スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

21:9の縦長スマホを先んじて出していたAcerの奮闘

文●山根康宏 編集●ゆうこば

2017年04月30日 15時00分

 エイサーとしても、ポストPC時代を見据え、スマートフォンへ参入するならいまと判断したのでしょう。

 そのため、エイサーは2008年にスマートフォンメーカーで同じ台湾のE-TENを買収しました。E-TENは2004年からWindows Mobile端末を次々と発売していた老舗の会社です。

 同社のスマートフォンブランド「Glofiish」はWindows Mobile製品の中でもアジアを中心にメジャーな存在でした。開発ノウハウを持ったメーカーを傘下に置くことで、エイサーは出遅れたスマートフォン市場へのタイムラグを一気に縮めようとしたのです。

 エイサーの初のスマートフォン「DX600」は2009年2月発表。コンパクトサイズながらもフロントにもテレビ電話用のカメラを搭載し、SIMカードはデュアル仕様。初の製品として完成度が高かったのも、E-Tenの過去の製品の流れを引き継いだ製品だったからでしょう。

 ほかにも上位モデルとして3.8型の当時としては大型なディスプレーを搭載した「F900」や、それに横スライド式のQWERTYキーボードを搭載した「M900」も投入するなど、手堅いラインナップを揃えていました。

DX600はエイサーの最初のスマートフォン

 そして、同年の2009年10月には新たにスマートフォンブランドとして「beTouch」「neoTouch」「Liquid」の3つのラインを立ち上げます。beTouchとneoTouchはWindows Mobile、LiquidはAndroidを採用したスマートフォンで、ラインアップを着々と広げていきます。

 しかし、2010年2月登場の新製品では「beTouch E110」がAndroidを採用するなど、製品ブランドはOS別ではなく、機能別のものとして区分されていました。

 恐らくこれは同社のPCのラインナップと同じ考えだったのかもしれません。一方で、モデル名につく「E」はAndroid、「P」はWindows Mobileとなり、「neoTouch P400」ならば上位モデルでWindows Mobile、となるわけです。

neoTouch P300はスライド式QWERTYキーボード内蔵端末

 このころはまだWindows Mobile端末が各社から多数出ており、エイサーとしてもスマートフォンOSを絞り切れない状況だったのかもしれません。

 しかし、Windows Mobile端末は2009年で終了し、それ以降はいったんAndroidへとスマートフォンOSは一本化されます。

スマートフォンのLiquidとタブレットのIconiaで市場を攻める

 なお、2009年にはマルチメディアスマートフォンとして「Stream」が登場しました。その名前のとおり、ストリーミング音楽再生機能を持ち、ハードウェアキーとして音楽再生コントロール用のボタンがディスプレーの下部に配置されました。

 2017年のいまの時代なら十分実用性のある製品ですが、当時はまだコンセプトにネットワークやハードウェアが追いついておらず、実験的な製品に終わってしまったようです。

 2011年はLiquidブランドのスマートフォンは1モデルのみ、「Liquid mini」だけに留まります。これは2010年秋に発売した金属ボディーの高級モデル「Liquid mt(Liquid Metal)」を自社の「顔」製品として販売しようという戦略があったのかもしれません。

 一方、この年にはAndroidタブレットのIconia Tab Aシリーズを他機種投入します。スマートフォンでなかなかシェアを上げられない状況であったことと、タブレットブームが起きたことからモバイルデバイスの開発リソースをタブレットに向けたとも推測されます。

 なお、Iconiaシリーズからはおもしろい製品が生まれました。細長いディスプレーを搭載した「Iconia Smart S300」です。

21:9のディスプレーを搭載したIconia Smart S300

 ディスプレーサイズは4.8型と大きく、画面のアスペクト比はシネマサイズの21:9。本体は縦に長く、スマートフォンというよりも細身のタブレットと思える形状でした。そのことからこの製品はLiquidブランドではなくIconiaブランドで登場したのかもしれません。

 2011年10月には、Windows Phone 7.5を採用した「Acer Allegro」が登場。マイクロソフトがモバイル市場への本格的な再参入を果たす一役を担いました。

 しかし、初期のWindows Phoneはノキア製品の力が強く、PCのメジャーメーカーだったエイサーの力をもってしても市場で一定のシェアを得ることはできなかったようでした。

Windows PhoneのAcer Allegro

 結局エイサーのWindows PhoneはこのAcer Allegroの後が続かず、スマートフォンは再びAndroidへとOSが一本化されました。しかし、PCメーカーがスマートフォンを本格的に販売するためには通信キャリアとの関係構築が必要です。

 家電店のPCコーナーでPCメーカー製スマートフォンに来客の目を向けさせるのも困難でしょう。ブランドを次々立ち上げさまざまなOSを採用したものの、エイサーのスマートフォン事業はなかなか軌道に乗らない時代が続くのでした。

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