スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

「究極のXperia」という混乱を経てXperia Z5、XZへ辿り着いたソニーモバイル

文●山根康宏 編集●ゆうこば

2016年10月30日 12時00分

 一方、フラグシップのZシリーズはグローバルでフルモデルチェンジのXperia Z2を出す直前に、北米で昨年モデルのマイナーチェンジ版となる「Xperia Z1s」「Xperia Z1 Compact」をリリース。

 そのXperia Z2もわずか半年前のXperia Z1のマイナーチェンジモデルと、製品名が混在しモデル間の特徴がつかみにくくなっていきます。Xperia Z2はディスプレーサイズが5.2型になったものの、ほかのスペックはほぼZ1と同じ。Z1の派生モデルという位置付けならば、Z1 Plusなどの名前でもよかったのかもしれません。

 「究極のXperia」という触れ込みで登場したはずのXperia Zが、半年おきにZ1、Z2と数字が付与され、しかも大きな変化が見られないとなると、消費者はどのモデルを選べばいいのか悩んでしまうでしょう。また、ハイエンドで価格の高いスマートフォンはキャリアと2年契約で購入しますから、Z2の発売直前にZ1を買った客には不満が残るでしょう。

 日本のようにキャリア主導でユーザーに最新モデルだけをアピールしていく、という市場は実は他には無いのです。海外の家電量販店では前のモデルも併売されていますから、間違って古い製品を買ってしまう恐れもあります。

半年おきにモデルチェンジする’フラグシップ機、ソニーの意図はどこにあったのか

 Z→Z1→Z2の投入スケジュールを見てしまうと、Xperia Z2が発表されても、消費者だけではなく販売店サイド側も「半年後にはXperia Z3が出る」と考えてしまいます。買い時をちょっとでも逃せば次のZ3を待とうと消費者は考えるでしょうし、販売店側も数多くの仕入れを増やせないでしょう。

 日本のキャリアビジネスに合わせたフラッグシップモデルの投入スケジュールは、結果としてソニーのスマートフォン全体の魅力を失わせるものになってしまったと考えられます。

 2014年9月には予想通り「Xperia Z3」を発表。このモデルは北米のベライゾン向けに「Xperia Z3v」という派生モデルも登場します。下期は他に「Xperia Z3 Compact」「Xperia E3」「Xperia C3」などを発売。最終的な販売台数は3779万台となり、前年の3760万台(数値はガートナー)をわずかながら上回りました。

 とはいえ、中期修正した目標台数には到達せず、また世界シェアも2.0%(同)と伸び悩み、シャオミ(3.0%、同)に抜かれるどころかマイクロマックス(2.0%、同)にほぼ並ばれる9位に留まりました。

Xperia Z4ショックを受け、渾身のフルスペックモデルを投入、そして新たな展開へ

 2015年2月、バルセロナで開催された「MWC2015」のソニーブースに異変が起きました。ここで発表されたのはミドルレンジモデルの「Xperia M4」とタブレットの2機種のみ。Zシリーズの最新モデル「Xperia Z4」の姿はどこにも無かったのです。

 ソニーの説明によると「Xperia Z3の販売が好調」ということでしたが、半年おきに新製品を投入するという製品開発戦略が、ユーザー不在のもとに行なわれてきたことをようやく理解したということなのでしょう。

 Xperia Z4はその後、4月に日本のみで発表会が開催され、グローバルでは「Xperia Z3+」のモデル名で登場することになりました。クリスマスシーズンや海外の新学期シーズンを外した時期に登場したこの製品は、海外ではあまり大きな報道もされず、Xperia Z3の強化版という位置づけで売られるにとどまったようです。

 ですが、メジャーアップデートを1年間控えた結果が、「Xperia Z5」シリーズへの注目を消費者から大きく向かせる結果となりました。

 2015年9月に発表されたXperia Z5シリーズには、世界初の4Kディスプレーを搭載した「Xperia Z5 Premium」も登場。コンテンツすべてが対応するわけではありませんが、久しぶりにソニーの技術力を結集したモデルとして注目を集めます。

2015年9月開催のIFAでは、1年ぶりにフルモデルチェンジしたXperia Z5シリーズが大きな人気になる

 ファミリーモデルとなる「Xperia Z5」「Xperia Z5 Compact」と合わせた3製品は、いずれも側面にあった円形の電源ボタンを廃止し、代わりに指紋認証センサーを搭載しました。初代Zから続いていたこのデザイン変更は、過去のXperiaシリーズとの決別を告げるものでもあったのでしょう。

 なお、3モデル共にデュアルSIM対応品も用意されています。過去のモデルのデュアルSIM機能はミッドレンジを中心としていましたが、今や新興国のハイエンド端末ユーザーの間にもデュアルSIM需要が存在しているのです。市場の動きにしっかりと対応するあたりは、ユーザー目線にしっかりと立っていることの表れと言えます。

 ところで、この年の10月には米ベライゾンから「Xperia Z4v」が登場する予定でした。Xperia Z4を強化したモデルで、WQHD解像度(1440×2560ドット)のディスプレーを搭載することで、映画やゲームをより楽しめる製品となるはずだったのです。

 しかし、すでにZ5シリーズを大々的に発表した後であることなどから、Xperia Z4vはキャンセルとなってしまいました。このあたりはキャリアとの協業の難しさでしょうが、「Xperia Z5v」として開発していたのならば、発売されていたかもしれません。

 2015年のスマートフォン出荷台数は3000万台を割り込み、シェア10位の圏外へと落ちてしまいました。しかし、ソニーは2014年11月に就任した十時裕樹・ソニーモバイルコミュニケーションズ社長が「安定収益路線」すなわち「数ではなく利益」へと戦略変更しており、マイナス成長は織り込み済みでした。

 台数は減ったもののハイエンドを中心とした端末展開は功を奏し、事業の赤字は大幅に改善されました。一時は「スマートフォン事業撤退か」とも噂されましたが、Xperia Z4のグローバル展開を我慢したことなどにより、ようやく立て直しを図ることが可能となったのです。

Xperia Xシリーズで

 そして今年、ソニーはスマートフォンラインナップを一新させます。1月発表の新モデルからは「Xperia X」シリーズという、新しい型番となりました。

 このXシリーズの中心となるモデルが「Xperia X」であり、そこから上下左右のモデル展開をするという製品ポートフォリオへと変更したのです。9月には「Xperia XZ」や「Xperia X Compact」を投入し、基本モデルは年間通じて販売しつつ、派生モデルを適時出していくという、理想的な製品展開をするようになりました。

 これからのソニーのスマートフォンは、ゲームや映像など自社提供コンテンツの活用に加え、Life Space UXなどと組み合わせ、生活空間を豊かにする製品として、新しい展開が行なわれていくと考えられます。

 スペックを重視するのではなく、人々の生活を楽しく豊かにしてくれる、そんなXperiaが次々と生まれてくるでしょう。もちろん日本には最新製品が真っ先に投入されるはずです。Xperia Xシリーズがどのように成長していくのか、日本メーカーの代表でもあるだけに大きな期待をしたいところです。

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