アップルApple Watch Series 5先行レビュー:「iPhoneの次」のテクノロジー

文●松村太郎 @taromatsumura

2019年09月18日 19時00分

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 アップルは9月20日、Apple Watch Series 5を発売します。常時点灯ディスプレー、歩行ナビに便利な電子コンパス内蔵と、アルミニウムモデルをアップグレードするとしても、今年は見逃せない魅力が詰まっています。

 さらに、Apple Watchとしては新しいチタンケースの登場や、エルメスモデルにスペースブラックのステンレスケースが登場したりコーディネートの楽しみも広がりました。正直なところ、今年のApple Watchは、5G対応前最大のアップデートと断言できます。

 2014年の登場から5年目を迎える、世界最大のスマートウォッチブランド。アップルが目指しているテクノロジーの未来を、1週間使いながら、3つの視点で考えてみました。

電子コンパス内蔵で、特に歩行中のナビゲーションで歩く方向を把握するのが便利になった。

●バッテリーとの葛藤を克服したディスプレー

 Apple Watch Series 5最大のニュースであり、既存ユーザー全員が買い換えるべき理由となったのが新しい常時点灯ディスプレー。使い始めた1日目で「いままでなんてムダなことをしていたんだろう」とため息がでました。ちょっと時間を確認するために、手首を返す動作を毎日何度も、何十回も繰り返していたからです。

 新しいディスプレーは、手首を返さず、そのままでも時間が確認できます。省電力性に優れるLTPO有機ELディスプレーと、ダークモード中のリフレッシュレートを60Hzから1Hz、つまり1秒に1回にまでおさえることで、大幅にバッテリー消費をおさえたのです。

 ウェアラブルデバイスに限らず、スマートフォンなど、バッテリーで動作するデバイスは「いかにサボるか」を追及するテクノロジーでもあります。聞こえは悪いですが、サボることはすなわちバッテリーを消費しないことを意味します。

 アップルは2018年10月、Dialog Semiconductorの知的財産や従業員などを6億ドルで買収し、メインチップ、グラフィックスに続き電源管理チップも自社設計へと切り替えました。

 特に2019年モデルのiPhoneに搭載されたA13 Bionicは、性能向上と消費電力削減を両立させており、iPhone 11 Pro Maxは20時間のビデオ再生を実現するiPhone最長のバッテリーライフを実現しています。

 こうして「いかにバッテリーをケチるか」を追及している、特にデバイスサイズも小さなウェアラブルにおいて、ディスプレーをつけっぱなしにするというのは、暴挙ともいえますし、避けられるものなら避けるべきことだったはずです。

 しかし、「普通の腕時計にはできるがスマートウォッチにできない」ではアップルが満足しなかったのでしょう。前述のような工夫を施し、常時点灯のディスプレー実現にこぎ着けました。

 Androidスマートフォンでもすでに常時点灯させて時計を見られる仕組みが採用されていますが、今後はiPhoneにも、Apple Watchで実現したテクニックを用いた常時表示を盛り込んでくることになるかもしれません。

●チタンという新素材

 個人的に、チタンという金属にはついつい反応してしまいます。機械式時計でもおなじみの素材をApple Watchが初めて採用しました。スペースブラックもありますが、やはりここはヘアライン加工されたナチュラルカラーのチタニウムケースがチタンらしくて魅力的です。

 Apple Watch Series 3まで用意されていたEDITIONは、Series 4で一旦ラインアップから外れましたが、Apple Watch Series 5では復活。以前ラインアップされていたセラミックのホワイトモデルとともに追加されたのが、チタンのApple Watchでした。

復活したセラミックのホワイトモデル。また電子コンパスは、前述のナビゲーション内での使用の他に、コンプリケーションや専用のコンパスアプリが新たに追加される。
チタンモデルには憧れを抱かずにはいられない。

 アップル製品でチタンといえば、PowerBook G4に採用されていたことが思い出されます。ソリッドな金属の平面で登場したノートパソコンは非常に印象的でした。その後アルミニウムが採用されるようになり、ユニボディへと進化し、薄型軽量化を極め、さらにはリサイクルアルミ化まで果たしました。

