3月21日は、シリコンバレーにある都市、クパティーノのApple本社で、iPhone SEとiPad Pro、Apple Watchの値下げと新バンドが発表されたメディアイベントがありました。
製品については、たくさんの記事でフォローされていますので、本コラムではそれ以外の話に触れておきましょう。
今回で最後の開催となる場所でのメディアイベント
2016年末にも新社屋に移転予定
会場はApple本社内にある200人ほどのキャパシティーの通称「タウンホール」。初代iPodの発表も行なわれた、歴史的な会場でした。しかしTim Cook氏は、この場で製品発表を行なうのは今回が最後になると語りました。
Apple社内でメディア関連のイベントがある際、その多くの場合はイベント会場とタッチ&トライ会場以外は撮影が制限されていることがほとんどです。ところが今回は、メインのエントランス、キャンパス内の中庭、そしてタウンホールのロビーなど、あらゆる場所での撮影が許可されていました。
世界中のプレスを呼ぶAppleにしては手狭なタウンホールを選んだこと、撮影に制限をかけなかったことは、このキャンパスを本拠地とするAppleの一時代が終焉を迎える、記念だったのかもしれません。
2016年末にも完成するAppleの新本社ビルへの移転する予定で、もし次に本社でイベントをやる際には、新しいホールでの開催になるでしょう。そのことを名残惜しそうに、イベントの最後に告げました。
そしてイベント内では確実に、新しい時代へと歩みを進めるAppleの姿勢を毅然と伝える場面も見られました。
Apple創業40周年を迎える4月1日
イベント冒頭のムービーは、キャッチなコマーシャル「40 years in 40 seconds」からスタートしました。音楽に合わせて製品名が表示されていく映像は、これまでのAppleのクリエイティブとは異なる、シンプルな文字のアニメーションでした。
ビデオの中では、Apple Iに始まり、あらゆるハードウェア名、ソフトウェア名、1ボタンのマウスや、F#を奏でるチャイム、「I’m a PC. I’m a Mac」コマーシャル名、MagSafeやTime Machineなどのアイディア、OS Xのバージョン名に用いられてきたネコ科の生物やカリフォルニアの地名が並べられていきました。
終盤には、リンゴマークを製品名に関した「Apple Watch」「Apple Music」「Apple TV」が並び、40周年を迎える2016年4月1日の日付が表示され、Appleロゴで締めくくられます。
Appleが社名からコンピュータを取り外し、近年は「i○○」ではなく「Apple ○○」を製品名に採用していることは、Appleがコンピュータ企業から、生活をテクノロジーで支える企業へと変化した様子を表現しているようにも感じました。
責任ある企業としての姿勢
新製品と同じくらい注目していたのは、AppleがFBIとの間で争っているiPhoneロック解除問題へのコメントでした。
実はイベント開始1時間を切ったタイミングで、司法省はFBIに第三者からのiPhoneロック解除方法の提供が行なわれたとのことで、22日に予定されていた裁判所でのAppleへの聴聞は、必要性がなくなったとして中止になっています。思わぬ形で、FBIとの対立がぽっかりとなくなった格好です。
元々のプラン通りだとは思いますが、Appleは明確な対決姿勢をあおるのではなく、企業の姿勢を明らかにした上で、間接的にデータとプライバシーを守ることの必要性を強調していました。しかも、その主張を、40周年を迎える企業の社会的責任と持続的な成長のための取り組みに含めたのです。
Appleは冒頭で、再生可能エネルギーの100%利用やiPhoneの完全なリサイクルを実現する、地球環境問題への取り組みを紹介しています。iPhoneを分解するロボット、Liamは、ネジ1本まで取り外して、再利用、リサイクルに回す徹底ぶりに驚かされます。
また、iPhoneを医療研究の手段として利用できるオープンソースのResearchKitへの取り組みに加え、同じくオープンソースで病気の治療をサポートするアプリを開発することができる「CareKit」を披露しました。人々の健康に役立つテクノロジーの姿を示しました。
いずれも、人類が地球上で持続的かつ健康に暮らすことが、Appleの企業の持続性を高める、というメッセージです。社会的な企業であることをアピールし、特に後者では、人々の健康をも取り扱うiPhoneのデータを、易々と捜査当局に渡せない、という意志が透けて見えます。