スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

自社生産を辞めてもQWERTYキーは残るBlackBerryの今後

文●山根康宏 編集●ゆうこば

2017年04月09日 12時00分

 スペック面でも8707と比べるとディスプレー解像度が480×320ドットに引き上げられ、CPUは倍速化、メモリーは128MB、ストレージは1GBと容量の大幅アップもはかられています。

 カメラはCurveシリーズ同様の200万画素を搭載。そして、Wi-Fi搭載により携帯電話ネットワークの環境が悪いエリアでもWi-Fiがあれば、通信できるようになりました。

 このBoldの登場でBlackBerryはプラスチック製のボディーのスマートフォンに満足できない層からも注目を浴びるようになります。

 しかし、iPhoneの2世代目製品「iPhone 3G」がこの年登場し、販売国を広げます。BlackBerryはその対抗として、初のフルタッチディスプレーを搭載した「BlackBerry Storm 9500」を打ち出しました。

 このStormはディスプレーの中心部を頂点として、ディスプレー全体が上下左右に沈むことでタッチ操作を実現するという、アクロバティックなUIを採用しました。

 単一クリックやダブルクリックはなんとか操作できるものの、連続したタッチは不得意とするなど、このインターフェースは実験的なものに終わってしまいます。後継モデルも登場しましたが、数年後に登場するフルタッチモデルは通常のタッチパネルとなったのです。

 2008年はほかにも「BlackBerry Curve 9300」を投入。Boldよりも解像度の高いディスプレーを搭載し、メタルフレームの仕上げとすることで、カジュアルモデルも高級感を持たせました。

 そして、コンパクトモデルのPearlは折り畳み形状の「BlackBerry Pearl Flip 8220」を投入するなど、おもに女性を狙った製品を継続的に販売していきます。

 ガートナーの調査によると、2008年のスマートフォン市場のOS別シェアはSymbianが1位で52.4%と半数を占めていました。

 これに次ぐのがBlackBerry OSの16.6%、Windows Mobileの11.8%と続きます。一方、アップルのiOSは8.2%と、1年でシェアを急増させました。Androidはまだ0.5%、むしろLinux OSが多く7.6%と、いまとは様相がまったく異なる状況だったのです。

まったく新しい「BlackBerry、BlackBerry Bold 9000」(左)と「同Curve 8900」(右)

 翌年、2009年は既存のラインナップをバージョンアップさせ、「BlackBerry Bold 9700」「BlackBerry Curve 8520」「同8530」を投入。この2モデルからトラックボールが廃止され、ポインティングデバイスはタッチパッドとなりました。

 また、世界各国の周波数に対応したCurveシリーズの派生モデルとして「BlackBerry Tour 9630」、フリップモデルのCDMA版となる「BlackBerry Pearl Flip 8320」なども発売。昨年からの各モデルも引き続き継続販売されており、ラインナップの厚みが増しました。

 その結果、2009年の販売台数は前年の約2315万台→約3435万台と1.5倍増、スマートフォンOSシェアも16.6%→19.9%と高めています(ガートナー調査)。日本でもBold 9000がドコモから発売になり、翌年はBold 9700も登場しています。

 好調に見えるBlackBerryでしたが、2010年は試練の年となりました。販売台数は約4745万台と前年比1.4倍でしたが、スマートフォンOS全体のシェアでは16%とマイナス。前年わずか3.9%だったAndroid OSが22.7%と急増し、シェア3位に落ちます。しかも、iOSは15.7%とほぼ横に並んできました。

 この年はBlackBerry端末で利用できるアプリストア「BlackBerry App World」をローンチ。CurveシリーズとPearlシリーズをようやく3Gに対応させ、ウェブ利用も快適にしました。

 フラグシップモデルは「BlackBerry Bold 9780」「同9650」を投入しています。しかし時代はタッチパネル端末全盛、タブレットの利用者も増えるなど、BlackBerryには若干の追い風が吹きはじめました。

 そこで投入されたのがQWERTYキーボードをスライド式の収納式とし、タッチパネルディスプレーを搭載した「BlackBerry Torch 9800」でした。タッチとキーボードどちらのUIにも対応したものの、市場での反応はいまひとつでした。

 また、初のタブレットとなる「BlackBerry PlayBook」も発表。買収したQNXのOSをベースにしたBlackBerry Tablet OSで動く製品でした。発売は翌年となりましたが、こちらも結果は残せずに終わっています。

 2011年になると、QWERTYキーボードの市場ニーズはさらに弱まっていたようです。BlackBerryは主力モデルをほぼタッチディスプレー化し、さらにはフルタッチモデルも投入しました。

 「BlackBerry Bold Touch 9900」を筆頭に、「同9930」「同9790」を投入。フルタッチディスプレーモデルはスライド機構を廃止した「BlackBerry Torch 9850」「同9860」に加え、Curveシリーズ初のフルタッチモデル「BlackBerry Curve 9380」と、ほぼすべての新製品がタッチパネル対応となったのです。

