スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

iPhone 7を創り上げたAppleがモバイル業界で1度敗北したワケ

文●山根康宏 編集●ゆうこば

2016年09月18日 12時00分

Appleを立て直したスティーブ・ジョブズ氏、iPodのヒットがiPhoneを生み出す

 Newtonの失敗はスカリー氏を失脚させ、その後暫定CEOとしてAppleに復帰した故・スティーブ・ジョブズ氏はAppleの業績回復を図ります。2000年に入ると日本ではiモードが大ブレイク、海外ではPalmとWindows Mobile(当時はPocket PC)がPDA市場で争いを起こし、そこにZaurusuも参戦するという状況でした。

 しかし、ジョブズ氏はモバイルデバイスやPDAには参戦せず、2001年に「iPod」を発表します。iPodは大きなホイールを使った簡単な操作に加え、5GB、10GBという大容量のハードディスクを搭載。当初はAppleのPCのMac上でCDから取り込んだ音楽を管理する「iTunes」と連携し、PCに保存した音楽やプレイリストを持ち出せるという位置づけの製品でした。

 翌年2002年にはWindows対応のiPodも発表。2003年には「iTunes Music Store」(元・iTunes Store)を開始し、iPod人気を不動のものとします。もはや、音楽を聴くためにCDショップやレンタルショップへ行く必要は無くなり、PCの前で合法的に聞きたい曲を自由にダウンロードできるようになったのです。

 iPodとiTunes Storeの成功により、AppleはPC以外の柱となる製品を生み出し、さらにコンテンツ手数料による収益ビジネスも確立しました。

音楽業界と音楽プレーヤーの市場を変えたiPod

 iPodはその後「iPod mini」「iPod shuffle 」「iPod nano」など製品バリエーションを広げ、そのどれもがヒット商品となります。また、iPodは持つことそのものがオシャレで先進的なイメージというも広がりました。

 その一方では、2000年代中半にアメリカを中心にBlackBerryが大ブレイク、アジアやヨーロッパではノキアのSymbianスマートフォンがヒットするなど、第1世代のスマートフォンの利用者が世界的に増えていきます。そんな時代の流れの中で「iPodで電話をかけたりメールが出来れば」と思う消費者の声も高まっていきました。

 その回答として、Appleは2005年9月にモトローラと協業してiTunesに接続できる携帯電話「Motorola ROKR E1」(モト・ロッカー)を発表しました。ホワイトなボディーはiPodをイメージしており、端末側には専用のアプリが搭載されました。携帯電話とiPodが融合したROKR E1はAppleユーザーの夢の携帯電話にも思えたものです。

 ところがROKR E1は商業的に大失敗に終わります。ベースとなった携帯電話は画面解像度が低く、CPUも低速など低性能ゆえに操作性が悪く、iPodから乗り換えようと思える出来ではありませんでした。

 なによりも100曲しか転送・再生できないという、不自由極まりない製品だったのです。そもそもROKR E1はiTunes用に一から開発されたモデルではなく、前年発売の「E398」あたりをベースにした製品と言われています。汎用携帯電話に後からiTunesを入れるのでは、快適な操作を望むのはそもそも無理だったのでしょう。

ROKR E1は失敗に終わったが、それはiPhone登場の序章に過ぎなかった

 なお、当時のモトローラは2004年秋に発売した「Motorola RAZR V3」が大ヒット。その派生モデルを次々と出しており、ROKR E1の失敗はビジネスやブランドに傷をつけるものにはならかなったようです。RAZRシリーズはそれほどまでに、世界中で注目を集めた人気製品だったのです。

 ROKR E1はさまざまなしがらみから中途半端な製品になってしまったとも言われています。しかし完璧主義を誇るジョブズ氏はなぜこのような製品を認めたのでしょうか?

 恐らくROKR E1の発売時点で、すでにiPhoneの開発は始まっていたはずです。ちなみに、iPhone以前の動きは海外のメディアなどが「iPhone開発秘話」のような形でいくつも記事にしています。ROKR E1は、iPodの使える携帯電話を求めるユーザーのために、iPhoneまでの時間稼ぎとして投入されたモデルだったのかもしれません。

 「2年後に発表する予定の新製品に絶対的な自信があった」。ROKR E1の失敗はAppleを慌てさせるものにはならなかったのです。また、結果としてスマートフォンメーカー各社に「Appleは恐れる存在ではない」、という安堵感を与えてしまったことでしょう。2007年1月9日に世界が変わってしまうなど、その当時は誰も想像できなかったはずです。たったひとり、ジョブズ氏を除いては。

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