アップル攻めの出店 日本で役割大きく

文●松村太郎 @taromatsumura

2019年08月28日 09時00分

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 アップルは9月7日、東京・丸の内に新たな直営店「Apple丸の内」をオープンさせることがわかりました。場所は三菱ビルヂング1階部分で、かつてコーチのブティックがあった場所です。東京駅丸の内口から直接見ることができ、地下鉄千代田線二重橋前駅からも近い立地になります。

 オープンすると国内の直営店は9店舗となり、また2018年4以降の18カ月間で3店舗目と、異例のペースで出店を急いでいます。今回の新店舗も、新宿、京都、改装後の渋谷で採用された新世代デザイン(タウンスクエア)が採用されるそうです。すでにアップルの社内では、それがスタンダードであるため「タウンスクエア」という言葉は使われないようですが。

●ご当地デザイン

 京都がそうであったように、丸の内でも地域に根差したデザインが施されるそうです。

 京都では階段の手すりに、アップルの新たな本拠地、Apple Parkと同様に、人工石の白い床材や天井全面の照明、彫り込んだ手すりが採用されるなどデザインの共通化が施されつつ、壁は触れなければ気づけないほど精密な漆喰とされ、外から見た様子はまるで行燈のよう。和のテイストをうまく融合することに成功しています。

 では丸の内のモチーフは何でしょうか?

 実際に店舗予定地の周りを見渡してみると、歴史的な建造物が保存されつつ、その背後には巨大なタワーが立つ、という形式での建築が進められています。

 丸ビル、新丸ビル、日本工業クラブ、東京中央郵便局などを見ると、低層部分が30.3mの高さにビシッと揃っています。建て替え前、当時の高さ制限いっぱいとなっており、その部分を保存もしくは復元して、新たな建物が建てられているからです。

 散歩も楽しい日本の近代化の歩みを振り返る建築街でもある丸の内のこと。東京駅や三菱一号館のようなレンガのモチーフなのか、はたまた白壁に豪華なシャンデリア、ふかふかな絨毯といった演出になるのか、これはオープンまでのお楽しみ、ということになります。

●機能としての直営店

 アップルの新世代店舗には、共通の機能があります。

・6Kのビデオウォールを備え、Today at Appleセミナーが毎日開催されるForum
・季節ごとにアクセサリのコーディネートを楽しんだり、Apple Store独占販売の商品を手に取ることができるAvenue
・人々が電源やWi-Fiなどを自由に利用できるオープンスペースのPlaza
・モバイルデバイス向けに再設計されたサポート拠点Genius Grove
・そしてビジネス向けの商談や開発者のサポートを行うBoardroom

 といった機能が、店舗のサイズに合わせて取り入れられています。現在、これらを全ての設備を備える店舗は日本にはまだありません。新たにオープンする丸の内店が日本最大ということを考えると、Plazaまで備えたフル装備の店舗になるのではないか、と期待してしまいます。

●困ったときのApple Store

 Apple Storeは、アップル製品に触れることができる場として、スティーブ・ジョブズ氏が指揮して構築した直営店網でした。日本では東京・銀座に2003年にオープンしており、米国外初の店舗だったこともあり、ジョブズ氏が開店に合わせて来日したことでも知られます。

 アップル製品を最良の形で陳列し、最高の購買体験を提供し、アップル製品のための修理などのサポートや、使い方を知ることができる学びの場として設計されました。

 日本は家電量販店が全国に出店しており、デジタル製品から家電まで、魅力的な商品の陳列につい足を運んでしまう場所です。ところが米国のBestBuyなどの家電チェーンは自らも含めて主戦場をオンラインへと移しており、陳列棚には空欄も目立ち、新たな出会いの可能性を感じることはできませんでした。

 Apple Storeには、Amazonのような商品点数や、Kickstarterのようなワクワク感があるわけではありませんが、確実にiPhoneやiPad、Macと組み合わせることができるアクセサリーを一部独占で販売していることを考えると、訪れる価値がある小売店という評価をすることができます。

 まったく新しいカテゴリの商品に触れてもらい、知ってもらう、というApple Storeの役割から、やや変化しはじめているのも事実です。

 アップルは2019年第3四半期決算(4〜6月)、iPhoneの販売を12%減少させている一方で、アップル直営店での下取り強化策から、米国における販売が戻ってきているとのコメントも電話会議で聞かれました。

 アップルは再資源化を進めるため、Apple Storeでの下取りを推奨していますが、その買取金額の増加や、買い替えを促進するようなマーケティング施策を行えるチャネルとしての役割も担うようになっています。

 もちろん既存ユーザーがより活用を深めることで引き続きアップルのユーザーベースを支える顧客であり続けてもらうための取り組み、すなわちToday at Appleのセッションの充実などもしていますが、よりダイレクトに販売施策を打てる点は、直営店を持つ強みと言えるのではないでしょうか。

●日本のApple Store

 依然として日本でのiPhoneはスマートフォン販売の中心的な存在を維持していると言えます。販売施策が浸透するには、丸の内を含め9店舗という店舗数は少なく感じます。

 出店を急ぐとともに、前述のような既存のユーザーベースに対する「より充実した体験の紹介」という役割を地域ごとに面で広げて行く施策に取り組んで行くことになります。

 携帯電話会社が各ショップにおける通信サービスと組み合わせた積極的な端末値引きが封じられつつあることを考えると、アップル直営店の役割は今後日本でより大きくなっていきます。


筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura

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