ファーウェイの独自OS「HarmonyOS」発表も難しい舵取り迫られる

文●末岡洋子 編集● ASCII編集部

2019年08月21日 10時00分

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 以前から臆測があったファーウェイの独自OSが、8月9日に「HarmonyOS」として発表された。このHarmonyOSはモバイル業界にとって何を意味するのだろうか?

中国で開発された開発者向けイベントで公開された「HarmonyOS」

スマホ向けOSというより、メインはIoTデバイス?

 HarmonyOS発表のプレスリリースを見ると、さながらグーグルかアップルのイベントのような会場だったことがうかがえる。中国・東莞市のスタジアムで開催された「Huawei Developers Conference 2019」は、ファーウェイのコンシューマー事業部が開催する年次イベントで、5000人以上の開発者が世界から集まったという。

ファーウェイのサイト上に用意されている画像。大規模なイベント会場のようだ

 コンシューマー事業部を率いるRichard Yu氏はHarmonyOS発表にあたって、「さまざまなデバイスとシナリオで全体的なインテリジェント体験をもたらす」とその目標を説明したという。HarmonyOSは軽量でマイクロカーネルアーキテクチャを採用しており、これがクロスプラットフォーム性、そして低遅延とセキュリテイなどのコンシューマーのニーズを満たすという。開発者には、一度アプリを開発すれば、多様なデバイスで動くと訴求している。

 ファーウェイは発表時に、「まずはスマートウォッチ、スマートスクリーン、車載システム、スマートスピーカーなどのスマートデバイスで最初に採用する」としている。

 その翌日、HarmonyOSを搭載した最初の製品となる「Honor Vision」を披露した。前日の話のとおりに、スマートTVであってスマートフォンではない。そこからも、同じグーグルでもAndroidではなく、Fuchsiaと競合するものという見方もできる。

Android 10ベースの「EMUI 10」を同時発表
Androidへの忠誠を示している!?

 スマートフォンについてYu氏は、Androidが最優先であることを強調している。実際、HarmonyOSを発表したのと同じ8月9日、HuaweiはAndroidベースの独自UIの最新版「EMUI10」を発表している。EMUI10はベータ版のテストを行なった後に、次期ハイエンドのMateシリーズに搭載する計画だという。

次期ハイエンドでもAndroid(をベースしたEMUI)を搭載したいという意向が示された

 一方で、Androidは米国企業のGoogleが開発するモバイルOSであり、トランプ政権の下で米商務省の「エンティティリスト」に載ってしまったファーウェイにしてみれば、ライセンスを受けられなくなる可能性がある(エンティティリストは輸出禁止措置の対象企業リストだが、商務省はライセンスを取得するなどの条件つきで輸出できるとしている。だが詳細はまだ見えない)。

 Yu氏はWall Street Journalに対し、必要ならば「1日か2日で」スマートフォンのOSをHarmonyOSに切り替えることができると語っているが(https://www.wsj.com/articles/huawei-unveils-android-backup-but-prefers-not-to-use-it-11565346923?mod=searchresults&page=1&pos=17)、OSを変えることは簡単なことではない。グーグルのアプリは使えないし、それ以外のAndroidのアプリについても、多少の変更を加えるだけで動くというが、ユーザー体験は全く同じというわけではないはずだ。

 実際、5年ぐらい前に“第3のOS”が立ち上がり始めた頃、ファーウェイは形式的には「Firefox OS」や「Windows Phone」に参加の姿勢を見せたものの、コミットすることはなかった。その代わり、リソースをAndroidとEMUIに集中させることで、Androidのトレンドを最大活用し、シェアを伸ばすことに成功した。また、メーカー由来のOSがうまくいった試しがないこともよく知っているだろう(サムスン「Tizen」、ノキア「Symbian」など)。難しさを知っているからこそ、HarmonyOSは慎重に進めるはずだ。

中国の独自アプリエコシステムは成立しえるのか

 HarmonyOSの今後は、「スマートフォン」と「中国」の2つの側面で占うことができる。

 まずはスマートフォンに採用するのかどうか。ここは米中貿易戦争の動向に依存するが、もしそうすると決断した場合、「中国」が重要なキーワードになりそうだ。アプリの問題を解決できるからだ。

 中国では、グローバルで使われているオンラインサービスの中国版がほぼすべて揃っている。これらの企業がHarmonyOS向けにアプリを用意さえすれば、アプリエコシステムが整う。実際に、HarmonyOSを発表するプレスリリースでファーウェイは、「中国は強いアプリエコシステムと巨大なユーザー数を持つ市場だ。今後ファーウェイは中国市場でHarmonyOSの土台を作り、世界に拡大する」と語っている。

 ファーウェイの中国市場におけるシェアは35%(2019年第1四半期、CounterpointResearch調べ)。このシェアを土台に、HarmonyOSを積極的にスマートフォンで採用することになれば、無視できない存在になるだろう。そして米中貿易戦争の余波を恐れる他の中国メーカーがHarmonyOSを採用すると一大勢力になる。OPPOなどの中国系メーカーがHarmonyOSをテストしているという報道も見られる。

 この動きが成功すれば、HarmonyOSは今度こそ“第3のOS”となるだろう。もし失敗すれば、米国政府はさらに有利にファーウェイを米中貿易戦争の切り札に使うことになるのかもしれない。


筆者紹介──末岡洋子


フリーランスライター。アットマーク・アイティの記者を経てフリーに。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている

mobileASCII.jp TOPページへ