米国で活躍するアニメーション作家の堤大介さんが講演を行ないました

 堤さんは、バークレーに住むアニメーション作家で、トンコハウスというアニメーションスタジオを立ち上げ、作品制作に取り組んでいます。米国のアニメーションスタジオの最高峰、ピクサーでは「トイストーリー3」や「モンスターズ・ユニバーシティ」でアートディレクターを務めていましたが、同僚とアニメーション作品「ダムキーパー」制作を機に独立。この作品は2015年のアカデミー賞ノミネートと、数々の映画賞で評価を受けました。

 堤さんは野球少年で、絵を描き始めたのは米国に渡った大学生の頃から。情熱の対象が野球で、受験勉強もせず、半ば逃げるように米国に渡ったと振り返ります。異国の地で出会った絵を描くことが、次の情熱を傾ける対象になり、好きなこと、やりたいことになったそうです。

 そして、アニメーションスタジオを渡り歩いて、ピクサーから声がかかるまでになりました。ピクサーが他のスタジオと違う点についてのエピソードは面白かったです。

 「ピクサーでは、120%の情熱を作品作りに傾けても良い場所だったんです。そこがすごいと感じました。ということはつまり、ほかのスタジオはそうではなかったということです」

 アニメーション制作もチームワークなので、野球が好きだった堤さんにとってはアートとチームワークの融合する職場として最良の場所でしたが、自分の情熱を思い切り発揮できないというジレンマも感じていたそうです。「出る杭は打たれる」ようなことは、日本に限ったことではなかったのですね。

なぜをそれをやるのかを考える

 これから受験や就職など、将来について考える年齢である高校生。堤さんは、「何をやりたいのか」だけでなく「なぜやりたいのか」を考えるよう訴えました。

 堤さんにとっての30代は、絵を描くことが仕事になる、恵まれた時間だったと振り返ります。やりたいことが仕事になり、それを思いきりやって良い環境がピクサーだったそうです。しかし、「なぜ絵を描きたいのか」という疑問に対して、答えられなくなった自分もいたそうです。

 そのため、仕事とは別に、バークレーに部屋を借りて、同僚のロバート・コンドウさんといっしょに作った作品が「ダムキーパー」でした。

 「まるで大学の卒業制作を作っているみたいだった」と振り返るその作品が、アカデミー賞へのノミネートが決まったり評価される前にピクサーを辞め、トンコハウスでの活動に打ち込んだと言います。仕事もなかったけど、どこまでできるのかチャレンジしたかった、と振り返ります。

 「ピクサーは、まだ失敗したことがない会社でした。それだけに、常に社内で言われていることは、『小さな失敗から必ず学ぶ』ということでした。そうした経験も、今の仕事に生きていると思います」

 自分のスタジオを持つことの大変さも経験している堤さん。自分だけでなく、スタッフみんなとその家族を養っていかなければならないため、素人ながらスタジオの切り盛り、経営にも苦労しているそうです。このことも「ピクサーにいたら、ただ絵を描くのが楽しいだけだった」と、自分の成長を噛みしめていました。

 堤さんが見つけた「なぜ絵を描くのか」は、世界を照らすことだったそうです。ダムキーパーは、その愛らしいキャラクターと柔らかな世界観の中に現代を風刺するドキッとするようなテーマが流れています。

 8月4日から、日本のHuluで、堤さんのトンコハウスが手がけた10話の短編アニメーション「ピッグ -丘の上のダムキーパー-」が毎週金曜日に配信されています(https://www.happyon.jp/pig-the-dam-keeper-poems)。このお盆休み、堤さんの講演会でも上映されたこの作品を観ながら、東北の高校生が学んだこと、バークレーで活躍する日本人クリエイターに、思いを馳せてみてはいかがでしょうか。


筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura

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