サマータイムより重要なのは個人の時間の自由度だ

文●松村太郎(@taromatsumura) 編集● ASCII編集部

2018年08月08日 10時00分

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 日本では、2020年の東京五輪に向けて、酷暑に対する対策を求める声が上がり始めました。そうした中で、諸外国が導入している「サマータイム」「デイライトセービングタイム」を日本にも導入しようという議論が出てきました。

 具体的には、議員立法で2019年、2020年の2年間に対して導入しようというアイディアが報道されていますが、安倍内閣の菅官房長官は否定的なコメント。政治的な駆け引きが行われている様相です。

環境省が配布している資料より。日本でのサマータイム導入は以前から動きがあり、国民へのアンケートでも賛成が多いと政府は主張しています。ただ、日本では個人が早くから起きて仕事をして、夕方以降の余暇をより楽しんだりと、時間の裁量が多くないことがより問題ではないでしょうか

2018年は米国でのサマータイム導入100周年

 筆者は2012年3月から米国に滞在しており、当然ながら「夏時間への移行」と「冬時間への復帰」がある生活を7年続けています。米国では、2018年は3月11日(日)の午前2時が午前3時に1時間進められて夏時間が始まり、11月4日(日)の午前2時が1時間戻されて午前1時になって、冬時間に戻ります。

 春に針を進める行為を「Spring Forward」、秋に針を戻すのは「Fall Back」と呼ばれ、そもそも1年を通じてあまり季節を感じられない気候である北カリフォルニアでは、夏至・冬至・春分・秋分以上の「季語」としてマーケティングなどにも用いられます。

 もっともこちらでは時計を調整する必要があるのは、自家用車くらいです。壁掛け時計も電波式で勝手に時間が調整されますし、スマートフォンやスマートウォッチも勝手に正しい時間になります。

 ちなみに米国におけるサマータイム、デイライトセービングタイムの開始は1918年。つまり2018年は100周年の年でした。その割には、100周年という話題はあまりなかったように思います。

ITシステムにとっては大変な作業
iPhoneでも大変なことに

 米国では100年の歴史があるサマータイムですが、日本で導入すれば、ITシステムの開発の必要性や社会自体に混乱が起きるのではないか、ましてや元号も変わるのに……という議論も聞かれます。そもそもそんなことにも対応できないシステムの方が問題だという批判も。

 しかし100年前からサマータイムがあったはずの米国でもトラブルは起きています。たとえばiOSの過去のバージョンでは、サマータイムに切り替わることで時計の表示自体はきちんと変わるのに、以前から繰り返し設定していたアラームが、サマータイムの開始後も切り替わる前の時間(つまり本来鳴ってほしい時間の1時間後)に鳴動し、朝起きたら寝坊して真っ青という出来事が起きています。

 時計であるApple Watchも出すようになったAppleから、そうした話は聴かなくなりましたが、米国のソフトウェアだって、完璧にサマータイムをこなしていたわけではなかったのです。

 いや、それにしても目覚ましが1時間後に鳴るって、普通に大迷惑ですよね。日本でも2019年に導入された場合に同じようなことが起きれば、社会的に大損失になりそうです。だからと言ってサマータイムを否定するわけではないのですが、たった2年だけそういうパニックを経験したいかどうか、冷静に考えた方が良いとは思います。

日本と同じく非常に暑いアリゾナ州からは
サマータイムがなくなった

 米国で100周年と言っても、本土ではアリゾナ州は導入していませんし、ハワイやグアム、プエルトリコでもサマータイムは用いられていません。

 サマータイムの導入は州ごとに決められるのですが、アリゾナ州の場合、住民たちにとって不人気だったことで、1944年以降は用いられなくなったそうです。TimeandDate.comの記事によると(https://www.timeanddate.com/time/us/arizona-no-dst.html)、不人気の理由として、ほとんどの人々は、アリゾナの暑い気候にサマータイムは不必要で、涼しい夕刻の時間が長い方が利益になると信じているからだそうです。

 つまり、太陽が出ている暑い時間帯を有効活用するよりは、夕方に早く暗くなって、涼しく過ごす時間を延ばす方が合理的と考えているということでしょう。

 日本でもサマータイム導入の議論は元々ありましたが、今回は、五輪期間中の暑さを軽減するために時間をずらしたいという動機が伝えられています。しかし、砂漠地帯で6月から9月までの平均気温が40度になるアリゾナ州は、サマータイムによる暑さ対策は不適。つまり、今回の日本のサマータイムの導入議論は、アリゾナ州によって否定されるというわけです。

サマータイム移行直後に感じる
なぜ1時間の違いでこんなにも眠いのか

 皆さんが海外旅行に行くと、時差ぼけに悩む方も少なくないのではないでしょうか。中にはへっちゃらという人もいれば、いつも以上に眠くなるという人もいて、人それぞれです。

 個人的には、日本とサンフランシスコの間の17時間(夏時間だと16時間)の時差調整はわりと得意になってきましたが、それでも飛行機の中で一定時間の睡眠が取れないと、1週間近く時差ぼけに悩まされることもしばしばです。

 筆者は毎年3月の夏時間へ移行した週は、この時差ボケと同じ眠気に悩まされ続けてきました。たった1時間しかずれていないにもかかわらず、Spring Forwardで1時間早まった直後の1週間はただひたすら眠い状態になります。

 朝起きるのも辛いし、午後昼寝したいし、夜も早く寝たい。しかし朝再び辛い……。逆にFall Backで1時間戻るときには、翌週も特に問題ありません。

 まったく科学的な表現ではありませんが、なんとなく、1時間の時差じゃなく23時間の時差と、体が解釈してしまっているんじゃないかと疑いたくなるほどです。

 おそらく日本でサマータイムが導入された場合、筆者のようにひたすら1週間眠気の中で過ごして生産性が下がってしまう方も一部出てくるのではないでしょうか。

結局のところ、日本で問題なのは
個人に時間の自由度がないこと

 個人的には、五輪だからと言って、サマータイムを制度化して実施することには反対です。

 競技時間を選手にとって最もパフォーマンスが高まる条件に合わせて決めて、朝早くでも夜遅くだとしても、それをいち早く発表し、選手や関係各所が周到に準備するだけの時間を用意するだけで良いのです。

 いつまでもずるずるとサマータイムをやる、やらないと時間を消費することが、一番避けるべき事態だと思いました。

 環境省のサマータイムに関する文書では、サマータイムを自治体や企業・団体などが導入した事例も掲載されていました。滋賀県や北海道などが地域として活用したり、日本経団連が事務局で実施したり、全日本金属産業労働組合協議会による導入で、温室効果ガス削減などの成果をアピールしています(https://www.env.go.jp/earth/ondanka/summertime/attach/pamph.pdf)。

 制度として決まらなくても、一人でサマータイムを実施して、体験してみても良いかもしれません。たとえば普段は朝の7時に起きるところを6時、5時に起きてみたり、夜23時に寝るところ21時頃寝てみたり。

 そうすると、仕事や余暇などで、どんな工夫をすれば良いのかも見えてきますし、涼しい時間に移動できる、明るいうちに帰ってスポーツができる、といったメリットも体験できるかもしれません。

 そして、日本における最大の問題は、特に仕事において、時間の裁量が個人にあまり多くないことに気づくことになるでしょう。だからこそ制度化して、「せーの」と時計の針を進めようという議論に頼ろうとするわけです。


筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura

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