「パフォーマンスの向上」が意味するもの
WWDCの基調講演におけるOS X関連の発表では、Metal for Mac以外にもうひとつ気になる新機能/新機軸があった。それはウインドウを並べてフルスクリーン表示する「Split View」でもない、強化された「Mission Control」でもない、「パフォーマンスの向上」だ。
パフォーマンスの向上は、若干抽象的に表現された。Yosemiteと比較してアプリケーションの起動が最大1.4倍に、アプリケーションの切り替えが最大2倍に、受信したメールの表示が最大2倍に、プレビューを利用したPDFの表示が最大4倍にまで高速化されるというものだ。
ただし、それらのスピードアップは一例に過ぎない。壇上のCraig Federighi氏は、El Capitanではパフォーマンスの強化を「throughout the system」、つまりシステム全体に対して行ったと表現した。言及はされなかったが、FinderやDock、SafariやFaceTimeといったアプリケーションも、なんらかの点でパフォーマンスが向上している可能性が高いのだ。
OS Xにおいてアプリケーションの起動は、LaunchServicesが司る。一義的にはファイルを開く(ダブルクリックなどで起動する)処理を担うが、対応するアプリケーションの情報を事前にデータベース化しておくことで、起動処理を効率化しているのだ。そのLaunchServicesの構造が見直されたのか、ライブラリを含むバイナリの読み込みアルゴリズムが改善されたのかは、現時点では調べきれていないが、LaunchServicesに関する機構にメスが入った可能性はある。この点、「throughout the system」という言葉が腑に落ちる。
一方、アプリケーションの切り替え速度が最大2倍改善されたという点は、具体的に何を指しているか、今ひとつはっきりしない。OS Xはカーネルレベルでマルチタスク/マルチプロセスのOSであり、そのレイヤーでのタスク/プロセスの切り替えはミリ秒単位で行われるため、2倍速くなったとしても体感することは難しい。だから、この基調講演でいうところの"最大2倍"とは、デスクトップでタスクスイッチャーとしての役割を担うFinderの改良を意味すると考えているのだが……。
PDFの表示が最大4倍高速化という件は、単純にCore GraphicsあるいはQuartz 2Dの改良という可能性がある。しかし、JPEGを含めた画像とせず、PDFについてのみ言及したのだから、描画関連フレームワークのうちPDFの処理にまつわる部分の最適化が進んだのかもしれない。だとすると、同じフレームワークを使うQuickLookでのPDF表示も高速化されるはずだが、どうだろう?
ともあれ、El Captainにおける変化は“地味”だ。先端実装がiOSから始まる流れがあるうえ、OS Xのアップデートサイクルが1年ごとと短く、しかも無償配布ということをあわせると、それもやむを得ないか。Metal for Macが移植されただけでも、よしとしなければならないのだろう。