スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

iPhone 7へ至るまでにAppleに立ちふさがった数多くの壁

文●山根康宏 編集●ゆうこば

2016年09月27日 13時00分

 追加の紫外線対策などが必要になったことなどによりホワイトのバックパネルの製造が遅れ、発売はブラックモデルより10ヵ月も遅れたのです。現在(2016年9月)iPhone 7のジェットブラックの入荷が遅れていますが、6年前にもアップルは人気色の入荷問題を体験しているのです。

 また、iPhone 4は側面のフレームをアンテナにするという大胆な設計を採用しましたが、その結果、手でにぎるとアンテナ感度が落ちるという問題を引き起こしました。

 これに対してアップルは「アンテナ問題は自社だけではない」とし、他社品との比較に問題をすり替えようとしたために論争を広げてしまいます。

 アップルの言い分に対してノキアは「デザインとアンテナ設計と本体デザインのどちらかを優先するとしたら、アンテナを取る」とアナウンス。また、BlackBerry(当時は「RIM」)やサムスンも反論。結果としてアップルは、iPhone 4ユーザーに本体をカバーするバンパーを無償配布することになりました。

 破竹の勢いで急成長を遂げたiPhoneですが、当時のアップルはまだスマートフォン設計に対するノウハウが完全では無かったということでしょう。ホワイトモデルの遅延とアンテナ問題は、PCメーカーだったアップルが、スマートフォンメーカーとしても脱皮するためのひとつの試練だったのです。

iPhoneの発売当日は世界中のAppleストアに客が押し寄せた(香港のiPhone 4発売日)

 そして、2011年1月にはCDMAに対応したiPhone 4がアメリカのベライゾンから発売されます。それまでのiPhoneは全モデルがW-CDMAとGSM方式にしか対応していませんでした。CDMAに対応したことで中国電信やKDDIなど、各国のCDMAキャリアへの投入が大きく期待されました。

 また、CDMA版の登場により、アメリカではAT&TによるiPhoneの独占販売が終了します。アップルはその後「1ヵ国1キャリア政策」を見直し、世界的な拡販に本格的に動き出します。

 日本では2011年10月にKDDIから「iPhone 4s」が登場し、ソフトバンクでの独占販売が終了。2012年のiPhone 5からはドコモも参入し、現在の3社販売体制となりました。

 iPhone 4sの登場で世界が湧きたつ中、悲しい訃報もありました。2011年10月5日、アップルは病気療養中だったスティーブ・ジョブズCEOが他界したことを発表しました。

 同氏がIT業界に与えてきた影響は計り知れませんが、iPhoneはスマートフォンという1製品の枠をこえ、通信業界だけではなく世界中の人々の生活そのものを大きく変えました。iPhoneが登場しなければいまのスマートフォン市場は全く異なるものになっていたことでしょう。

 販売キャリアの拡大、無料で利用できるiCloudの開始、アンテナ問題を改善した本体デザインなど、iPhone 4sは売れに売れまくり、2011年第4四半期の販売台数でノキア、サムスンに次ぐ単独3位にまで上り詰めました(ガートナー調査)。2012年にはサイズを大型化したiPhone 5を投入。着々と販売数を高めていきます。

 2013年は「iPhone 5s」と「iPhone 5c」を発表。iPhone 5cはカラーバリエーションを持たせた低価格モデルで、新興国向けとも言われました。5cの「c」はChinaのc、ともウワサされたほどです。

 しかし、iPhone 5cは価格設定が中途半端だったことと、中国ではiPhone 5sの新色のゴールドが爆発的な人気になったこともあって、iPhone 5cはビジネスとしては成功しなかったようです。それでも、iPhone人気が落ちることは決してありませんでした。

 2014年にはフルモデルチェンジの「iPhone 6」と「iPhone 6 Plus」を発表。初めて2つの画面サイズを用意し、コンパクトで片手操作を求めるユーザーと、Androidではすでに人気の大画面モデルを求めるユーザーの両方をカバーする製品となりました。

 これによりユーザー数はさらに増え、両モデル発売後の2014年第4四半期の販売数で、アップルはついにサムスンを抜いてシェア1位となります。初代iPhoneの発売から7年で、アップルがついに頂点に立ったのです。

iPhone 6 / 6 Plusの投入でついにシェア1位へ。しかし、本当の競争はこれから始まる

 2015年に入ると、先進国のスマートフォン需要が一巡したこと、世界最大市場である中国での成長の鈍化により、スマートフォン全体の販売数に陰りが見え始めます。

 また、先進国の代わりに伸びる新興国ではミドルレンジモデルの需要が高まり、各メーカーとも中低価格帯のモデルにも注力するようになりました。ハイエンド製品しか持たないアップルに初めて逆風が吹き始めたのです。

 2015年秋に「iPhone 6s」と「iPhone 6s Plus」を発売した後、2016年3月に発表された「iPhone SE」はそのミドルレンジ市場を狙った製品として、これから進化が問われることになるでしょう。

 2016年10月の「iPhone 7」と「iPhone 7 Plus」は、これまでの2年おきのフルモデルチェンジではなく、iPhone 6シリーズの使い勝手を強化するモデルとなりました。

 スマートフォンのハードウエアの進化は現時点ではすでに限界と言えるところまで高まっており、各社の新製品も機能は横並びの時代を迎えています。アップルがスマートフォンをどう変えていくのか、世界中の注目を浴びるiPhone 7と7 Plusには大きな期待がかかっているのです。

mobileASCII.jp TOPページへ

mobile ASCII

Access Rankingアクセスランキング