KDDIがプロ野球「AR観戦」に挑むワケ

文●石川温

2018年10月08日 09時00分

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 2020年に始まるという次世代移動通信「5G」に向けて、キャリアでは様々な実証実験を実施している。さまざまなデバイスと通信を組み合わせることで新しいビジネスモデルを発掘しようと、各キャリアが躍起になっている。

 とくに5Gが始まる2020年は東京オリンピック・パラリンピックが開催されることもあり、「5Gとスポーツ観戦」という組み合わせが注目されているのだ。

 KDDIは10月2日、札幌ドームで開催された北海道日本ハムファイターズ対埼玉西武ライオンズの公式戦において、スマートグラスを用いた新しい野球観戦スタイルの実証実験を実施した。

 観客はスマートグラスを装着し、実際のプロ野球の試合を観戦する。スマートグラスをかけると、目の前にスコアボードや選手のコンディション、1球ごとの球種、コース、球速などが浮かび上がって見えるというものだ。

 打席の結果や盗塁など試合で起きたことはテキストで見られる。スマートグラスに内蔵されたスピーカーによって、試合の実況音声を聞くこともできる。

 まさに、球場でリアルタイムに試合を観戦しながら、テレビのプロ野球中継で得られるような情報を、スマートグラスで重ね合わせて見る感覚に近いといえる。

●未来感ある体験得られる

 今回の実証実験では、観客スタンドにWi-Fi環境を整え、通信機能を内蔵したスタンドアローン型のスマートグラス「R-9」(Osterhout Design Group社製)にデータを送っていた。R-9は、重さ181gで、チップセットにはクアルコム社製Snapdragon 835を搭載する。スペックとしては、ハイエンドのスマホと同等の性能を持つものだ。

 実際にスマートグラスを装着し、ファイターズとライオンズの試合を観戦した。確かに、目の前にスコアボードや球種、選手の詳細情報が浮かび上がって表示され、とても未来感のある体験を得ることができた。

 ただ、情報の見える場所が、ドームの屋根の方向だったり、足元だったりするため、顔を上げたり下げたりする必要があり、かなり面倒な印象があった。自分が「ここに表示すると、グラウンドの選手たちと一緒に情報が確認できて便利なのに」と思ったところに表示してくれずストレスを感じてしまうのであった。

 スマートグラスをかける前、頭の中では「グラウンドに絶妙に浮かび上がる選手たちの情報」がイメージされたのだが、想像とははるかにかけ離れた体験となってしまっていた。

 スマートグラスも、ユーザーが見ている方向などを認識し、適した情報を表示しようとしているため、負荷の高い処理をせざるをえず、本体がかなり熱くなり、処理が止まってしまうこともたびたびあった。バッテリーも数十分間しか持たない。

 通信環境においても、Wi-Fiを用いていたためか通信が安定せず、音声実況も途切れ途切れだったりするなど、快適とは言えない状況であった。

●選手の動きはほぼ遅延なし

 ただ、KDDIでは、6月に沖縄セルラースタジアムにおいて、5Gの基地局を設置し、5G対応のタブレットに向けて、バッターの映像を自由な角度から視聴できるという実証実験を実施。5G通信の超低遅延という利点を活かし、実際の選手の動きからほぼ遅延することなく、タブレットに映像を配信することができていた。

  札幌と沖縄の通信環境の違いを見ると、5Gがいかに超低遅延で、多くのユーザーがいても、安定してデータを送信できるポテンシャルの高さがあるかがわかった。スタジアムで同時に情報を配信しようとすると5Gは不可欠というわけだ。

 スマートグラスによる新しいスポーツ観戦スタイルは、そもそもスマートグラスで表示できる視野角がまだ狭く、ユーザーが不満を感じてしまうところを克服する必要がありそうだ。チップセットの処理能力、バッテリー寿命も課題だろう。

 KDDI・ライフデザイン事業企画本部、繁田光平ビジネス統括部長は「自分は学生時代に野球をやっていたこともあり、野球観戦時は次の球種を気にしながら観ている。一方、観戦している人の中には、お気に入りのビールの売り子さんが近づいてきたら教えてほしいと思っている人もいる。さまざまなユーザーに向け、スマートグラスで表示する情報を出し分けられるのが将来的な理想だ」と語る。

KDDI・ライフデザイン事業企画本部 繁田光平ビジネス統括部長

●新たな収益源に期待集まる

 プロ野球の試合を主催する球団や運営するスタジアム側からすれば、スタジアムの限られた収容人数でいかに客単価を上げるかが経営上の課題だ。こうした新しいデバイスを貸し出す観戦スタイルを作り出せれば、新たな収益源にすることも不可能ではない。

 5Gの到来に向けて、スマートグラスなど新たなデバイスの活用に夢がふくらむ一方、ユーザーが快適に使え、さらに新しいビジネスチャンスを掘り起こすには、まだまだ克服しなくてはいけない課題も多そうだ。


筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ)

 スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)など、著書多数。

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