スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

日本撤退したNuu MobileはeSIM搭載格安スマホで再上陸に期待

文●山根康宏 編集●ゆうこば

2017年02月05日 12時00分

歴史は浅いが続々と製品を投入するNuu Mobile

 スマートフォンは3シリーズを展開しました。「Nシリーズ」は100ドル台前後でLTEに対応。低価格かつ十分な性能なモデルです。

 その上の「Xシリーズ」は高画質カメラを搭載するなど、さらに機能を上げた製品で、NとX、この2つのラインがNuu Mobileの中核製品となります。北米でもSIMフリーで販売され、プリペイドSIMとの組み合わせでも手軽に買える製品となっています。

 この2つのラインを挟むように展開されているのが「Zシリーズ」と「Aシリーズ」です。アルファベットの最後と最初の文字であることからわかるように、Zシリーズはハイエンド、Aシリーズはエントリー向けのモデル。

 とはいえ、2016年登場の唯一のZシリーズ「Z8」のスペックは、チップセットがMT6752、ディスプレーは5.5型フルHD解像度(1080×1920ドット)、メモリー2GB、ストレージ16GB、1300万画素カメラ。他社で言えばミドルレンジクラスの製品でしょう。ただし、価格は200ドル台なので、コストパフォーマンスは高め。本体の質感も悪くありません。

 Aシリーズは非LTEモデルもあり、50ドルを切る超低価格モデルも。こちらは南米やアジアの新興国などをターゲットにしています。

 実は世界のスマートフォン市場は2015年ころから先進国では成長が鈍化しているため、数が出るのは新興国向けの低価格モデル。海外の新興メーカーが日本であまり知られていないのは、各社とも日本ではあまり受けそうにない、低価格機に注力しているからかもしれません。

唯一のハイエンドモデル「Z8」だが、他社から見ればミドルレンジクラスの製品

 2016年にはスマートフォン以外の製品にも着手します。それがモバイルルーターの「Konnect i1」です。

 eSIMを内蔵していて、渡航先の国では現地キャリアのSIMとして動作。ローミングではなく各国で現地回線を直接利用することで、料金を安価に抑えることができるといいます。

 

類似の製品は複数のメーカーから出ていますが、Nuu Mobileのスマートフォン利用者の多くがプリペイドSIMを使っており、海外渡航時にはローミングができない、あるいは費用が高価、ということからこのような製品を開発したのかもしれません。

 スマートフォンとは異なる販路が必要なため、B2B、企業向けなどへの展開を考えているそうですが、2017年にはキックスターターを使いコンシューマー向けにも提供予定とのこと。全世界100カ国以上で使えるグローバルルーター、日本での展開もあるかもしれません。

日本市場での失敗、eSIMスマホは大化けするか?

 しかし、Nuu Mobileは日本市場に苦い経験があります。2016年にスマートフォン「X4」を引っ提げて市場参入したものの、わずか4ヵ月で撤退してしまいました。

 その最大の敗因は値段設定でしょう。X4の価格は2万9800円。スペックはMT6735(1.3GHz、クアッドコア)、メモリー2GB、ストレージ16GB、5型HD解像度(720×1280ドット)ディスプレー、1300万画素カメラ。アメリカでは198ドルで価格相応と言えますが、3万円弱となると割高に感じられます。

 恐らく、日本での物流などのコストを上乗せしてこの価格となったのでしょう。また、日本でもSIMフリー端末市場が伸び出していることから、強気の価格設定としたのかもしれません。

 しかし、発売から1ヵ月後の8月には1万9800円へ値下げ。海外との価格差は無くなりましたが、一般的にもこの手の値下げは効果がありません。ハイスペックな製品が値下げされれば消費者は飛びつくでしょうが、割高なミドルレンジクラスの製品が下がったとしても、ほかにも類似の製品が多数販売されているからです。

日本で発売も4ヵ月で撤退。「X4」の価格設定ミスが敗因か

 結局11月に入るとNuu MobileはX4の販売を停止し、日本市場からの撤退を表明。秋葉原などでは、その後X4を9800円で処分販売するところも出てきました。

 ブランド力も無い新興メーカーが日本に参入するのであれば、むしろ9800円のキャンペーン価格で販売を始め、後から通常価格に戻す、といった販売戦略が必要だったかもしれません。

 今後、海外でNuu Mobileが新しいスマートフォンを出しても、しばらくは日本で販売される見込みは無いでしょう。ただ、前述したモバイルルーターなら日本での取り扱いも期待できるかもしれません。

 また、Z8の売れ行きがあまり良くなかったのか、Zシリーズの展開はいまのところ止まっており、2017年からは新たに「Mシリーズ」が投入されました。「M」は「メタル」の意味で、金属ボディーを使った高仕上げのモデルとなる予定です。

 「M2」「M3」の2つのモデルが登場予定で、両者の差はディスプレーサイズが異なるだけ(5型と5.5型)。スペックはミドルレンジでXシリーズと同等のようですが、仕上げを高級なものにすることで、プレミア価格の製品としてリリースされるのでしょう。このあたりの製品展開は、新興メーカーの各社が悩んでいるところです。

 一方、CES 2017で発表された「X5」は同じくミドルレンジクラスの製品ながらも、モバイルルーター機能を内蔵しています。仕組みは前年発表のKonnect i1と同等で、eSIMを内蔵しています。

 つまり、スマートフォンなのにSIMを入れなくても世界各国で現地のキャリアを使えるという製品なのです。スマートフォンでこの機能を搭載した製品は、世界初かもしれません。

eSIM内蔵の「X5」。SIMいらずで世界中で使える

 Nuu Mobileのスマートフォンは新興国だけではなく、イギリスなど先進国にも少しずつ販路を広げています。とはいえ、現状の製品展開のままでは、価格だけで勝負するマイナーメーカーから脱皮することは難しそう。

 ここはぜひとも、全モデルにeSIMを搭載するなど、他社がやらないことをいち早く製品化してほしいところ。数年後には、日本市場への再参入もありうるかもしれません。

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