「iPhone 11に驚きがない」と言う前にアップル最大の戦略を見よ

文●西田宗千佳 編集●飯島恵里子/ASCII.jp

2019年09月13日 17時00分

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9月10日(米国時間)、アメリカ・カルフォルニア州、クパチーノにある本社内「スティーブ・ジョブズシアター」で開催されたスペシャルイベントの後に披露された「iPhone 11」

「iPhone 11」のコスパの良さが目立つ

「ああ、テクノロジーとしてのベクトルは去年と同じでも、メッセージングは変えてきたんだな」――今年のiPhoneの発表をアメリカ・クパチーノにある本社内「スティーブ・ジョブズシアター」で現地取材しながら、筆者はそう考えていた。今年の新モデルである「iPhone 11」シリーズは、2018年モデルである「iPhone XSシリーズ」「iPhone XR」の正常進化版といえるハードウエアだ。「三ツ目」という外見のインパクトはあるもの、ハードウエア構成として大幅に変わったものではない。

iPhone 11は6色のカラーバリエーションがあり、「今年のスタンダードなiPhone」としての役割を担う

 だが、3モデルのラインナップからアップルが消費者に伝えたいことは、けっこう変わって来たのではないか、と思う。

 一番大きな違いは、「iPhone 11」と「iPhone XR」のポジションだ。最新アーキテクチャのiPhoneでもっともお手頃な価格、という点は変わらないのに、XRは「メインモデルであるXSの下位機種」というイメージがあり、iPhone 11は「メインモデルで、付加価値型のProがある」という印象を与える。

 昨年はXRのみ発売が遅れたのに対し、今年は3モデルとも同時発売。しかも名前からうける印象は大きく、価格的にも、XRのスタート価格よりiPhone 11の方が安い。

 アップルは昨年、iPhone XRの販売に苦労した。ディスプレイパネル生産の遅れから発売タイミングがズレたことがケチのつきはじめで、価格が高めであることから初期の売れ行きは鈍かった。そこに適切な修正舵を当て、「完成度を高めたメインモデルの価格を落とした」という位置付けにしている。

iPhone 11 Proシリーズは付加価値型。三眼カメラが目をひくが、ディスプレイなどのクオリティも高い。

 ハンズオンで実機を体験したが、iPhone 11の完成度はかなり高い。超広角側のカメラが搭載されたことで、日常撮影が必要なシーンでの使い勝手は大幅に改善した。バッテリー動作時間の改善も大きい。有機ELディスプレイや望遠カメラなど、「Pro」要素はとても大きなものだが、まさに「付加価値」であり、費用対効果で選びやすいラインナップになった、といえる。

アップルのウェブより。U1を使ったAirDropの改善は、iPhone 11シリーズの独自機能になる

「使い勝手」「エコシステム」で差別化するアップル

 一方で、デバイステクノロジー面でいえば、iPhone 11には特別なところは少ない。特に日本以外の国では、5Gモデルがまだないことが気になる。おそらく来年登場することになるのだろう。そうした点が同社の顧客にどう影響するかは重要な点だ。

 だが、彼らの狙いはあくまで「使い勝手での差別化」であり、ソフトとハード、サービスの組み合わせによる他のプラットフォームとの違いを打ち出せればいい。

 そのことは、意外にも発表会では言及されなかった機能によく現れている。

 iPhone 11には「U1」という新しいワイヤレスチップが搭載されている。ワイヤレスチップといっても、Wi-FiやBluetoothではない。「UWB」という規格だ。スマホに搭載されるのはほぼ初のはずで、日常見かけることもない。逆にいえば、「これがあるから他よりハイスペック」といえるほど、人目を惹く要素ではない。だから他社は搭載していない。

 この通信規格は主に位置と方向を認識するのに使われており、Wi-FiやBluetooth(誤差数十センチから数メートル)よりも高精度な位置測定ができる。

 これをなにに使うかというと、ファイル転送技術「AirDrop」の使い勝手向上だ。ファイルを送りたい相手にiPhone 11を向ければその人を認識して優先的に表示するので、とてもシンプルかつすばやくファイル転送ができるのだ。

 この技術は9月30日に予定されている「iOS 13.1」へのアップデートで利用可能になり、すぐには使えない。また、現状はU1を搭載しているiPhone 11シリーズ同士でのみ有効なものだ。だが、今後U1は様々なアップル製品に搭載されると見られており、使える範囲が広がっていくだろう。

 AirDropはアップル製品同士でのみ使える技術だが、その使い勝手を洗練していくことは、「アップル製品を次にも選ぶ」モチベーションになる。そうなれば、「普通のスマホにはあっても意味が薄い」と思われていた技術も、差別化点に化ける。

 サービスでの差別化も同様の意味合いを持つ。

 ゲームの定額制遊び放題サービス「Apple Arcade」は、持っているiPhone・iPad・Mac・Apple TVなどで同じゲームが追加料金なしに楽しめる。しかも、用意されるゲームは「他のゲームストアには当面でない」「AppStoreにもない」エクスクルーシブなものだ。

アップルによるオリジナル映像コンテンツ配信「Apple TV+」は、今後アップル製品を購入した人には1年分の無料利用権がついてくる

 映像配信サービス「Apple TV+」はテレビなどからも視聴できるが、これからアップル製品を買った人には「1年分の無料利用権」がついてくる。月額600円なので、7200円分のディスカウントといっていい。

 これらのサービスを、他のスマホメーカーはもっていない。価値あるサービスによって「iPhoneを選ぶと得」という要素を付け加えていくことは、ハードウエアの外にある価値といえる。

Apple Watchのように、人気があって「でもiPhoneでしか使えない」ものは差別化要因だ

 Apple WatchのようなiPhoneでのみ使える周辺機器の存在も、iPhoneの差別化点となる。

「ハードウエアを洗練させ、サービスや周辺機器などの総合力で、ひとたびiPhoneを使った人は次もiPhoneを選ぶようにする」のが、アップルの最大の戦略だ。「iPhone 11に驚きがない」と言う前に、その点を考慮した方がいい。

iPhone 11 Pro

iPhoneの「買い方」を巡る状況に注意

 次なる課題は、日本のようにiPhoneのシェアが高い国で、「今年のiPhoneに買い換えもらえるか」という「懐の問題」になる。携帯電話の割引販売については、10月1日からスタートする「分離プラン」導入をにらみ、アップルと携帯電話事業者、総務省の間で綱引きが続いている。

 ソフトバンクやKDDIの施策を見るに、「48回の分割で買い、2年で買い換える場合には残りの残債を本体の買い取りと割引きで相殺し、実質的に半額で購入する」というやり方は、当面継続するようだ。

 iPhoneは他のスマホに比べ中古買い取り価格が高い傾向にある。そのため「後日古いモデルを売ることを前提に買い換えていく」形はアリで、iPhoneの発表会でもわざわざそのことが言及されていた。

 「他のスマホより買い取り価格が安定している」という条件がいつまで続くかはわからない。だが、少なくとも今年・来年に状況が激変するとは思わない。

 その点をどう考えて買うか、思案が必要だ。



西田 宗千佳(にしだ むねちか)

西田 宗千佳氏

 1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。 得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、アエラ、週刊東洋経済、月刊宝島、PCfan、YOMIURI PC、AVWatch、マイコミジャーナルなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「ソニー復興の劇薬 SAPプロジェクトの苦闘」(KADOKAWA)などがある。


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