MCコジマのカルチャー編集後記

マクドナルド「ベーコンポテトパイ」に見る一期一会

文●コジマ

2016年10月19日 08時00分

 それは2015年に発売された「パイナップルパイ」。ハワイアンフードをマクドナルド流にアレンジしたメニューなどを提供する「ワールドマック ハワイ」キャンペーンの中でも、人気が集まり、真っ先に販売が終了してしまいました。

 売れすぎて、数が足りず、限定販売。そこにはもしかすると、話題作りのためのさまざまな戦略が渦巻いているのかもしれません。限定と言われると、いまのうちに……という気持ちもはたらきます。しかし消費者の立場からすると、ちょっとさびしいもの。

 飲食チェーン店のメニューは一期一会。食べられるうちに、悔いを残さないように食べておきたいですね。

今日の作業“中”BGM
Otis Redding「Otis Blue / Otis Redding Sings Soul」

Image from Amazon.co.jp
オーティス・ブルー

 今日紹介するのは、ソウルの巨人、オーティス・レディングが1965年に発表した3作目のスタジオ・アルバム。1964年12月に死去したサム・クックのカヴァーを3曲取り上げているほか、ギタリストのスティーヴ・クロッパーのアイディアによりローリング・ストーンズ「(I Can't Get No) Satisfaction」が録音されているなど、当時の空気感も詰まっています。

 「ビルボード」のR&Bアルバム・チャートで1位を獲得したのみならず、イギリスでも大ヒットを記録、1966年には全英アルバムチャートで最高6位にランクイン。ピーター・バラカン氏は当時のラジオでこのアルバムに収録されている「My Girl」を聴き、「この曲はオーティス・レディングのオリジナルだ」と思っていたそう(実際はテンプテーションズのカバー)。それだけ、イギリスでも売れていたわけです。

 このアルバムについては、本当に虚心坦懐、ただ聴いてみてほしい、という感想に尽きます。骨太で、熱い。中でも「I've Been Loving You Too Long(邦題:愛しすぎて)」の絶唱は筆舌に尽くしがたい。カバーだろうがオリジナルだろうが、すべてを自分の色に染め上げてしまうオーティスの声の力は、まさしく「ソウル」。ソウル・ミュージックという言葉が生まれた1960年代の一つの象徴ともいえます。

 バックはブッカー・T&ザ・MG'sの面々。ビッグバンドではなくて、シンプルな編成のハウスバンドなのがポイント。そこに飾らないワイルドなオーティスの歌声が乗ると、音楽そのものがザクッ、バリッ、という豪快な切れ味になるのですね。

 「(I Can't Get No) Satisfaction」のカバーにはこんなエピソードがあります。ローリング・ストーンズのキース・リチャーズはボブ・ディランと初めて会ったとき「僕でも『Satisfaction』を書けただろう」と言われたとか。これに対し、リチャーズは「それじゃあ、なぜ先に『Satisfaction』を書かなかったんだ。それにオーティス・レディングは『Satisfaction』をカバーしたけど、あんたの曲はやってないぜ」と、オーティスを引き合いに出して反論したそうです。オーティスがミュージシャンたちの間でも敬愛されていることがうかがえます。

 日本にもオーティスに心酔したミュージシャンは多く、故・忌野清志郎に至っては、オーティスが左手でマイクを握っていたステージ写真を見て、右利きであるにもかかわらず、自分も左手でハンドマイクを握るようになったとか。しかし、その写真が実は裏焼きされたものだったことを後に知って愕然としたそうです(つまり、オーティスも右利きだった)。なんとも味わいのあるエピソードですねえ。


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