iPad ProはMacとの併用がおすすめ

文●松村太郎 @taromatsumura

2018年11月27日 16時00分

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 アップルはこれまで、直営店で値引き販売をほとんどしませんでした。アップル製品を安く手に入れるには、オンラインで販売される再生備品を手に入れたり、学生や教職員の割引きを利用するくらいしか方法がありません。

 しかし、米国では11月末の年末商戦の前哨戦に、なんとアップル自らが割引販売をしていました。

●形骸化したブラックフライデー

 日本は休日が少ないというイメージが強いのですが、実はそうではありません。米国の方が定められた休日は少なく、また休日とされていても休まない人もいるぐらい。休めるとき休みたいときにきちんと休むから、国が休みを規定してあげなくてもいいわけです。

 それでも米国中が一斉に休むタイミングはいくつかあり、中でも最大規模の休みが「サンクスギビング」です。11月の第4木曜日と指定されており、基本的にはみんな実家に帰って家族と過ごしたり、リゾートで羽を休めたりするのです。

 サンクスギビングの翌日、金曜日が「ブラックフライデー」。ほかのブラックな曜日は経済的に不吉なイメージがありますが、ブラックフライデーのブラックは黒いインクのブラック、つまり黒字化を目指したセールを意味します。

 かつては金曜日の午前0時に店の前に並び、数に限りがある出血セール品を手にしようとしていましたが、寒くなる時期、家族の団らんを打ち切って真夜中に並びに行くなんて、不合理にもほどがありますよね。

 さらに、週末明けの月曜日は「サイバーマンデー」と呼ばれ、Eコマースの売上高が最大化する日とされていました。しかし最近ではブラックフライデーのオンラインセールも幅を利かせるようになり、大抵11月の中旬からフライングでセールを始めてしまうため、なんとなく不明瞭な雰囲気になってしまいました。

●アップルもブラックフライデーセールに参入

 今年意外だったのは、アップルがブラックフライデーセールに参入したことでした。11月23日のブラックフライデーから11月26日のサイバーマンデーまで、直営店、オンラインストアで特別価格で販売したのです(編註:日本は対象外)。

 アップル製品はどこで買っても同じ定価販売が基本。正規販売店に対しても価格のコントロールを徹底してきたのがアップルでした。新製品が出たときに購入すれば、「新製品」として使い続ける期間を最大化できるため、最もお買得だったのです。

 そのため、アップル自らブラックフライデーセールに参入するというのは、歴史的にもまれなことでした。

 アップルは2019年第1四半期(10〜12月)売上高ガイダンス最低ラインで「0%成長」という弱気の予測を立てています。ブラックフライデーの特需を作り出すことで、売上高の山を作っていこうと販売戦略が見え隠れします。

 うがった見方をすれば、それだけ米国の消費が弱っていてアップル製品の購買に影響が出ているため、影響を少しでもやわらげようとしているのかもしれません。あるいは売上高のガイダンスの上限を達成して投資家に対して絶好の買いのタイミングを作ろうとしているかもしれません。

 さて、セールではMacとiPadも特別価格で販売されました。アップルは2種類のコンピュータをどんな戦略で展開しているか、考えてみたいと思います。

●iPad Proはタブレットの概念を打ち崩す

 アップルは毎年、「MacとiPadの融合はない」と断言してきました。すなわち、タッチパネルを搭載するMacは登場しないし、iPadでmacOSは動作しない、という意味です。

 しかしアップルは、別の方法でMacとiPadの垣根を壊そうとしています。

 まず10月30日のイベントでiPadを紹介する際、「世界で最も売れているポータブルコンピュータ」と紹介しました。iPadは一般的にタブレットというカテゴリに属していますが、タブレット市場は世界で減少の一途を辿っています。

 そもそもポータブルPCの低迷はiPadのようなタブレットの登場が招いたことでしたが、タブレットはポータブルPCよりも縮小のスピードが早くなっています。

 アップルはiPadを沈みゆくタブレットからポータブルPCへとクラスチェンジし、その中でトップの製品であると定義しなおしたのです。

 同時にiPad Proは92%のポータブルPCよりも高速だとその性能をアピールしています。これまでタブレットはPCよりも下位の存在として扱われてきましたが、その概念を崩そうとしているのです。

●MacBook Airを選ぶ前に

 アップルがiPad Proと同時に刷新したのがMacBook Airです。

 これまでMacBook Airを使っていた人にとって、Retinaディスプレーを搭載する新型MacBook Airは非常に魅力的なアップデートになりました。しかしプロセッサは1.6GHzの第8世代Core i5に限られ、MacのiPadに対する特権だったBTO、つまり仕様を選択して自分の1台を作り上げるオプションが大幅に制限されたのです。

 結果的に、MacBook AirはiPad Proの性能を上回ることができなくなりました。このことは、手放しにMacBook Airをアップデートするという選択を難しくしています。

 MacBook Airは128GBモデルで1199ドル、13万円半ばという価格です。一方、11インチのiPad Proは64GBモデルで799ドル、12.9インチでも999ドル、256GBモデルでも1149ドルです。アップルは性能が3倍近いタブレットを、ノート型のMacより200ドル以上安く購入できるようにしているわけです。

 たしかにMacでしかできないことはまだまだたくさんあります。たとえばモバイルのブラウザでは利用できないサービスもありますし、外部ストレージを含むファイルの管理もiPadにはできません。

 それでも、できないことはだんだん限られつつあります。マイクロソフトOfficeはすでに長らくiPad版を提供していますし、アップルのiWorkアプリでも文書作成は可能です。

 Macと共通のアプリも増えており、2019年にはiPadとMacでコードを共通化して開発できる仕組みも開発者に開放されました。その流れは一層加速するでしょう。そして、Adobeは2019年、ついにPhotoshopをiPad向けに提供します。

 これまで筆者は、MacBook Pro1台で自宅・出先・仕事場のあらゆる場所での作業をこなせるようにしてきました。しかしiPadの活躍の幅が拡がることで、たとえば仕事場にMac mini、それ以外はiPad Proという組み合わせで、より安く環境を整えるオプションを検討できるようになりました。

 手元のMacがまだ動いているなら、むしろiPad Proを買い足して併用するというスタイルは意外とおすすめできる作戦に見えてきます。実用以上に、タブレットとPCという我々に染みついている概念が邪魔をしている事に気づかされる、そんなタイミングかもしれません。


筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura

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