乾期が終わった米西海岸、アップル株低迷で歓喜も終わる?

文●松村太郎(@taromatsumura) 編集● ASCII編集部

2018年11月28日 10時00分

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NASDAQのサイトより。iPhone XS発売直後を頂点に、大きく下落しているアップル株。発売からしばらく経ったこの時期は悲観的な情報が出がちなのですが、今年から来年にかけてもそうなるのでしょうか

ついに乾期・山火事の季節が過ぎた米西海岸
空気が悪く、物価も高いという特徴を持つ

 米国では11月22日にサンクスギビングを迎え、11月23日のブラックフライデーから年末にかけてのホリデーシーズンが始まりました。街にはイルミネーションやクリスマスツリーが飾られ、家族とゆったりと時間を過ごす人々であふれます。

 そこまでに“世界で最も悪い”北カリフォルニアの空気の質が改善されたことは、個人的には本当にトップニュースでした。本連載の先週の記事でも触れた通り11月21日に雨が降り、それまで256だったAQI(Air Quality Index)が一気に20以下になったのです。

 これによって、甚大な被害をもたらした最悪の山火事「Camp Fire」は消し止められ、北カリフォルニアに関しては、2018年の山火事シーズンはほぼ終焉を迎えたと考えて良さそうです。

 筆者も含めて、多くの人が大気汚染から避難するほど、ベイエリアの空気の質が悪くなってしまったことは、かなり大きなショックでした。天気が良いことはシリコンバレーのクオリティ・オブ・ライフでかなり重要な位置を占めていると思うからです。筆者は壮大な自然が都市のすぐ背後にある地理的な条件も非常に気に入っています。

 しかし天気に救いを求める背景は、生活コストの高騰もあります。すでに東京の3倍ほどになりつつあり、地域の平均年収である1600万円ほどを稼いでいたとしても、シェアハウス暮らしが「適切」という状況に、巨大な雇用主と天気ぐらいしか、その質を高める要素がなくなってきたという人もいます。

冬に新芽が芽吹くカリフォルニアの風景は
日本から来た人間には若干奇妙に感じる

 11月から3月までの冬季に1年分の雨が降るパターンが、カリフォルニアの気候です。この雨の降り始めが遅れたことが、甚大な山火事の被害をもたらしています。単純な話で、雨の季節が後ろにズレるということは、最も乾燥している乾期の最後の期間が延びてしまうことを意味するからです。

 しかし、雨が降り始めると、週に1日晴れたらラッキー。普段シトシト、時には土砂降りの雨に見舞われます。これによって、不思議なことも起こります。

 カリフォルニアでは7月や8月になると、川沿いを除くほとんどの地域で水が枯渇し、草が枯れてしまいます。これに火がついて山火事になるわけですが。その枯れた草に11月に雨が降ると、寒くなっていくにもかかわらず、一斉に新芽が出て、青々とした風景が蘇るのです。

 普通、日本で冬というと、寒くなって草木は葉を落とし、暖かい春になると再び緑が戻ってくるというイメージが強いかと思います。そのため、引っ越してきたばかりの時はなんとも奇妙な風景だと思ったわけです。

 草木には寒いより暖かい方が良いというのもそうですが、日本は水が比較的年中豊富なだけで、肝心の水を得ないと草は伸びようとしないこともまた真理ということでしょう。

 一方、今年は大規模な山火事の被害を免れたナパ・ソノマに足を伸ばしてみると、ブドウの木の葉が赤や黄色に色づき、日本の紅葉とはまた違った紅葉の風景が広がっていました。実は、晩秋が一番美しい風景が楽しめるのではないか、という気づきを今更ながらにした次第です。

アップル、Amazon、Facebookなど、テック株低迷で
シリコンバレー周辺の地域経済は不安定になるかも

 特に2018年は10月一杯まで、テクノロジー企業にとってはとても良い時間だったと振り返ることができます。主にウォール街によって行われる「株価」という尺度で見れば、テクノロジー株は上昇を続けてきました。

 ところが11月1日以降、これらの雲行きは怪しさを増しています。Appleがホリデーシーズンの売上高の見通しについて、弱気な予測を出し、次々にiPhone不調のニュースが飛び込むようになりました。

 普段ならいつものことで、フタを開けてみれば中身は違ったということなのかもしれませんが、Appleは今後、iPhoneの販売台数を示さない(=今後良い数字は期待できない)というし、Amazon、Alphabet(Google)、Netflixといった主要企業の株価も軒並み下落しています。Facebookはスキャンダル以降株価が半分ほどになってしまいました。

 もちろんこうした大企業の株価が下落したからといって、すぐに経営がどうこうなるわけではないでしょう。各企業とも手元に資金もあるし、売り上げもあるわけです。ただし、社員を含む「その周辺」は安泰というわけではないでしょう。

 たとえば、iPhoneの部品を製造するサプライヤーは、iPhoneが何台売れるかがなによりも重要です。Appleは「台数じゃない、売上高と付加価値(サービスやウェアラブルなどのアクセサリ)だ」とスマホ低迷時代に向けて指標を変えましたが、サプライヤーは引き続き台数のビジネスをしているわけで、これでは置いてきぼりになってしまいます。

 また社員は株やストックオプションで報酬の一部を受け取っており、自社株買いのプログラムなどもあります。そうした給料や資産は、当然のことながら、今回の下落で少なくとも2割は価値が目減りしたことになるわけです。住宅購入の際の頭金にしようとしていた人たちは、思いとどまったり、金額で競り負けたりするかもしれません。

 住宅だけでなく、自動車などを含む消費に回す財布のひもがきつくなったり、冒頭で話したとおりに、より良い生活の質を求めてシリコンバレーを離れる人々も出てきます。

 結果として、不動産、地元の商店やレストラン、各種サービスなど非テクノロジー企業を中心としたビジネスは打撃を受け、富裕層の離脱によって、彼らにサービスを提供していたUberやInstacartなどのいわゆるギグ・エコノミーで生計を立ててきた人たちに影響が及ぶのです。

 もちろんこれは最悪のパターンだと筆者は思いますが、テクノロジー企業の好況の終焉が確実となる前から、シリコンバレー地域の経済に意外なほど急速に打撃を与えることになりそうです。


筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura

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