アップル「HomePod」はiPhone 6の再利用

文●松村太郎 @taromatsumura

2019年08月15日 09時00分

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 アップルはいよいよ、日本でもスピーカー製品「HomePod」の発売をアナウンスしました。夏に発売されると言うことで、8月中、少なくともiPhone発表イベントの前までには登場するのではないか、と思います。

 HomePodは米国では当初349ドル、後に299ドルで販売された、音声アシスタントSiriを搭載するスマートスピーカー。日本では3万5424円で販売されます。

 この分野にしては価格は高く、先行して発売していた米国でも6%程度のシェアしか獲得できていないようです。

 競合製品が50ドルから手に入る小型モデルを投入し、しかもそれをしばしば半額セールして「全部屋設置」を目指す戦略で競争するアマゾンやグーグルと、アップルのHomePodは全く異なる戦略を採っていることが分かります。

 アップルが最近たびたび強調するアクティブインストールベースは14億。このほとんどのデバイスですでに音声アシスタントSiriが利用できるため、他社のように躍起になって音声アシスタント専用デバイスをばらまく必要がないことに起因する違い、といえるでしょう。

 そのぶん、HomePodは「オーディオ製品」としての性格とこだわりを色濃く映し出している点が魅力となります。そのことは、ケーブル1本見てみても分かります。非常に細かい話なのですが、1本伸びる電源ケーブルが布巻とされていて、昔ながらのオーディオケーブルの雰囲気を感じさせるこだわりがあるのです。

●「iPhone 6に大量のスピーカーを搭載してみた」

 HomePodを簡単に表現すれば、「iPhone 6に7つのツイーター、1つのウーハー、6つのマイクを搭載してみた」製品と理解すればいいでしょう。

 実際、iPhone 6の心臓部だった64ビットのモバイルプロセッサA8が搭載され、セルラー通信こそできないものの、Wi-Fi接続や音声アシスタント「Siri」が利用できるからです。しかも動作するのは「iOS」。

 少し脱線しますが、秋に登場するiOS 13では、A9を搭載するiPhone 6s以降をサポートすることになりました。そのため、iPhone 6はiOS 13を動作させられないのですが、A8を搭載するHomePodは、引き続きiOS 13でも利用できます。

 もっとも、アプリ動作環境がほとんどなく、Siriの動作表示以外のディスプレーもないHomePodとiPhoneを比べること自体は無意味かもしれませんが……。

 話を戻しますが、HomePodがA8でやっていることは、Siri以外はすべてオーディオに関わる処理です。アップルからすれば過去の遺産の再利用かも知れませんが、スピーカーに64ビットのアプリケーションプロセッサを搭載して音声を処理させるというのは、ぜいたくな話でしょう。

●部屋を認識する

 HomePodには「正面」という概念がないそうです。一応後ろから電源ケーブルが出ていますが、部屋に設置すると1曲目の再生中に部屋を認識して、7つのツイーターから最適な配分で音楽を再生するというのです。

 最も広くスイートスポットを設定するよう「音像」を組み立て、部屋に最適な「音場」を組み立てるそうです。音像とは音の定位の正しさ、音場とは臨場感。HomePodはどちらかというと音像を優位に設計されているといいます。そのため「コンサートホール」や「ジャズクラブ」のような音場設定はありません。

 部屋の認識と音像・音場設計にもA8が使われます。

 そういえばA8には「M8」というモーションコプロセッサが搭載されていました。HomePodは電源を入れて初めて音楽を再生するとき、あるいは位置を変えるなどしてスピーカーが動きを検知したとき、毎回マイクから再生音声を拾って、新たに部屋の音楽の響き方を分析するそうです。

 加えて、1台でもステレオ再生ができるよう、壁などとの距離感をつかみ、直達波と反射波を使い分けながら部屋を音楽で満たす役割を担います。結果、設置した場所の前面になるツイーターからはボーカルなどがHomePodの横や背面から左右に広がる背景の音が出てきて、ステレオ再生を実現するという仕組みでした。

 HomePodのこうした再生の進化は、やはり大きめの音で鳴らしたときによりはっきりと分かります。とはいえ日本の住宅事情を考えるとなかなか大きな音で鳴らせないのも実情。マンションでは、HomePodはかなり余力を残して十分な音量で再生できるといえそうです。

●ペアにすると逃れられなくなる

 HomePodには、2台のスピーカーをペアリングする「ステレオペア」を作ることができます。ペアは2台1セットまでで、さらに多くのスピーカーをペアリングすることはできません。ただしAirPlay 2で同じ音楽を複数のスピーカーから流すことはでき、その際の台数はWi-Fiの帯域次第だそうです。

 日本の住宅では1台のHomePodだけでも十分な音量で部屋を満たせますが、一方でHomePodの実力である音場設計を感じにくい部分もあります。もう1台のHomePodを同じ部屋に設置して「ステレオペア」を作ると、そこまでボリュームを上げなくてもHomePodの音像の正確さを感じることができるかもしれません。

 HomePodはペアリングしなくても、マイクを使ってお互いの位置関係を把握しながら音の調整をしているといいます。その上で、ペアリングすると、音楽ソースの左右が分かれながら、やはり主旋律やボーカルのスイートスポットが広く設定される空間が広がるよう設計されます。

 1台だけ設置するよりも格段に音楽の表情が際立つような、「音楽に浸れる経験」が増してきます。ペアで聞くと「ペアで設置して初めてHomePodの真価が発揮される」と言いたくなるほど。

 アップルによると、「HomePodのステレオペアリングをした際、音源の右チャンネルが右のスピーカー、左チャンネルが左のスピーカーから流れるわけではない」と言います。右チャンネルから取り出された残響音が左のスピーカーからも流れるし、左チャンネルの背景の音が右スピーカーからも出てくるからです。

 こうした緻密な連携は、A8チップを存分に生かしたサウンド処理の結果、といえるでしょう。

●高いとみるか、安いとみるか

 1台3万5424円、2台で7万円弱となるHomePod。たしかにスマートスピーカーとして比べれば割高な価格設定といえます。しかし、オーディオ製品として、あるいは得られる結果から考えると、必ずしも「高い!」とは言えない製品。

 自分でアンプとスピーカーをこだわってオーディオを設計したい人からすれば「逃げ」「妥協」と言われるほど簡単に、しかも自動的に最適な音を手に入れられ、大幅に割安な製品と言えるでしょう。

 一方、スマホのスピーカーで音楽を楽しんでいる若年層からすれば、HomePodの価値をなかなか理解できないかもしれません。だったらより安いワイヤレスヘッドフォンにこだわりたい、というのが本音でしょう。


筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura

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