約20万円の高級機「Porsche Design P'9981」

 この年はポルシェデザインとコラボレーションした「Porsche Design P'9981」も発売し、ブランドイメージの向上につとめます。しかし、販売数は前年から微増の約5154万台に留まり、製品のタッチパネル化戦略は成果を生むことはできませんでした。同年第4四半期の決算もついに赤字となり、先の見えない状況に追い込まれてしまったのです。

起死回生のプラットフォーム変更も、2度目の成功はならず

 iOSとAndroidの高性能化に対抗していくには、既存のBlackBerry OSでは限界があることから、BlackBerryはスマートフォンOSをBlackBerry Tablet OS/QNXベースでつくり直し、再起をかけることにしました。

 背景にはマイクロソフトが2010年にスマートフォンOSをWindows Mobileから互換性の無いWindows Phoneへと切り替えた動きも影響していたかもしれません。

 また、BlackBerryの売りはセキュアなメールプラットフォームであるBIS/BES(BlackBerry Internet Service/BlackBerry Enterprise Service)であることから、アプリの互換性に関しては重要視する必要も無かったのでしょう。

 2012年に発表されたBlackBerry OS 10により、BlackBerryはまったく新しいプラットフォームを搭載したスマートフォンに生まれ変わることになりました。

 しかし、プラットフォーム入れ替えのため、2012年の新製品はCurveシリーズが3モデルのみ。販売台数は3421万台と、前年の3分の2まで落ち込みます。

 2013年に入り、BlackBerryは社名を「RIM」から「BlackBerry」と変更し、ブランド名を社名として使うこととなりました。

 そして、1月に「BlackBerry Z10」と「BlackBerry Q10」の2製品を発表します。BlackBerry OS 10では従来どおりBIS/BESの利用は可能ですが、無くとも通信できるため、通信キャリアや料金プランに縛られず、自由に使えるスマートフォンとなりました。

 また、Androidアプリが動くことで、市場に出回っている多くのアプリを利用できるようになりました。

 まったく新しいOSと製品で、旧来のユーザーだけではなく、新しいBlackBerryファンを獲得する戦略でしたが、2013年の販売台数は約1861万台と前年からほぼ半減。

 大画面フルタッチの「BlackBerry Z30」や低価格な「BlackBerry Q5」も投入したものの、2012年に目立った新製品を出していなかったことから、消費者の関心は他社製品へと移ってしまったのでしょう。

奇をてらったかのようなデザインの「BlackBerry Passport」

 2014年には、BlackBerryユーザーの初心に戻るという意味も込めた「BlackBerry Classic」を発表。また、正方形ディスプレーの「BlackBerry Passport」を発売。

 前者はディスプレーサイズを3.5型としたことからサイズはかなり大柄となってしまいました。後者は特殊な形状とBlackBerryらしからぬ特殊なキーボードの搭載により、結果としてニッチ向けの製品となってしまいました。

 BlackBerry OS 10搭載のスマートフォンは、翌2015年発売の「BlackBerry Leap」が最後。BlackBerry復権をかけたものの、結果として10機種以下の採用に留まり、その後はAndroidを採用していくことになります。

 しかし、すでに数百社が製品を投入しているAndroid市場で、BlackBerryが生き残っていくのはたやすいことではありません。

 2015年秋に発売した「BlackBerry Priv」は、5.4型1440×2560ドット解像度ディスプレーにスライド式のキーボードを搭載。チップセットにSnapdragon 808を採用し、カメラは1800万画素とするなど、同時期の他社のフラッグシップモデルに匹敵する製品でした。

 OSは初のAndroid 5.1を搭載。結果として、これがBlackBerryによる自社製造最後の製品となりましたが、有終の美を飾るかのごとく、すべての力を注ぎこんだ製品だったと言えるかもしれません。

 2016年に入ると、アルカテルブランドのスマートフォンを製造するTCLコミュニケーション製の「BlackBerry DTEK50」「同DTEK60」が登場しました。

 DTEKはPrivから搭載されている、Android上で動作するセキュリティーアプリ「DTEK by BlackBerry」からとった名称。ベースモデルはそれぞれ「Alcatel IDOL4」「TCL 950」で、BlackBerryらしい外装とDTEKアプリがプリインストールされています。

 BlackBerryは2016年9月に自社による端末製造の終了を正式に発表し、今後はソフトウェアの開発に特化。ハードウェアに関しては、ブランドをライセンス提供する形で今後もリリースすることとしました。

 それを受けて2017年2月にはTCLコミュニケーションが「BlackBerry KEYone」を発表。またインドネシアのBB Merah Putihから3月に「BlackBerry Aurora」が発表されています。

TCLコミュニケーション製「BlackBerry KEYone」

 BlackBerryのブランド力はいまでも大きな影響力を持っており、今後はライセンス先のメーカーからさまざまな製品が登場してくるでしょう。とくに、スマートフォン大手のTCLコミュニケーションからは、定期的にQWERTYキーボードを搭載した端末が出てくることが期待できます。

 今後はスマートフォン上でのセキュリティーが重要になってくることから、他社のスマートフォン上でDTEKアプリを利用することも広がっていくかもしれません。自社によるスマートフォン製造からは撤退したものの、BlackBerryの魂は今後も引き継がれていくのです。

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