スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

極上の変態ケータイも生み出した「モトローラ」の栄光と没落

文●山根康宏 編集●ゆうこば

2016年10月02日 12時00分

 当時の携帯電話市場は2Gから3Gへの移行が本格化しており、また、カラーディスプレーにカメラの搭載がブームになった時代でした。3G携帯電話は価格が高く、サイズも大きく、2G対応の携帯電話とは比較にならないくらい使いにくいものでした。

 モトローラの最初の3G携帯電話もサイズは大型で、外付けカメラは本体の背面全体をおおうカバーに取り付けられたアタッチメント式と、手軽に使えるものではありませんでした。

 しかし、モトローラはその大きいサイズを逆手に取って、Symbian OSを内蔵したスマートフォン「A920」を発表します。本体サイズは大柄ですが、中央に大きいディスプレーを搭載。3G対応、カメラも内蔵、そしてOSのバージョンはSymbian UIQ 2.0で、ノキアが採用するSymbian Series 60(当時)とは異なるタッチパネル式のスマートフォンでした。

 同年末にはデザインをスタイリッシュにし、機能アップをはかった「A925」も投入。ちなみに、A925の基本スペックはOMAP1510(168MHz)、メモリー12MB、ストレージ32MB。いずれも「G(ギガ)」ではありません。ディスプレーは208×320ドット、カメラ画質はVGAでした。

後述するA1000(左)とA925(右)。Symbian UIQ採用のスマートフォンだ

 このままSymbianスマートフォンで展開していくと思いきや、Linux OSを搭載した「A760」も同年に発売します。Accompliと同じフリップタイプのタッチパネルスタイルで、解像度はCIFながらもカメラも搭載していました。しかし、388cと比べるとデザインは野暮ったく、価格も高かったことから売れ行きは思わしくなかったようです。

 それだけではなく、折りたたみ型携帯電話スタイルの「MPx220」も登場します。こちらはマイクロソフトのWindows MobileをOSに採用した製品でした。

 タッチパネルは搭載せず、OSのバージョンは携帯電話と同じ10キーを使って操作する「Windows Mobile Smartphone 2002」でした。つまり、タッチパネル端末はLinuxを、折り畳み携帯スタイルはWindows Mobileを、という2つ種類にわけた戦略をとったのです。

 このころ日本では、iモードが大々的に使われており、日本の折りたたみ型の携帯電話に世界中が注目している時代でした。そんなこともあり、モトローラも同型のデザインの端末を携帯電話ではなく、スマートフォンとして投入したのでしょう。

 蛇足ながら、同年にモトローラが出した折りたたみ型携帯電話「V750」はシャープの海外向けモデルのOEM品です。

「RAZR」の大ヒット! スマホ市場への転換が遅れる

 モトローラのスマートフォンはコンシューマー向けタッチパネルタイプがSymbian OS、ビジネス向けがLinux、折り畳みスタイルの高性能端末がWindows Mobileと、3つのラインでその後製品を増やしていきます。

 2004年にはSymbianの「A1000」、Linuxの「A768i」、Windows Mobileの「MPx100」「MPx220」と、ノキアに対抗するかのように多くのスマートフォンをリリースしました。縦に横にも開くことができ、しかも縦スタイルは10キー、横スタイルではQWERTYキーボードとして使える「変態ギミック」とも呼べる「MPx」もこの年の登場です。

縦にも横にも開き、10キーとQWRETYキースタイルで使えるMPx。「世界変態スマートフォンランキング」があれば、間違いなく1位の製品

 しかし、2004年のモトローラの大きなトピックは、スマートフォンではありませんでした。この年に登場した携帯電話「RAZR V3」、通称「MOTORAZR」(モトレイザー)が空前の大ヒット製品となるのです。

 金属ボディーでスリムに折り畳めるスタイリッシュなボディーのRAZRは、世界中の消費者の注目を一気に集めます。しかし、結果として、RAZRのヒットがモトローラのスマートフォン戦略に大きなマイナス影響を与えてしまいました。

 まず、RAZRフィーバーはその後のモトローラの製品デザインに大きな影響を与えます。同社の端末デザインが次々と薄さを強調したものになっていったのです。

 また、製品名も「KAZR」「RIZR」「ROKR」「SLVR」と、RAZRと類似したものを次々と付けていきました。いずれの製品もRAZRファミリーとして人気となり、モトローラはスタイリッシュな携帯電話を次々と世に送り出すメーカーとしての地位を固めていったのです。

