クリプトンがiPad向けハイレゾ・クラウド配信を7月末に開始

文●ASCII.jp編集部

2014年07月03日 11時53分

 ハイレゾという言葉の認知度が向上し、高音質に対する関心が再び高まりつつある。

 しかしハイレゾ音源を楽しむためには、まだまだ課題もある。高価な対応機器、コンテンツの購入方法、そしてストレージに制限のある携帯機器では、どこに保存するかも問題となる。そんな中、タブレットでより手軽にハイレゾ音源を楽しめる、クラウド型の配信サービスに取り組もうとしているのがクリプトン(KRIPTON)だ。

iOS用アプリ「HQM STORE Cloud Player」を紹介する、HQM事業室長の樋泉史彦氏

 クリプトンは7月11日に、音楽配信サイト「HQM STORE」で、世界最大の音楽レーベル・ユニバーサル ミュージックのハイレゾ音源の配信を開始する。同日には配信サイトのデザインやUIも大幅に刷新する。さらに7月末にはiPadに対応したiOS端末向けアプリ「HQM STORE Cloud Player」の無償提供も計画しており、iPadなどで、同社のクラウド上に置いたハイレゾ音源を手軽に楽しめるようにする。

待望のユニバーサル楽曲の取り扱いを開始

 7月2日に実施した説明会で同社が発表した内容のポイントは2点。ひとつは世界最大の音楽レーベルUniversal Music(ユニバーサル ミュージック)のハイレゾ音源の提供開始。もうひとつが、従来のダウンロード型配信サービスに加え、新たにiOS機器での利用を想定したクラウド型配信の開始だ。これを視野に入れ、より買いやすく使いやすいサイトデザインの変更も実施する。

Universal Musicの代表的なレーベル

 ユニバーサル ミュージック音源は当初50タイトルを計画。年内をメドにクラッシック200曲、ジャズ200曲、洋楽を中心としたポップス200曲をラインアップする予定だ。海外マスターが中心で、配信形式はFLAC。品質は楽曲により異なるが24bit/192kHzを基本とする。

 ユニバーサル ミュージックの深尾尚宏氏は、ユニバーサル ミュージックがもともとグラモフォン、デッカといったクラシックに強いレーベルであると紹介。さらに昨年EMIを統合したことで、ブルーノートを始めとしたジャズのレパートリーも大きく拡大したとする。クラシック・ジャズの分野では名実ともにNo.1のレーベルと言える。

当初の配信一覧(50タイトル)

 加えてユニバーサルは、国内独自の企画としてSACDやSHM-CDなどの高音質盤に積極的に取り組んできた経緯を持つ。さらに昨年は、CDのアルミ反射膜をプラチナに変更した高音質ディスク「プラチナSHM」も提供。高音質をユーザーの下に届けるパッケージに取り組んできた企業だ。

 深尾氏は「ハイレゾ配信は、ユニバーサル本社でも最も伸びている事業ドメイン」とコメント。パッケージ販売やダウンロード配信が下降傾向にあるなか、倍々で市場が伸びている唯一の分野であるとした。特に国内では、ハードメーカーが積極的に取り組んでいることもあり、ハイレゾへの関心の高まりに期待する。

 ハイレゾ楽曲を購入する層にも変化が見られる。約9割が男性だが、購買層のピークは従来の50~60代から、40歳をセンターにした前後へと低年齢化し、市場が大きく発展する予兆を感じ取っているという。配信開始に先立ち、クリプトンと1年半ほど議論を重ねたが、「緻密で小回りが利き、情熱と愛情を持ちながらユーザー目線で細やかな対応ができる企業であり、いい勉強と体験ができた」と話す。

今後の配信予定アーティスト

○Rock / Pops: ザ・ローリング・ストーンズ、エリック・クラプトン、ボン・ジョヴィ、エアロスミス、ロッド・スチュワート、ザ・ナック、パット・べネター、スティング、クリーム、キッス、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、スティーリー・ダン、スティービー・ワンダー、ライオネル・リッチー、マーヴィン・ゲイ、ケイティ・ペリー、ナット・キング・コール 他

○Jazz: マイルス・デイビス、ジョン・コルトレーン、ルイ・アームストロング、ソニー・ロリンズ、ハービー・ ハンコック、アート・ブレーキー & ザ・ジャズ・メッセンジャーズ、エラ・フィッツジェラルド、スタン・ゲッツ、高中 正義 他

○Classic: カラヤン ベートーベン交響曲第9番、クライバー ベートーベン交響曲第5番、7番、シャイー マーラー交響曲第9番、小澤 征爾 ブラームス交響曲第1番、エレーヌ・グリモー ブラームス ピアノ協奏曲、アシュケナージ ラフマニノフ ピアノ協奏曲、マルタ・アルゲリッチ デビューリサイタル、ルチアーノ・パヴァロッティ 他

iPadから気軽にハイレゾを楽しめる提案も

 クリプトンにとっても2014年は、HQM STORE開始からちょうど5年の節目の年。濱田正久社長も、年末に向けて配信楽曲の拡充だけでなく、ハード・サービスを含め、いろいろな方向性を模索しているとした。

iPad用の新アプリ。演奏中にタップすると再生可能な楽曲の一覧が表示される

アルバムを選ぶとテンポラリーのプレイリストとして、ジャケット画が下に並ぶ

 そのひとつが7月末から開始するiOS端末を意識したHQM STOREの機能拡充だ。FLAC形式のみで提供してきた楽曲の一部を24bit/44.1kHzのALAC(Apple Lossless)形式でも提供。専用アプリを利用してiPadやiPhoneから気軽に再生できる環境を提供する。タブレット上でハイレゾ音源を気軽かつ最小限の投資で再生できるようにすることで、ハイレゾ配信の裾野を広げようとする意図がある。

