マスクと顔認証の相性は悪い

文●松村太郎(@taromatsumura) 編集● ASCII

2020年02月08日 09時00分

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 連日ニュースで報じられている、中国発のコロナウイルス感染拡大。武漢にいる日本人がチャーター機で帰国し、感染が確認されたほか、WHOが国際的に拡大している感染症として「緊急事態」を宣言しました。

 この原稿を書いている時点での傾向として、2日ごとに死者数が2倍になっています。そのため、近いうちに中国での死者数が1000人を超える可能性もありそうです。すでに店舗の休業や旅行、出張などの自粛が起きており、アジアの経済にも影響を与えるだけでなく、世界の工場としての役割を持つ中国。春節明けの製造計画も含めて、世界中の企業にも影響を及ぼしそうです。

 東京の街に出てみると、確かに消毒ジェルがドラッグストアから消えたり、マスクが品薄になってはいるのですが、風景としては例年の冬から春にかけてのものと大きく変化はありません。街の人たちはみんなマスクをしているからです。

 最近、スポンジタイプのものや、カラフルな色が付いているモノなど、バリエーションも増えてきました。インフルエンザシーズンから花粉シーズンまで着けるとしても半年間はあります。あるいはいろいろな理由で1年中マスクをする人も少なくないため、ファッションの一部として捉えられても不思議ではありません。  ちなみに、個人的に気になっているマスクメーカーがVogmask(https://www.vogmask.com)。マイクロファイバーもしくはオーガニックコットンの下地に3層のフィルターを重ねた構造で二酸化炭素と湿気を排出するバルブが付いたデザイン。製造から3年、使用し始めてから6ヵ月で交換するとのことなので、日本だと1シーズン使えます。価格は1枚33ドル。

米国ではマスクを着用することはあまり一般的ではありませんが、もちろんマスク自体はありますし、新しい発想の製品も登場しています

 しかしウェブサイトにアクセスすると、一番上の部分に「現在新規オーダーの受付を取りやめている」という残念なお知らせが……。おそらく今回のコロナウィルスの影響でマスクが品薄になっている中で、Vogmaskも例外ではなかった、ということでしょう。

やはり世界の中でもマスク大国の日本

 個人的な経験からも、やはり日本はマスク大国だと思います。

 東京はマスク励行が最も進んでいる都市で、人が非常に過密な環境で1時間程度の通勤をしている人々が、インフルエンザや花粉への対策としてマスクをするのはもはや当たり前になっています。

 またマスクをしていると、通勤電車の中でもちょっと油断できますよね。口を開けて寝ていてもわからないし、あっかんべーをしてもバレません。いや、する必要はないのですが。これも、通勤の時にマスクをしていて快適に感じる理由だと思いました。

 日本衛生材料工業会の統計データによると(http://www.jhpia.or.jp/data/data7.html)、2018年度のマスク製造数は国内製造と輸入を合わせて55億3800万枚。この数字がぐっと増えたのは2012年で、東日本大震災の原発事故が関係していると考えて良いでしょう。

 しかし米国で暮らしていると、マスクをしていることは奇異の目で見られることに気づかされます。「何か、重大な病気なんじゃないか」と言う目で見られ、わざわざ人が近づいてこない。マスクが当たり前の東京から引っ越すと、これもまたカルチャーショックの1つでした。

 もちろんドラッグストアにはマスクが売られているし、病院などの医療従事者もマスクを使いますが、日本のように街の風景の中にマスクを見ることはまずなかったのです。

マスクに対応していない顔認証スマホ

 2017年にiPhone Xが登場し、先進国で大きなシェアを持つスマートフォンブランドが顔認証に対応しました。Face IDは顔を3Dキャプチャしてモデル化し、瞬時に認証する仕組みです。指紋認証よりも認証が早く、見るだけでロック解除できる仕組みは快適だと思います。

 しかし、決定的に「マスクとの相性が悪い」のです。つまり、日本においては、インフルエンザ対策が始まる11月から、花粉が収束するまでの半年間、すんなりとFace IDでスマホのロックを解除できなくなってしまいます。

 マスクは顔の半分ほどを覆ってしまいます。そのため鼻、口、口元などの特徴を隠してしまうため、顔認証が精巧であればあるほど、ロック解除できずはじかれてしまうのです。

 ちなみに筆者の場合、上唇までずらすとロック解除できました。そこで、だんだんずらす範囲を小さくしながら、顔のパターンとして学習させる作戦を敢行中です。

 ときどき顔が一致しないとパスコード入力を求められますが、そこで正しいコードを入れてロック解除できれば、学習が進んでいくことになっています。できれば、鼻先だけずらせばロック解除、というレベルまで持っていきたいのですが……。

米国にいる人はマスクが邪魔になるなんて知らない

 日本でスマホを使っていればすぐに気づくはずのこの事実。しかし前述の通り、普通の人ですら半年間マスクを装着して都市生活を送る日本が特殊なわけで、普段からマスクをしない生活様式を送っている人にとって、Face IDが半年間無力化するなんて思いつかないわけです。

 確かにAppleはグローバルに製品を販売している企業ですが、製品には必ず「Designed by Apple in California」と書いてあります。つまり、カリフォルニアの常識にない生活における前提は、そこまで加味ないと解釈して間違いありません。

 ブリーフィングのたびに、役員に日本の特殊事情について話しますが、Face IDとマスク問題、通勤電車での初期のAirPodsの接続落ちの問題などもそうしたトピックだったりしていました。

 しかしマスクで顔認証できない問題も、これから対策が進むかもしれません。というのも2017年以降、カリフォルニアで年々大規模化する山火事によって、その濃い煙がサンフランシスコやシリコンバレーに流れ込み、学校が休校になるなどの影響が強まってきました。

 いわゆる「N95」グレード(細菌や花粉など直径0.3μm以上の微粒子を95%以上捕集できる)のマスクを買いあさり、空気清浄機とともに街やオンラインショップからマスクが消える事態が起きました。2018年には、空気の質に関する警報も出され、毎シーズン山火事の影響でマスクをするようになりつつあります。

 そして今回のコロナウイルスの感染拡大で、空港などでマスクをする米国人の姿も珍しくなくなりました。つまり、マスクがより生活の中で一般化していくことで、「マスクをしているとFace IDが使えない」という実体験が、Appleが本拠地を置くカリフォルニアの人々にも拡がっていきます。

 そのため、マスクで顔認証ができない問題は、そろそろ対策されるのではないかと期待しているのです。

 確かにパスコードを入れれば顔認証をしなくてもロック解除できますが、半年間頻繁にパスコード入力をするならと簡単なものを設定してセキュリティを毀損するのもあまりいいこととは言えません。顔と指紋のハイブリッドにするとか、目の光彩認証に取り組むとか、方法はいくつかあると思っています。

筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura

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