アップルからジョニー・アイブが退職する理由はiPad Proを見るとわかりそうだ

文●松村太郎 @taromatsumura

2019年07月03日 16時30分

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 先週後半に「アップルのジョナサン・アイブ氏が2019年中に退職する」というニュースが流れてきて、驚いた方も多かったのではないでしょうか。さすがに「アイブ・ロス」、は言い過ぎかもしれませんが……。

 1992年に英国から米国に越境し、アップルで工業デザインに携わり、彼のデザインを通じて、やはり1996年にアップルに戻ってきたスティーブ・ジョブズ氏の構想に「形」を与えた人物として、つねに注目を集めてきました。

 iMac、iPod、iPhone、MacBook Air、Mac Pro、iPad、Apple Watch、iPhone X、AirPods、HomePodと、次々に登場する新製品には、そのカテゴリのデバイスにとって、あるべき姿が与えられ、奇抜さや驚きよりも「納得感」が強い、そんな印象を受けるようになりました。

 しかしボタンやコネクタなど、目に見えるところの細部、さらには基板など目に見えないところにまで気を配る丁寧さは、他の製造メーカーがどんなにアップル製品について分解して分析しても、なかなか真似されない部分となっています。

 おそらく、多くの人たちの興味は、アイブが去った後のアップルのデザインについて、そしてアイブ氏がマーク・ニューソン氏と立ち上げる新しいクリエイティブファーム「LoveFrom」を通じたアップルでの仕事、アップル以外の仕事についてです。

 本連載でも継続して、アップルとデザインについては追いかけていきたいと思いますが、そもそも、アイブ氏はなぜアップルを去る決心をしたのか。また、アップルはそれを認めたのかというアイデアについて、考えてみたいと思います。

●「コンピュータ」のデザインはひと段落?

 実はアップルの中でいま一番変化率が大きいのはiPadです。

 2017年3月に9.7インチ版のiPadについて、それまでのiPad Airベースで価格を下げ、2018年にはApple Pencil対応を実現しました。同じ年の10月にはiPad Proを刷新し、ホームボタンを排除する新しいデザインと、Face IDに対応する新しいフォームファクターへ移行しました。

 そして2019年5月、WWDC19直前には、iPad AirとiPad miniを久しぶりに刷新し、機械学習処理に長けたパワフルなA12 BionicとApple Pencil対応を実現しました。こうして、ハードウェアとしてのiPadは、7.9インチから12.9インチまでの5つのサイズ展開になりました。

 WWDC19では、iOSとiPadOSを分離し、iPadについては、iPhone寄りからMac寄りへ、その位置づけやアプリ開発の方向性を舵取りしました。こうしてiPadは、「モバイルデバイス」から「コンピュータ」へとリブランディングを進めていくことも明らかになりました。

●iPad Proが到達した、これ以上やることがない領域

 そうした変化率の最も大きなiPadの最上位モデル、iPad Proを見てみると、あることに気づきます。「これ以上、なにができるんだろう?」ということです。

 タブレットは元々、2010年にアップルが、iPhoneのタッチテクノロジーを用いて画面を拡大させた板型デバイスとして登場しました。当時は9.7インチの大きな画面とホームボタンという構成のガラスの前面と、アップルロゴやカメラが配置されたアルミニウムの背面というデバイスで、それは現在までも貫かれています。

 しかし2018年10月に登場したiPad Proの新モデルからはホームボタンがなくなり、前面は縁まで敷き詰められたディスプレーのみとなりました。背面はひきつづきアルミニウムですが、これまでのiPadのような曲面はなくなり、まっすぐな平面になりました。

 ここまでくると「タブレット」としての存在に「次」が果たしてあるのか、と考えさせられます。

 確かに、Liquid Retinaディスプレイは縁まで敷き詰めているといっても、まだまだ1cm程度の余地があります。もっともこれはTrueDepthカメラがある上端(キーボードをつけていると左端)とのバランスを取るために、これ以上縁を攻めないかもしれません。

 また、iPad Proシリーズは厚さ5.9mmまで薄さを追求していますが、さらにデバイスを薄くすることもできるかもしれません。しかし薄さを追求すること自体は、デザインの要素の変化と捉えることはできません。

 これが、iPad Proを見て、物の形として、これ以上シンプルなものはないところまで、来てしまった、と思いたくなる理由です。

●コンピュータとスマートフォンで、やることはもうない?

 現在の技術的な要件、すなわち、外装のアルミニウムやガラス、ディスプレイ技術、プロセッサやセンサー、モデムを含むコンピュータの内部の構造、そしてタッチ操作をする人間の手のサイズなどを考えると、iPad Proに与えるべきデザインとして、これ以上シンプルなものがなくなった。

 同じことが、MacBookシリーズやiMac、Mac mini、Apple TVなどのデバイスにも言えるようになっているのではないでしょうか。これをいうと毎年の楽しみがなくなってしまうかもしれませんが、直近ではiPhoneについても、iPhone Xで同様の状態に達してしまった可能性があります。

 あとは内部のテクノロジーを追求しながら性能や薄さなどに変化があるかもしれません。しかしアップルがいつも目指してきた「そのデバイスにとっての正しい形」に行き着いたとなれば、それを変えることはしない、と考えることもまた自然なことです。

 コンピュータやスマートフォンなどの多くのデバイスで、そうした域に達してしまった。あとはいま出来上がったデザインを維持しながら、テクノロジーの変化を受容していくフェイズに入った。だとすれば、アイブ氏がそのデザインについて取り組んだり、出来上がった製品について語ることも、もはやなくなっているのではないか。

 そんな判断が、アイブ氏、そしてアップルの双方にあったのではないか、と筆者は予測してしまいました。しかし、テクノロジーと我々人類の接点はつねに変化しており、コンピュータとスマートフォンのデザインが完了したからといって、まだ終わりではありません。

 これからのアップルのデザインについて、何が起きるのでしょうか。次以降の原稿に、譲ることにしたいと思います。


筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura

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