 その結果、モトローラの携帯電話販売数はグローバルシェアで20%を超えほどになりました(ガートナー調べ、以下同)。首位のノキアのシェアは依然30%台と強さは変わらなかったものの、その差をようやく縮めることができたのです。

 アップルの回で書いたiTunesと連携できる「ROKR E1」も、このRAZRブームの中の2005年に登場しました。なお、A1000をドコモ向けとした「M1000」も2005年の発売です。ドコモのスマートフォンは、実はこの時に初めて登場していたのです。

 次々と携帯電話のヒット商品を出す中で、スマートフォンはラインアップを大きく変えていきます。

 まず、Linux OS搭載製品は「Aシリーズ」として継続的にリリースし、クリアカバーが美しい「A1200」を2005年に投入。一方、Windows Mobileは一転してQWERTYキーボードを搭載する「Qシリーズ」を新たに加えました。当時はBlackBerryの人気も高く、ビジネススマートフォンとしてこのスタイルの製品を投入したのでしょう。

 そして、Symbianは引き続きタッチ操作可能なUIQ 3.0搭載の「RIZR V8」を2007年頭に発表しますが、スライド式10キーを内蔵するという、高機能携帯電話という位置付けの製品でした。これらのうちQシリーズは中国などで人気になったものの、他の製品はパッとしない、という状況でした。

 そして、運命の2007年がやってきます。アップルのiPhoneの発表です。iPhoneはデザインが美しいだけではなく高性能であり、モトローラが強いアメリカ市場で熱狂的な歓迎を受けます。iPhoneが1月に発表されるや否や、多くのアメリカ人が発売時期となる6月を心待ちにしたのです。

 こうなると、消費者はデザインだけを売りにしていたモトローラの携帯電話への関心を無くしてしまいます。また、RAZRは2004年の登場から3年が経ち、デザインも陳腐化してしまいました。

 後継モデルは機能強化により厚みが増すなどデザインが劣化、低価格品までもRAZRスタイルを採用したことでプレミアム感も無くなってしまったのです。

 2007年の携帯電話販売台数は、ノキアが4億3545万台で1位、2位はモトローラの1億6431万台でしたが、3位のサムスンが1億5454万台とほぼ同数で追いつかれてしまっています。

 しかも、四半期ごとのデータを見ると、第3四半期にはサムスンがモトローラを抜いており、それ以降、モトローラは下降線をたどっていきます。

 モトローラはiPhoneへ対抗するために、2008年に「A1600」「A1800」「A1890」とLinux OSスマートフォンを立て続けに投入します。しかし、アプリ環境などエコシステムは構築されておらず、スタイラスペンによるタッチパネル操作もiPhoneの前には使いにくいものでした。

 一方、RAZRの復活とばかりに円形ディスプレーを搭載しフリップ部分が回転するという高級携帯電話「Aura」を投入するも、市場で話題になることはありませんでした。

RAZRが大ヒットしてしまったため、スマートフォン戦略に大きなミスが出てしまった

 モトローラのシェアは2008年に急落し、販売数も前年の1億6431万台から3分の2となる1億660万台に落ち込みます。グローバルシェアはノキア、サムスンの時点の3位に付けるもののシェアはそれぞれ38.6%、16.3%、8.7%、サムスンに倍の差をつけられました。

 しかも、続くLGは8.4%、ソニーエリクソンが7.6%と、下位2社にもほぼ追いつかれてしまいます。翌2009年は年明けにWindows Mobile 6.1 Professionalを搭載し、薄型でフルタッチディスプレーの「A3000」を出すものの、iPhoneのライバルにもなりえませんでした。

 スマートフォンもダメ、フィーチャーフォンもダメ。もはや打つ手がなくなったモトローラは、ようやくスマートフォン戦略を大きく見直します。それは、いままでのOSを全て捨てさり、Androidへ乗り換えることでした。

 しかし、すぐに製品を出せるわけではありません。2009年上半期のモトローラの新製品はボリュームゾーン向けの低価格なエントリー携帯電話ばかりという、最悪な事態にまで落ち込んだのです。

 2009年9月、モトローラは新世代スマートフォンを発表します。これはRAZRの成功体験を捨て去り、スマートフォンにシフトするという新たな旅立ちの始まりでした。ここからモトローラの復権が始まりますが、その道は平たんなものではなかったのです。

 なお、2009年の通年販売数は5848万台と前年比で半減となり、シェアはLGに抜かれ4位にまで下がりました。そのLGとの販売数の差は倍以上、ソニーエリクソンと4位の座を争うという状況まで落ち込んでしまったのです。

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