楽天がキャリアに参入する意味はあるのか

文●石川温

2019年09月09日 09時00分

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 9月6日、楽天は「携帯キャリアについての記者発表会」を開催した。

 当初10月1日から商用サービスを開始するとしていたが延期とし、10月から「無料サポータープログラム」として5000名限定のサービスを提供するとした。

 注目された料金プランも発表せず、参加したメディアは肩透かしを食らった。

 今回、記者発表会を取材して改めて感じたのが「そもそも楽天は第4のキャリアとして参入する意味があるのか」という点だ。

●MVNOで手堅く稼げばいいのではないか

 記者発表会は前半がキャリアとしての事業について、後半が現在手がけているMVNOと新製品ラインナップの紹介という2部構成で行なわれた。

 特に現在、格安スマホ「楽天モバイル」として提供されているMVNO事業はかなり好調だというのだ。

 同社の大尾嘉宏人営業・マーケティング本部長によれば、昨今、格安スマホ市場全体の成長が停滞する中、楽天モバイルだけは好調で、すでに契約回線数は220万件を突破。「スマホのネット契約数」「乗り換えたい通信サービス」「MVNO事業者シェア」「メインで利用する格安SIMサービス」など、シェアだけでなくアンケートでもナンバーワンを獲得しているという。

 素人考えからすれば「わざわざ設備投資に6000億円を使って基地局を設置するものの、用地獲得がうまくいかず、総務省から3回も行政指導を食らうくらいなら、キャリアになんて参入せず、成功しているMVNOで手堅く稼げばいいのではないか」と思ってしまうのだ。

●「キャリアだから実現できた」に疑問

 今年2月、「楽天はなぜ、あえてキャリアに参入するのか。MVNOじゃダメなのか」という素朴な質問を三木谷浩史社長に直接、ぶつけたことがある。その際、三木谷社長は「日本のMVNOは、フルMVNOではなく、回線のリセラーにすぎない。技術的な工夫はできないし、使おうが使わなかろうが帯域にコストがかかる。言い方は悪いが、MNOの奴隷みたいなものだ」と言い切っていた。

 ただ今回発表された内容を見ると「キャリアだから実現できた」というわけでもないようにも感じる。

 5000名に提供される「無料サポータープログラム」はその名の通り、無料で音声通話とデータ通信が無制限に使える。

 これは楽天の東京23区、名古屋市、大阪市という自社エリア内だけでなく、au回線にローミングする、それ以外の地域でも「使い放題」で利用可能だ。

 通常、MVNOでは他社に回線を借りるため、借りる帯域に応じて接続料を支払う必要があり、使い放題のプランが提供しづらい。しかし、楽天は今回、auから回線を借り、接続料を支払っているにも関わらず、使い放題が提供できている。つまり、MVNOやローミングなど、他社との契約条件によっては、わざわざキャリアにならなくても、無制限の使い放題が提供できることを意味している。

●クローズドな「Link」でいいのか

 今回、楽天ではMNOのユーザーに対して「Link」というアプリを提供する予定だ。グループ通話やボイス・ビデオメッセージ、ファイル送信やクラウド、AI、ゲーム、デスクトップなどの機能が提供されるようだ。おそらく、これが三木谷社長のいう「技術的な工夫」によって実現したサービスなのだろう。

 ただ、現状、LINEというマルチキャリア、フェイスブックメッセンジャーというマルチデバイスで使える無料通話、メッセンジャーアプリが全盛だ。

 NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクですら、3社共同で「+メッセージ」というサービスを立ち上げたにも関わらず、アクティブにユーザーが増えないという悲惨な状況に陥っている中、「楽天モバイルのユーザーしか使えないメッセンジャーアプリ」にどれだけ需要があるのか、見当もつかない。

 3キャリアですら、オープンな志向を目指している中、なぜ、楽天はそこに逆行し、あえて単独キャリアでクローズドな世界でユーザーを囲い込もうとするのか。

●なぜ「MVNO」ではなく「MNO」なのか

 Linkを本気で普及させたいのなら、220万ユーザーを抱えるMVNO利用者から使わせるべきだし、MVNO網で使えるならば、他社ユーザーにも開放するのが賢明だ。

 今まで以上に安価な料金プランを提供したいのなら、キャリアと交渉し、接続料の条件を見直してもらったほうが手っ取り早い。eSIMなどの最先端の技術を導入したいのであれば、IIJのようにフルMVNOになったほうが、安上がりだ。

 「楽天のMVNO事業が好調だ」と言われるたびに、「じゃあ、なんであえて莫大な投資をしてキャリアに参入するのか」が理解できないのだ。


筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ)

 スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)など、著書多数。

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