 直近で再びアップル製品にチタンが採用されたのは、2019年に発行が始まったApple Card。こちらはアルミニウムとの合金と見られており、白く塗られています。一方、Apple Watchのチタンはチタンらしいカラーとスペースブラック。チタンでカラーバリエーションを展開することができる点を示した形になります。

 今後、MacやiPhone、iPadだけでなく、ほかのウェアラブル製品に、チタンが採用されていく可能性もありそうです。そもそも2014年、Apple Watchにステンレススチールが採用されて、3年後の2017年にiPhone Xにステンレスフレームが登場しました。

 近い将来「チタンのiPhone」が出てくるかもしれない、と期待を持つ理由、というわけです。

●「ヒヤラブル」へのこだわり

 Apple Watchはこれまでも、Siri対応デバイスでしたが、「Hey Siri」に対応し、さらには手首を上げるだけでSiriに話しかけられるようになりました。watchOS 6で新たにShazamを用いた音楽検索にも対応します。また、周囲の騒音を検出し、大きすぎる音を警告する機能もつきました。

 つまり、新しいディスプレーと同じように、マイクも常時ONになっていて、我々の声に素早く対応できる体制を整えているのです。この常時ONのマイクを基盤として、ヒヤラブルの領域にアプリを投入する、最も手軽な手段になる可能性が高いのではないでしょうか。 スマートスピーカー市場はAmazonとGoogleを確認して成長を続けていますが、Appleはウェアラブルデバイスの機能として「ヒヤラブル」性能を実現しようとしている、というアプローチがわかります。

 アップル製品の開発秘話がときどき明かされると、意外性を感じると同時に、妙な納得感を得ることもあります。例えばiPhoneより先にiPadが考案されていたという話は有名ですが、プロトタイプの過程を考えれば、デバイスが大きいiPadが先に想定されていたとしても不思議ではありません。

 同じような話がApple Watchにもあります。

 イヤホンジャックが省かれたiPhone 7に合わせて登場した完全ワイヤレスヘッドフォン「AirPods」は、実はApple Watch向けに開発されていたというのです。納得できるのは、Apple Watchにはヘッドフォンジャックもなければ、ケーブルを手首からの耳に伸ばす滑稽な姿も想像しづらいものでした。

 そのため、iPhoneとの組み合わせよりも、Apple Watchをどう拡張するか、という視点で、現在、あるいは今後のAirPodsを見ていくと、アップルがコミュニケーションやSiri、声を主体としたアプリをどのように扱っていこうとしているのかが見えてくるかもしれません。

 ちなみにApple Watch Series 5に搭載されているワイヤレスチップはW3のままで、Wi-FIはIEEE802.11n、Bluetooth 5.0をサポートするにとどまっています。またiPhone 11に搭載された超広帯域通信(UWB)をサポートするU1チップも入りませんでした。

 このあたりも、来年以降、新しいコミュニケーションやサービスを行うアプリとともに実装が加速していくのではないかと期待しています。探し物を手首で見つけられるようになると、かなり便利だと思うのですが。

●テクノロジーの未来はどこへ

 アップルは、現在のiPhone、iPad、Mac、Apple TV、Apple Watch、HomePodのアプリ動作可能なプラットホームとしてのデバイスと、Apple PencilやAirPodsなどのウェアラブルデバイスやアクセサリが増えていくという体制で、当面推移していくと予想できます。

 その中で最も変化率が高いのはApple Watch。アップルがトップシェアを維持しながら、その未来の方向性をコントロールしていくことができるポジションにあります。

 2019年モデルのApple Watch Series 5は、そうした引いた視点からすると、テクノロジー的には停滞しているように感じます。しかしその分、スマートウォッチの体験や、身につけるもの、持ち物としての楽しみが増した印象があります。

 来年以降、アップルも5Gへの対応が始まりますが、そうした時にApple Watchもチャレンジがあると予想しています。だからこそ、4G世代の成熟をみたApple Watch Series 5を、オススメしたい理由にもなっています。


筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura

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