スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

技術力も高いLGがスマートフォンで戦略変更を余儀なくされたワケ

文●山根康宏 編集●ゆうこば

2016年12月13日 18時00分

 とくに薄型スライドボディーや小型のフルタッチディスプレー搭載モデルは、まだ出てきたばかりのiPhoneよりも人気がありました。そして、LGだけではなく、どのメーカーもiPhoneがいまのように市場を変えてしまうほどの人気製品になるとは、想像もつかなかったことでしょう。

 そのため、LGのスマートフォン戦略は、他社よりもさらに大きく後れをとります。

 KS20の次にリリースされたのは、約半年後の2008年2月に発表された「KT610」。OSはSymbianのS60で、横開き型のQWERTYキーボードも備えた特徴的な製品でした。

 開くと両手で自在に文字を打てることからビジネスユースを狙ったノキアのCommunicatorシリーズの対抗機にも見えましたが、メモリー容量が少なかったり、ディスプレーサイズも小型であり、ウェブアクセスもできるメッセンジャーと言う存在の製品でした。

 しかも、当時、S60スマートフォンはノキアが毎月のように新製品を出していた時代です。LGのSymbian機はあまり目立つことも無く、売れ行きはいまひとつでした。

横型クラムシェルでQWERTYキーボードを備えた「KT610」

 そうこうしているうちにiPhone人気が一気に広がっていきます。

 スマートフォンの本格参入に遅れたことから、LGはフルタッチのフィーチャーフォン「クッキー」をリリースしたり、PRADA Phoneにスライド式QWERTYキーボードを取り付けたモデルを投入するなど、2008年は対iPhone製品を次々に送り出していきます。

 2009年4月には、再びWindows Mobile 6.5をOSに採用し、今度はBlackBerryスタイルの「GW550」を発表。KS20、KT610が思ったほどの成果を残せなかったことから、縦型QWERTYスタイルに活路を見出そうとしたのでしょう。

 一方、多数のフルタッチフィーチャーフォンをリリースし、この2本柱でiPhone人気への対抗をはかりました。しかし、その裏ではAndroidスマートフォンの開発が進められていたのです。

スマートフォンブランド「Optimus」の誕生

 2010年1月、LGはAndroidスマートフォン「GT540」を発表します。新たにOptimus(オプティマス)のブランドを採用します。

 このOptimusはAndroidだけではなく、スマートフォン全般に採用されたもので、その後、ほかのOS端末にもこの相性が使われています。

 GT540は上下を丸めた流線型のボディーに、メタリック調の表面仕上げを行なったブラック、宝石はこのような装飾としたピンク、そして、ベーシックなホワイトの3色を用意。

 ミッドレンジクラスの製品であり、スペックよりもデザインで勝負をかけた製品でした。同社のフィーチャーフォンユーザーをそのままスマートフォンへ乗り換えさせることも考えた製品だったわけです。

 3型320×480ドットディスプレー、315万画素カメラ、600MHzのCPUなどいまとなっては時代を感じさせるスペックです。

LG初のAndroidスマートフォン「Optimus GT540」

 そして、同年夏にはフラグシップモデルとなる「Optimus Z」を発表。Snapdragon S1(1GHz)、500万画素カメラ、3.5型480×640ドットディスプレーを搭載。側面は金属風のモールドを施したデザインにするなど、質感と外見も高めた製品でした。

 また、ミドルレンジの「Optimus M」「Optimus S」「Optimus T」も追加するなど、Androidスマートフォンを着々と増やしていきます。

 一方では、Windows Phoneの未来に期待をかけて「Optimus 7」「Optimus 7Q」の2機種も投入します。ですがWindows Phoneは翌年にファッションブランドとコラボした「LG Jil Sander Mobile」で終了。数モデルを出しただけで撤退してしまいました。

 その理由はスマートフォンの出遅れによる、急激な業績の悪化です。2010年の上半期は携帯電話事業が赤字に転落。携帯電話全体の販売台数も、2010年は1億1415万台で、2009年の1億2197万台から減少。シェアは3位でしたが、1位がノキア(4億6132台)、2位がサムスン(2億8107万台)との差は大きく開く一方でした(数値はガートナー)。

 2011年はスマートフォンを次々にリリースするものの、「顔」が不在の1年だったと言えます。当時世界最薄をうたう厚さ9.2ミリの「Optimus Black」、3Dディスプレー搭載の「Optimus 3D」、Optimusシリーズ初のタブレット「Otpimus Pad」など特徴的な製品を出しながら、最上位モデルとなるLTE対応モデル「Optimus LTE」などを発売。

 しかし、サムスンが「Galaxy Sシリーズ」としてフラグシップ製品のモデル名を固定していたのに対し、LGはスマートフォン製品の命名がその都度変わっており、どのモデルがどのレベルの製品なのか、わかりにくい状況に陥ってしまったのです。

 とはいえ、この2011年はQWERTYキーボードを搭載したスマートフォンを多数輩出した年であり、キーボード端末マニアにはちょっとうれしい1年でした。

 「Optimus Q2」「Optimus Slider」「DoublePlay」「Enlghten VS700」と4機種を投入。このうちDoublePlayはスライドして引き出したキーボードの中央部にも小型ディスプレーがあるという、いわば「変態系」の製品でした。

 2011年はPRADA PhoneのAndroid版「Prada 3.0」の投入で締めくくられましたが、携帯電話総販売台数ではついにアップルに抜かれて4位に。

 四半期ごとに見ればホリデーシーズンの第4四半期にZTEにも抜かれ5位に後退するなど、事業不振の状況が目立ち始めてきました。2011年の販売台数はついに1億台を割り、8637万台に留まっています。

 そして翌2012年、LGはスマートフォンのラインアップをようやく整理統合します。

 フラグシップは「Optimus G」、スタイルモデルは「Optimus L」、一般向け製品が「Optimus F」、そしてアスペクト比が4対3のディスプレーとスタイラスペンを利用する「Optimus Vu」の4ラインです。

 これ以外にも派生モデルは出ましたが、基本的にはこの4つを柱とした製品展開を行ないました。

小型タブレット用途も目指した「Optimus Vu」

 中でも9月に発表されたOptimus Gは、業界初のSnapdragon S4 Proを採用、2GBメモリーを積むなどした高スペック機で、大きな話題となります。

 日本でもドコモがハイスペック端末として採用しました。その一方では、ペン型端末として鳴り物入りで投入した「Optimus Vu」「同Vu 2」はニッチなユーザー向け製品に留まり、ライバルであるサムスンのGalaxy Noteシリーズに販売数で及びませんでした。

 2012年通年のLGの携帯電話販売台数は5801万台と、2009年の半分以下に落ち込みます。これは販売台数の大半を占めていたフィーチャーフォンを減らし、スマートフォンシフトを進めた結果です。

 その減少した分を、スマートフォンで少しでもカバーする必要があります。そのために、LGは翌2013年に大きな戦略変更を行なうのでした。

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