アップルがインテルのモデム事業を取得する理由

文●松村太郎 @taromatsumura

2019年07月24日 09時00分

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 アップルとクアルコムの間で繰り広げられてきた係争は、2019年4月19日にすべての訴えを取り下げることで合意しました

 それまで、アップルはモデムチップ供給とライセンス契約を抱き合わせにしてきたクアルコムのビジネスモデルに対して異を唱え、またスマートフォン全体の価値に対してライセンス料を課す姿勢にも疑問を投げかけていました。とくにライセンスの問題については、各国で独占禁止法に触れるとして制裁金がクアルコムに対して課されてきた経緯がありました。

 一方、アップルはクアルコムとの和解により、次世代通信規格である5Gに対応するiPhoneの発売がより現実的になったと評価されています。

 クアルコムの代わりにアップル向けのモデムチップを製造・供給してきたのはインテルでしたが、今回の和解を受けてスマートフォン向けのモデム製造から撤退することを発表しました。

 それから3ヵ月が過ぎ、ここにきてアップルがインテルの通信チップ製造部門を買収しようとしており、その成立が近いことが報じられました。この取引は10億ドル以上になるとみられ、関連する特許などの知財ポートフォリオや人材が含まれており、1200人規模のオフィスを開設するというカリフォルニア州南端の都市、サンディエゴが拠点になると見られています。

●インテルはコンピュータ向けに注力、アップルは?

 インテルは2011年にインフィニオン・テクノロジーズ(Infineon Technologies)から14億ドルでモデムビジネスを買収しましたが、スマートフォン部門は毎年10億ドルの赤字を生み出しており、しかも開発がうまくいっていなかったとされていました。

 スマートフォン向けチップのビジネスを手放すと見られるインテルですが、パソコンなどの5G対応に向けた開発は手元に残す計画です。今後のテクノロジーにおいて、5Gは中核となる技術となり、スマートフォンだけではない様々なデバイスに対して5Gが通信基盤として入っていくことが期待されているからでしょう。

 一方のアップルはどうでしょうか。

 アップルはひとまず、クアルコムとの間で、2年間の延長オプション付きの6年間のライセンス契約を結び、また複数年にわたるチップセット供給を受ける契約も交わしました。iPhoneに関しては、こうして5G対応モデルをリリースする道筋をつけています。

 もちろん、チップ供給を通じてiPhoneの5G対応を進めることになりますが、4Gまでの通信とは異なるノウハウが必要になる5G対応は、単にチップ供給を受けるだけで製品として最大の効率性を発揮するというわけにはいかないでしょう。

 その意味でも、アップルがより5Gに明るくなっておくことは、製品開発にとっては必要なことだと考えることができます。

●iPhone以外に目を向ける?

 アップルはクアルコムやインテルからiPhone向けのモデムチップ供給を受けてきましたが、その一方でウェアラブルデバイス向けには独自のチップを開発してきました。この独自チップが競争力の面で高い威力を発揮したのは、W1を搭載するAirPodsでしょう。

 WシリーズはApple WatchやAirPodsのワイヤレスチップですが、2016年にAirPodsがアナウンスされた際には、他社が追いつくまでさらに2年を要する、左右独立で親機と通信して音楽再生をする機能を実現してきました。

 これによって、小さくてもバッテリーが長持ちし、また左右どちらかだけでも使用できる機能性を実現することができました。

 セルラー通信ではなくWi-FiやBluetoothの接続性を司るチップではありますが、独自開発のWシリーズは、Appleのワイヤレスデバイスにとって、非常の重要なアドバンテージを獲得することができた競争力の源泉となったのです。

 そのことを考えると、インテルのスマートフォン向けモデム部門の取得は、次世代ワイヤレステクノロジーの活用において、アップルはiPhone以外の製品で、数年間分の強力な競争力確保に向けた動きと見ることができるのです。

 5Gは最高速度10Gbps以上、最大の理論値は20Gpbsとも言われる高速性が、最もわかりやすい進化と言えます。しかし、メリットはそれだけではありません。低遅延と多接続というさらに2つのメリットがもたらされます。

 ウェアラブルデバイスやIoTデバイスと、iPhoneユーザーに対して役立つ様々な製品を送り出していくことになるであろうアップル。5Gのネットワーク特性を活用するデバイスの充実と、その技術や活用面でのアドバンテージを得るための動きとして、注目してみると良さそうです。


筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura

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