スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

日本上陸した格安スマホメーカー「Wiko」が貫くフランスでの必勝法

文●山根康宏 編集●ゆうこば

2017年02月24日 17時00分

 まず、製品は数字の型番ではなく、すべてに名前が付けられています。2017年2月に日本向けに投入されるモデルの「Tommy」ように、ニックネームのようなモデル名がすべての型番に付けられているのです。これはWikoが若い世代をターゲットにしているからなのです。

 Wikoの最初のスマートフォン「Cink」は3.5型ディスプレーを搭載するエントリークラスの製品でした。その後、ディスプレーサイズを大型化した「Cink Slim」「Cink King」「Cink Five」とモデル展開を広げていきます。

 製品スペックは年々引き上げてられましたが、基本的にWikoのスマートフォンは100~200ユーロ台の手軽に買える価格帯を中心に展開されていきました。

 すなわち他社が大々的にアピールするハイエンドなフラグシップモデルの投入は避け、「SIMフリーで低価格」を売りにして市場を拡大していったのです。

 そのため、ディスプレーサイズの大きいモデルは解像度を下げ、チップセットもMediaTek製を採用するなど、コストをうまく意識した製品を多く輩出しています。しかも、デュアルSIMに対応した製品も多数提供されました。

Wikoといえばこのブリーン。同社のコーポレートカラーだ

 また、本体のデザインは黄色や赤などのカラフルなカラーを積極的に採用。Wikoのコーポレートカラーであるブルーとグリーンを混ぜ合わせた中間色的な「ブリーン」の製品は、白や黒ばかりの他社のスマートフォンの中で大きく目立ちます。

 価格だけではなく見た目も目立つWikoの製品は、他社には無い差別化で着々と販売数を広げていったのです。低価格スマートフォンは、安っぽさを感じさせる製品が多いのですが、Wikoの製品は色合いだけでも、ついつい欲しくなるようなデザインなのです。

 2013年にはフランスを飛び出し、ヨーロッパを中心に世界6ヵ国へ進出。フランス国内では認知度が高まり、一時はシェア2位にもなりました。

 フランスでもiPhoneは人気ですが、キャリアと固定契約を結び、高い基本料金を払わなくては安価に買うことはできません。

 それに対し、WikoのスマートフォンはプリペイドSIMユーザーでも手軽に買え、しかもフランスデザインとも言える外観をまとっています。やはり、若年層を中心にWikoのスマートフォンは人気を広げていったのです。

 2013年のWikoの端末販売数は約200万台(Gfk調査)。フランスでは約170万台を売り上げ8%のシェアを獲得しました(CCS Insight調査)。派手な宣伝は行なわず、オンラインや家電量販店での販売が中心でしたが、SNSなどの口コミを中心に製品の評判が拡大していきました。

ターゲットは若年層。価格プラスアルファの魅力でシェアを拡大

コスパに優れた製品で着々と海外へ進出

 2014年に入ると、LTEに対応した製品を次々に送り出します。最初のLTE対応製品である「Wax」はヨーロッパ向けの製品としてはチップセットに初のNVDIA製「Tegra 4i」を採用したことでも話題になりました。

 クロック数は2.3GHzで、同等のパフォーマンスの他社製品よりも2倍の性能を売りにしていました。ディスプレーは4.7型HD解像度(720×1280ドット)、メモリーは1GB、ストレージは4GBなど、スペックは控えめにし、価格は200ユーロにおさえた製品でした。

 一方では、アフォーダブル・プレミアム、すなわち低価格ながらもちょっと上質なモデルも投入。「Highway」はディスプレーをフルHD解像度(1080×1920ドット)としたWiko初めての製品で、サイズは5型。カメラも背面1600万画素、正面800万画素とし、さらに本体の厚みは7.7ミリとスリムに仕上げていました。

 価格は299ユーロに上がったものの、スペックの高さからヒット商品となります。このHighwayの投入で、Wikoの製品をスペックで選ぶユーザーも増えていったのです。

2014年のHighwayシリーズでスペックも注目されるようになった

 さらには、HighwayをLTEに対応させた「Highway 4G」も追って発売。本体の厚みはさらに薄く7.3ミリとなりました。Highwayの2モデルは他国からの引き合いも増え、2014年には世界21ヵ国へと進出します。ヨーロッパだけではなくアフリカや東南アジアなど、Wikoの製品を目にする国は大きく広がりました。

 このころは、各新興国でも地元の中小メーカーが次々と生まれ、低価格スマートフォンの販売を始めます。しかし、Wikoは「フランスブランド」「オシャレな製品」「しかも、手ごろな価格」を武器に販路拡大に成功していったのです。

 2014年はほかにも、3.5型ディスプレーのエントリーモデル「Goa」や、質感を高めた「Gateway」など約10機種を投入。販売台数は約500万台となり前年から倍増以上。売り上げも3億5000万ユーロと過去最高を記録しました。

 このうちフランスではその半分を稼ぎ、販売シェアは15%まで上昇。もはやフランスではWikoを知らない若者はいないほどの存在となりました。この勢いを武器に、2015年はさらに攻めていきます。

ターゲットユーザー層を広げるGatway。シックな仕上げだ

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