スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

AcerトリプルSIMトリプルスタンバイスマホ なぜ流行しなかったのか

文●山根康宏 編集●ゆうこば

2017年05月21日 12時00分

 おもなスペックはSnapdragon S4 Plus(1.5GHz、デュアルコア)、4.3型HD解像度(720×1280ドット)、800万画素カメラなど。メモリーは1GB、ストレージは8GB。ドルビーモバイルにも対応し、スタイリッシュなボディーデザインなど意欲的な製品だったのです。

 しかし、当時のLTEはいまほど普及しておらず、CloudMobile S500も3Gのみに対応。HSDPAでの通信速度ではクラウドストレージを生かしきれません。目の付け所はよかったものの、時代を先取りしすぎた製品に終わってしまったようです。

 なお、エイサーは翌年からクラウドサービスを本格化させ、いまでは「BYOC」(Bring Your Own Cloud)としてIoT関連ソリューションも提供しています。CloudMobile S500はいまこそ再登場すべき製品と言えるでしょう。

 この年は「Liquid Glow E330」「Liquid Gallant E330」というミドルレンジモデルも投入。モデル名に数字だけではなくニックネームをつける試みをしましたが、どちらもあまりぱっとすることは無かったようです。

 秋に登場のモデルからは「Liquid Z110」とまた数字のみの型番に戻りました。スマートフォンは5モデルに終わりましたが、タブレットのIconiaは7モデルを投入しています。

クラウドスマホのCloudMobile S500

 翌2013年は、スマートフォンのラインアップを一新し、Liquidシリーズを4つに分類。エントリーの「Z」、音楽再生などを強化した「E」、インテルチップ搭載の「C」、大画面ファブレットの「S」とし、Z以外のモデルのスペックはミドルレンジ。

 大手メーカーのハイエンドモデルにぶつかる製品は無く、隙間を埋めるようなモデル展開となりました。この年のLiquidシリーズは「C1」「E1」「E2」「S1」「S2」「Z2」の6機種を発売しました。

 しかし、2014年になると、エイサーの端末戦略に大きな影響を与える製品が登場します。ライバルとも言える台湾のASUSが「ZenFone」シリーズを発表したのです。

 手ごろな価格で必要十分なスペック、さらには、わかりやすい3つのラインナップ。メインモデルの「ZenFone 5」は5型と大きめのディスプレーサイズで、本体のデザインも安っぽさはなくスタイリッシュ。「低価格機=安物」というイメージを一気に捨て去ります。

 ZenFoneは地元台湾で発表直後から熱狂的な支持を受ける結果となりました。エイサーは年初に4型の「Liquid Z4」、5型の「Liquid Z5」で対抗しようとしますが、前年に細かいモデルを多く出したことが災いして、両製品の特長を大きくアピールできませんでした。

 また、SoCもMediaTek製であったことから、ZenFoneほどのパフォーマンスは出せなかったと思われます。

TSTSのE700は、その機能をアピールするべきだった

 夏には「Z200」「E600」「E700」と型番を3桁の数字にしてテコ入れをはかります。このうちE700は大手メーカーの製品としては珍しいトリプルSIM対応の製品。3G+2G+2Gとなりますが、TSTS(トリプルSIM、トリプルスタンバイ)に対応しました。

 この特徴を製品名に生かせば大きな話題を振りまいたにもかかわらず、E700という地味な製品名にしてしまったのは失敗でしょう。そういえば、2013年発売の「S2」も、世界初の4K動画撮影可能な製品でしたが、こちらもそれを知る人は当時どれくらいいたでしょうか。

 この3モデルと合わせて「Liquid Jade」、少し遅れて「Liquid X1」と新たなシリーズ展開も開始。しかし「エイサーと言えばこの製品」と呼べる、同社の顔となる製品を生み出すことはこの年もできなかったようです。

Windows Phoneで掴みかけた未来、Z6シリーズに期待

 2015年になるとエイサーは日本市場にも参入。1月にエントリーモデル「Z200」、11月にはミドルレンジの「Z530」を投入しました。試行錯誤が続く同社のスマートフォン事業ですが、先進性のある日本市場に投入できるモデルがようやく準備できたということでしょう。

 この年の大きな動きは、本体デザインを共通化させた新シリーズの投入です。また過去に出したWindows Phoneも投入されましたが、こちらもLiquidブランドの製品となりました。2015年9月に発表されたその新モデルは実に機種に上ります。

 「Z320」「Z330」は4.5型ディスプレーのエントリー機でそれぞれ3G対応、LTE対応。「Z530」「Z530S」は5型ディスプレーのミドルレンジで、後者はCPUとメモリーをアップ。

 「Z630」「Z630S」はZ530シリーズを5.5型ディスプレーに大型化。そしてWindows Phoneとして「M320」「M330」を投入。両者の関係はZ320とZ330同様、通信方式の違いです。

日本でも発売されたLiquid Z530

 本体のデザインイメージは同じとして、ディスプレーサイズごとにラインナップを分け、スペックでの小さいバリエーションを加える。これはZenFoneと同じ戦略と言えるでしょう。またWindows Phoneも加わっているのがエイサーの強みとなるはずでした。

 しかし、翌年に後継モデルが出てこなかった結果を見ると、これらの製品は残念ながら成功を収めることはできなかったようです。ライバルのASUSがZenFoneファミリーを大きく拡大していく中、エイサーの取り組みはタイミングを逃してしまったのかもしれません。

 2016年には2月にZestシリーズを投入。「Zest」は5型で3GモデルとLTEモデル、「Zest Plus」は5.5型ディスプレーを搭載し5000mAもの大容量バッテリーを搭載。

 Zestの3G版は109ユーロと、かなりの低価格。これがコストパフォーマンスの高い、値ごろ感あるモデルの新シリーズとなると思いきや、8月にはZ6シリーズを発表。「Z6」はZestの後継機、「Z6 Plus」がZest Plusの後継機と、半年で早くもモデルチェンジしたのです。

 なお、日本向けには前年にグローバルで発表されたWindows Phoneの「Jade Primo」が登場。Snapdragon 808を搭載し5.5型フルHD(1080x1920ピクセル)ディスプレーのハイエンドモデルで、Continuum機能に対応したドッキングステーションも用意されます。

 マイクロソフトが2016年5月に携帯電話部門の縮小を発表し、Windows PhoneのLumiaシリーズの開発が一旦終了。これによりJade PrimoはHPの「Elite x3」と並び、マイクロソフトのスマートフォンのハイエンドモデルとしてWindows Phoneの顔ともいえる存在になりました。

 アメリカのマイクロソフトストアのスマートフォンコーナーには、Jade Primoが堂々と展示されていたのです。エイサーのスマートフォンが、ついに表舞台に出てきたのです。

ハイスペックWindows Phone機として脚光を浴びたLiquid Jade Primo

 しかし、Windows PhoneはJade PrimoとElite x3以降、目立った製品は出てきていません。マイクロソフトのスマートフォン戦略も不透明であり、今後の動向は予断を許さない状況です。

 もしも、Windows Phoneの新製品が今後も出てくるのであれば、エイサーはその中の中心的存在になれるかもしれないだけに、先行きが気になります。

 2017年に入ると1月に「Z6E」を発表。Z6の下位モデルであり、プリペイド向けなどの低価格市場を狙った製品という位置づけです。

 いまや先進国でもハイエンド製品よりコストパフォーマンスモデルが好まれる時代になっています。エイサーはそんな市場を狙っているだけに、Z6シリーズの動向が同社のスマートフォン事業の将来の鍵を握っていると言えそうです。

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