楽天がキャリアになっても「つながらない」では無意味だ

文●石川温

2019年08月16日 09時00分

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 楽天が心配だ。

 ここ最近いくつかのメディアで「10月に第4のキャリアとして携帯電話サービスを開始する楽天の基地局整備が大幅に遅れている」という記事が掲載されている。

 実際、8月15日に開かれた石田真敏総務大臣の記者会見で「6月末時点で計画からの進捗に遅れが見られた。7月17日に今年度末までの開設数計画値を確実に達成するために修正計画の提出及び実行を要請した」(石田総務相)と、総務省が楽天の基地局整備の遅れを認めたのだ。

 ただ、モバイル業界関係者の多くは、楽天の基地局整備の遅れに対して、何の驚きも示していない。誰もが「そんなこと、最初からわかっていた」という冷静な反応なのだ。

●基地局整備が大変なことはわかっていた

 実際、第4のキャリアとして参入するには、相当な苦労を強いられる。

 全国にイチから基地局を設置していくのは、並大抵の努力が必要なのだ。

 現在、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクは全国に20万程度の基地局を整備している。都内などでは、マンションなどの屋上に基地局を設置しているのだが、すでに大手3キャリアがいい場所を抑えてしまっているので、新規参入のキャリアがいても、場所を確保できない。

 仮に基地局に最適な場所が見つかったとしても、分譲マンションであれば、管理組合と交渉しなくてはならない。基地局を設置すると、マンション側は利用料として毎月、収入が得られるのだが、「健康被害が心配」というオーナーからの反対もあったりして、なかなか設置できないと言われている。設置場所に対して、どのような工事をすべきか、どういった機材が必要なのかを見極める人員も必要となる。

 また、NTTドコモやKDDI、ソフトバンクといったライバル企業たちが、5Gの工事を発注し、工事業者を取り合っているため、仮に工事する場所が見つかったとしても、工事できる人員をなかなか確保できないという問題もある。

 楽天関係者によれば「数百のビルなどに交渉して、実際に工事に着手できるのは数%程度」といい、場所の確保に相当、苦労しているものと思われる。

楽天の基地局工事現場(資料)

●スモールスタートで時間稼ぎの計画だが……

 実際、楽天は2019年度末までに3432の基地局を建設する計画だ。しかし、総務省の「電波利用ホームページ」で調べてみると、8月15日現在、286しか出てこない。このホームページは情報更新が遅めなので、本来であれば、もっと数は多いのだろうが、サービス開始までに計画通りの数字になりそうにないことは明らかだ。

 ただ、8月8日に開かれた楽天の決算会見で三木谷社長は「基地局の整備は10月には完全に間に合う」と話していた。

 楽天は10月1日にサービスを開始するものの、「ホップ、ステップ、ジャンプで始める」(三木谷社長)としており、サービス開始当初はユーザーを限定するなどのスモールスタートとし、数週間から2ヵ月程度でネットでの受付を開始。さらに店舗に拡大していくとした。

 おそらくスモールスタートにして、時間を稼ぐことで、基地局をできるだけ増やす考えなのだろう。

●「つながらない」では回復が困難

 楽天のキャリア参入は、官邸、特に菅官房長官の肝煎りとも言われている。大手3キャリアが競争をせず、通信料金が高止まりしていると言われている中、4社目として楽天に参入させることで、料金競争を引き起こそうというわけだ。

 実際に菅官房長官はかつて「楽天が参入する10月には通信料金は下がるのではないか」と語っていただけに、楽天に対して相当な期待を抱いているようだ。

 楽天としても、菅官房長官の顔に泥を塗るわけにもいかず、10月のサービス開始を死守しなくてはならない。

 とはいえ、このまま基地局の数もままならない中、見切り発車的にサービスを開始してしまっては、どんなに通信料金が安くても「つながらない」という評価となり、楽天ブランドを一気に毀損することにもなりかねない。一度「つながらない」という評価になり、SNSで拡散してしまっては、どんなにネットワーク品質を改善しても、ブランドを回復するのは困難だ。

 過去を振り返ると、どんなに通信料金が安くても「つながらない」というレッテルを貼られてしまったPHSは、3社が1社になり、その1社もソフトバンクに救済されて姿を消した。そのソフトバンクも、ボーダフォンを買収して参入したものの、買収したあとにネットワークがボロボロであった事実がわかった。

 ソフトバンクとしては「ホワイトプラン」で安い料金を提供し、さらにiPhoneを独占的に取り扱ったものの、「ネットワークが不安」ということで、NTTドコモからiPhoneを出るのを何年も待った人がいたほどだ。

 それだけ、日本のユーザーは高い通信料金を支払っても「どこでもつながるケータイ、スマホ」を欲しがるのだ。

●状況次第では開始延期も検討しては

 もし楽天がこのまま10月までに基地局数が間に合わないのであれば、勇気を出して「サービス開始の延期」を検討したほうがいいのではないか。

 どんなに完全仮想化のネットワークが素晴らしくても、基地局が足りず「つながらない」のであれば、何の意味もない。

 東京23区と名古屋市、大阪市は楽天が自社でネットワークを構築するが、それ以外の地域や地下鉄、地下街はKDDIのネットワークにローミングするかたちとなる。

 このままでは「都心で楽天はつながらないが、それ以外だとauでバリバリつながる」ことになり、ユーザーが楽天を契約したとしても、いずれauにMNPされてしまうだろう。

 サービス開始まで1ヵ月半。楽天には期待値も高まっているだけに失敗は絶対に許されない。ぜひとも慎重に準備を進めてもらいたい。


筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ)

 スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)など、著書多数。

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