スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

GalaxyやLGとの対抗心に燃えたパンテックのスマホたち

文●山根康宏 編集●ゆうこば

2017年05月28日 19時00分

 なお、SKテレテックはもともとSKテレコムと京セラの合弁会社でした。韓国をベースとすることから当初はCDMA端末を手掛けていました。

 複数企業から成り立つ歴史を持つため、端末には複数のブランドを持っていました。スマートフォンは2010年に韓国国内向けに旧SKテレテックのブランド「SKY」の名の元に製品を投入。

 「Sirius(IM-A600S)」は3.7型WVGAディスプレーにAndroid 2.1を搭載した当時としては標準的なスペック。黒いボディーのエッジ部分はゴールドのモールドで小食するなど、高級感も持たせた端末でした。

 2010年はサムスンも「GALAXY S」でスマートフォン市場の本格的な拡大を図った年です。Siriusの名前はGalaxyと同じ宇宙を連想させるもので、サムスンの製品名を強く意識したと思われます。

 一方、ボディーは差別化のために凝ったデザインとし、その傾向はしばらく続きます。2機種目の「Izar(IM-A630K)」はボディー全体を曲面で覆ったデザインとし、下部には透明パーツを埋め込み、着信や音楽再生時に光りました。女性を意識した製品で、SKY=おしゃれというイメージを韓国の消費者に植え込みます。

美しく光る「Izar」は女性ユーザーを虜にした

 「VEGA(IM-A560S)」は日本のauに採用され、「SIRIUS α(PTIS06)」として発売されるなど、スマートフォン参入直後から海外市場も積極的な展開を狙っていました。

 しかし、サムスンやLGと比べて企業規模が小さいことから、海外展開は日本以外ではアメリカが目立った程度。むしろ、韓国国内では王者サムスンに対し、LGとシェア2位争いをしていたことから、韓国向けの製品を強化していきます。

 韓国の携帯電話ビジネスは日本と似ていて、基本的にキャリアが端末を販売します。ただし、日本と異なり、メーカー主導の端末開発が行なわれ、端末もキャリア側が製品開発スケジュールを決め、モデル名もメーカー側が決定します。そのため、異なるキャリアでも同じ名前のモデルが投入され、型番の末尾で区別できます。韓国には大手3キャリア、SKテレコム、KT、LG U+があります。

 パンテックの製品の型番の末版はSがSKテレコム、KがKT、LGがLG U+向けとなります。SiriusはA600SなのでSKテレコム、IzarはA630KなのでKT向けの端末ということがわかるわけです。

 おしゃれなIzarをKT向けに投入したころ、SKテレコムとLG U+には「Jewel Home Key」と呼ぶ、宝石のようなデザインのホームボタンを搭載した「Mirach(IM-A690S)」「Mirach(IM-A690L)」を投入。

 本体のエッジ部分には細かいモールド状のデザインを取り入れ、女性が持つアクセサリーのような仕上げとしました。サムスンやLGのスマートフォンのデザインに飽き足らない女性たちは、こぞってパンテックのスマートフォンを買っていったのです。

日本で発売されたSIRIUS α(PTIS06)

 その後、パンテックはVegaシリーズのスペックを強化してフラグシップ化していきます。2011年に投入した「Vega Racer」は4.3型WVGAディスプレー、厚さ9ミリと薄く、CPUは当時最先端のクアルコムのSnapdragon S3(MSM8260)を搭載。

 ライバルはズバリ、サムスンの「GALAXY SII」という思いきったモデルでした。モデルは「S」「K」「L」の3種類。すなわち韓国内3キャリア全社に供給され、ハイエンドスマートフォンとして大々的に取り扱われました。

世界最大画面もパンテックから。特徴あるモデルで差別化をはかる

 海外向けにはおもしろい端末も投入されました。2011年にアメリカで販売された「Pocket」 は画面のアスペクト比が4:3の、正方形に近いデザインの製品です。

 この比率のスマートフォンはLGが「Optimus Vu」として2012年に発売していますが、パンテックはそれよりも1年前にこの形状の端末を製品化していたのです。4型800×600ドットディスプレーを搭載したミドルレンジ機でした。

 同じくAT&Tに投入された「Crossover」は防水端末ながらも、横スライド式のQWERTYキーボードを備えていました。アメリカではキーボード端末は一定の需要があり、各メーカーがアメリカ向けだけのキーボードモデルを投入することもあります。

 Crossoverもアメリカ専用モデルで、3.1型320×480ドットディスプレー搭載の小型モデルながら、キーボード愛好者の間では話題になったことでしょう。

4:3のディスプレーを搭載したPocket

 そして、パンテックがサムスンを出し抜いて出したとも言われているのが、2011年夏発売の「Vega No.5」。当時のスマートフォンは4.3型ディスプレーの「GALAXY S2」が大画面モデルと言われましたが、Vega No.5はそれを上回る5型ディスプレーのモデルでした。

 同年秋にサムスンが5.3型ディスプレー搭載の初のノート「GALAXY Note」を投入しますが、スマートフォン画面の大型化はパンテックが先んじて製品化していたわけです。

 サムスンのノートは翌年に5.5型とひと回り大きくなった「GALAXY Note II」が登場しますが、パンテックはそれをあざけ笑うかのように「Vega No.6」を投入。

 2013年1月に登場したこの製品はスマートフォンとしては超特大の5.9型ディスプレーを搭載。韓国市場で大きな話題となりました。韓国では当時からスマートフォンでビデオ放送や動画ファイルを見るユーザーが多かったこともあり人気製品となります。

 パンテックは当時ファブレットと呼ばれた大画面端末市場を確実にリードしていたのですね。しかし、実はサムスンとの差別化をはかるための、苦肉の策であったのかもしれません。

 Vega No.6は背面にタッチパネルがあり、指先でマウスのようなコントロールができることも特徴でした。このセンサーはパンテックの一部のモデルで搭載されていた機能ですが、片手持ちでは指先が画面の端まで届きにくい大画面モデルには有用なUIでもあったのです。

サムスンの上を行く大型ディスプレーを搭載したVega No.6

 このころは韓国の3キャリア向けの製品を投入するようになり、Vega No.6も「IM-A860S」「860K」「860L」と3つのバリエーションが存在しました。サムスン、LGと肩を並べるメジャーメーカーとして、パンテックの先行きは明るいものと誰もが信じていたかもしれません。

 さて、日本向けには2011年秋に「MIRACH(IS11PT)」を投入。これのビジネス向けとなるカメラ無しの「EIS01PT」も販売されました。韓国と同じMirachのモデル名が付いていますが、ホームボタン左右を含む3つのボタンを画面下に搭載するなど、日本向けに設計されたモデルでした。

 そして、2012年冬の「VEGA(PTL21)」を最後に、日本からは事実上撤退しています。その後、パンテックの名前を日本で聞くことは無くなりましたが、母国の韓国市場では急展開を迎えることになってしまったのです。

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