スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

Wikoが値段とデザイン性を両立させた格安スマホを生み出せる理由

文●山根康宏 編集●ゆうこば

2017年02月26日 12時00分

 前年にヒットしたアルミボディーに高画質カメラを搭載した「Highway」は2015年も引き続き販売され、その兄弟モデルとして「Highway Star」「Highway Pure」を投入。本体の質感はそのままに、カメラ画質を下げるなどして価格をおさえました。

 Highwayはチップセットの関係でシングルSIM仕様でしたが、Highway Starは新興国からの要望にこたえMediaTek製チップに変更し、デュアルSIM仕様にするなど、市場のニーズに速やかに対応。ユーザー視線での製品開発はWikoのファンを増やしました。

 2015年秋には、戦略的モデルと言える「Fever」が発売されました。5.2型フルHD解像度(1080×1920ドット)ディスプレーに、MT6753(1.3GHz、オクタコア)、メモリー2GBまたは3GB、ストレージ16GBというスペック。背面はソフトなレザータッチで、手の平にしっかりとフィットする質感に仕上がっています。

 また、背面カメラは1300万画素で高輝度なフラッシュを搭載、正面の500万画素カメラに横にもセルフィー(自撮り)用のフラッシュを搭載。ヨーロッパでもSNS上などで人気が高まりつつあるセルフィー需要もしっかりカバーします。

2015年のWikoの戦略的モデル「Fever」

 セルフィーに特化したスマートフォンとしては、背面・正面カメラ共に800万画素としたその名もずばりの「Selfy」も発売されました。

 ディスプレーは4.8型HD解像度(720×1280ドット)、1GBのメモリーに8GBのストレージと、カメラ以外のスペックを下げることで低価格なモデルとし、10代の若者の間で人気となります。

 セルフィーするなら数万円もするハイエンドスマートフォンを買わなくても済むわけです。

 このようにスペックは高くなくとも、一芸に長けた製品を投入していくことでWikoは着々と人気を高めていったのです。

 シックなボディーカラーの「Pulp」はダークブルーやブラウン、そして落ち着いた色合いのレッドなどの色調で、新たなユーザー層を開拓していきました。

 ところで、iPhoneのような2画面サイズのモデル展開は各社が行なっています。大型ディスプレーの製品名には「Plus」「+」「Note」などという名前を付けるのが一般的です。

 これに対してWikoは、ファブレットから取った「Fab」の名前を付けています。これも他社とは一風異なる印象で、ユーザーの興味をうまく惹きつけています。

大型ディスプレーモデルには「Fab」の名前をつける

日本を含む、グローバルへ市場を拡大

 「若年層が飛びつきたくなるようなスマートフォンを次々と送り出すメーカー」として、Wikoは通信キャリアからも一目置かれる存在になっていきます。

 フランスやイタリアではWikoのスマートフォンはキャリアからも販売されています。また、2017年に日本投入を決めた「Tommy」も、ヨーロッパのOrangeなどキャリアの意向をくんで開発されたモデルです。

 2016年はそれまでと一転して、新製品は10機種弱に留まりましたが、これは前年からのモデルを引き続き販売したためでしょう。

 また、多数のモデルを輩出したことで、ユーザーからの細かいニーズを聞き取ることができ、逆に製品数を絞り込みやすくなったと考えられます。

 前年同様に後継機モデルを出すだけではなく、「Robby」や「Sunny」といった、新モデルも発売になりました。

2016年はモデルを絞りながらも売れ筋製品を増やす。こちらは「Robby」

 2016年のWikoのスマートフォン販売台数は、前年比で倍の1000万台に達しました。また、販売国は34ヵ国まで拡大しました。

 フランスではシェア19%で2位。ポルトガル、イタリア、スイス、オランダ、スペイン、ベルギーでもそれぞれ5位以内に入っており、誰もが知るメーカーの仲間入りを果たしています(数値は同社発表によるもの)。

 Wikoは現在、同社の端末製造を委託していた中国の「Tinno Mobile」の資本を受けています。シャオミなどの「ハイスペック」「高品質」「高コストパフォーマンス」を武器にするメーカーが多い中国で、Tinnoは同品質の製品を送り出すOEM/ODMメーカーとしても有名です。

 フランステイストを感じさせる製品を手ごろな価格で送り出せるのも、WikoとTinnoがガッチリと手を組んでいるからできることでしょう。

 さて、Wikoは日本市場へTommyに続き、複数のモデルを展開していく予定です。Wiko Japanの前田社長によると「Tommyはまずはあいさつ代わりの製品であり、Wikoを日本のユーザーに知ってもらうためのもの」と言います。

 その後に投入される製品は、「Fever」のように機能を高め、さらに高質感な製品になることでしょう。SIMフリー市場が拡大中の日本だけに、Wikoの積極的な日本展開に期待したいところです。

「Tommy」で日本市場への参入を果たす

 ヨーロッパ、アフリカ、東南アジアへ進出したWikoは、今後日本や韓国、さらには香港や台湾などアジア各国での発展を図るでしょう。

 これらの地域ではハイエンドな製品が好まれることから、Wikoからよりハイスペックな製品が出てくる可能性もあります。Wikoのこれからの展開は、日本の消費者にとっても気になるものになるでしょう。

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