 サービスの肝は提供するハイレゾ音源をユーザーの端末内に保存するのではなく、同社のクラウド上に保管している点だ。iPadのストレージ容量は少ないもので16GB、多いものでも128GBと決して大きくはない。ALACで24bit/44.1kHzの楽曲を作成した場合、1時間で0.5GB程度の容量が必要となるが、16GB版のiPadを使用しているユーザーでは大きく見積もっても、20タイトルが限度だ。この問題をクラウドで解決した。

タッチして簡単にプレイリストを作成、ライナーノーツも高解像度

 クラウド上のALACファイルは、一度購入すれば必要に応じてダウンロードしながら再生でき、利用期間に制限はない。購入した楽曲はローカルに保存してバックアップを取ることができるが、NASやパソコンに保存したデータをいちいち呼び出してという複雑な手順が必要になるのでは本末転倒だ。シンプルに端末にヘッドフォンをつなげばいい音で聞けるというコンセプトにこだわったという。

HQM STORE Cloud Playerのインターフェース

 タブレットというと持ち運べる点に注目しがちだが、視聴場所は外出先(=モバイル)ではなく、リビングなど家庭内を想定している。外出先では騒音などの理由でハイレゾの魅力が十分に伝わりにくい点や、Wi-Fiなどを経由して高速かつ速度制限などを心配せず高音質を楽しめる点を重視しているためだ。

 新たに提供するHQM STORE Cloud Playerは直接HQM STOREで楽曲を購入ができるほか、端末内に保存したFLACファイルやiTunes Storeで購入した楽曲も再生できる。USB DAC内蔵のヘッドフォンアンプを外部接続すれば、ハイレゾで楽曲を楽しめる。保存場所も雲のマーク(HQM STOREのクラウド上)、タブレット(ローカル)、音符(iTunesから取り込んだ楽曲)など人目でわかるようにした。

 UIも楽曲を再生中にタップすると、曲の選択画面が現れ、クイックにプレイリストを作れるなどタブレットならではの操作感を追求。追加した楽曲のジャケット写真が画面下部に並んで、再生されると消えていくなどわかりやすくシンプルな使い勝手だ。

ジャケットから関心を持ち、視聴して買う。HQM STOREではこうしたジャケ買いがしやすくなるUIを今後取り入れていく予定

 また、高解像度のRetinaディスプレーという特徴も生かし、ライナーノーツや歌詞カードなども提供。元データも350dpiと印刷品質で、音楽を聴きながら、ライナーを読んだり、ジャケットから楽曲を選び、試聴してフィーリングに合えば買うといったジャケ買い的な使い方も積極的に訴求していく。

Retina ディスプレーの美しい画面を活用した読みやすいライナーノートや歌詞カードも魅力のひとつ

検索だけでなく新たなアプローチで曲を探せる
──HQM STOREリニューアル

 7月11日のサイトリニューアルでは、トップ画面にコンセプトを持った売り場(画面上ではしおりのデザインで表現)を用意。検索条件をつけて絞り込むのとは違うアプローチで楽曲を選べる工夫を盛り込んでいる。

SHOW WINDOWSと名づけられたサイトの新インターフェース。しおりをたどることで、目的の楽曲を見つけやすくしている

 たとえば、「グラフィティ」は、ノスタルジックな楽曲を集めた売り場で、グレンミラーから森山良子、アダモまで、ジャンルを問わず、60代のユーザーが青春時代を過ごした時期に多くかかっていた楽曲を提供。「Feeling」はジャケ買いのための売り場で、楽曲のジャンルや内容ではなく、デザイナーとしての感性だけで選んだジャケ写が並ぶ。試聴画面でもカタログ情報は削除して、写真と試聴だけで曲を選べるようにするという徹底振りだ。iPadユーザー向けに「CLOUD」という入り口や、新規に取り扱いを始めた「UNIVERSAL」専用のしおりも用意。グラモフォンやデッカなど、クラシックユーザーに響くレーベル名からの絞込みも可能にした。

 ほかにもレコード店で店員が書いているレコメンド風の推薦コメントや特集なども掲載し、さまざまな方向から楽曲を選べるようにする。

 なお、ALACで提供される楽曲はカメラータ・トウキョウやマイスターミュージックなどの250~60曲でスタート。コンテンツ提供元から許諾が取れ次第、HQM STOREで配信中の別タイトルを対応させていく。1アルバムあたりの価格は1800~2000円ほどであり、iTunesと大きく変わらない水準。同じ金額であればより高音質なものを求めるユーザーに対して訴求していきたいという。

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