スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

倒産後にも意欲的なスマホを出していたパンテックの生きる道

文●山根康宏 編集●ゆうこば

2017年06月08日 17時00分

 さらには、本体右上に「Jewelry Light」と名づけた通知LEDを内蔵。宝石を模したパーツの埋め込みは過去モデル「Mirach」を思い出させます。

 CPUはSnapdragon 600、メモリー2GBにストレージ32GB。ディスプレーは5型フルHD解像度(1080×1920ドット)。カメラは背面1300万画素、正面200万画素と、同時期登場の「GALAXY S4」「LG G Pro」と互角に張り合える製品でした。

スペックだけではなくデザインも優れていたVEGA Iron

 そして、同年10月にはペンを搭載した「VEGA Secret Note」を投入。こちらはサムスンの大画面端末である「GALAXY Note」シリーズを強く意識した製品でした。

 9月に先に登場した「GALAXY Note 3」の5.7型ディスプレーに対し、VEGA Secret NoteはVEGA No.6と同じ5.9型のものを搭載。

 さらには、付属の「Vペン」を使い手書き入力だけではなくスクリーンショットやウェブからの情報切り抜きなどを自由にまとめることのできる「Vノート」をプリインストール。生産性の高い作業も可能でした。

 こうしてサムスン、LGと肩を並べて戦うだけの持ち駒をもったパンテックですが、企業規模では両者に及びません。韓国も日本同様、代理店による端末値引きが過激化し、メーカーも補助金を出すなどして端末の無料販売などが横行します。

 こうなると資金力に欠けるパンテックとしては値引き競争についていくことができなくなってしまいます。

 折しも2013年に誕生した朴政権は、スマートフォンの不当な補助金競争を社会問題化していました。新政権はキャリアの不当割引の摘発を強化しましたが、それがパンテックに大きなダメージを与えてしまったのです。

 2014年4月から5月にかけ、韓国政府は通信キャリア3社にそれぞれ45日ずつの営業停止措置を取りました。これは不当な補助金を出して端末を値引き販売したことに対してのペナルティーです。

 日本同様にキャリアが端末を販売する韓国で、その販売元となるキャリアが営業停止になってしまえば、メーカーは製品を販売する機会を失います。

 この影響を真っ先に受けたのは、サムスンの「GALAXY S5」でした。そのS5をライバルとして開発されたパンテックの「VEGA Iron 2」もその影響をそのままかぶってしまいます。本来は4月中に発売される予定だったVEGA Iron 2は、キャリアの営業停止の影響で1ヵ月販売が伸びてしまったのです。

 この45日間の停止後は、サムスンもLGも端末を売り込むために広告展開などを大々的に行ないました。ここでも資金力に欠けるパンテックは出遅れ、結果としてスマートフォン販売数を大きく減少させてしまったのです。

 また、キャリア側は在庫品を不当に割引販売すれば、再びペナルティーを受けることから、端末の仕入れにも慎重になりました。

 5月に販売を開始したVEGA Iron2は、恐らく初動が悪かったのでしょう。のちにパンテックがキャリア向けに発表した端末購入要請文によると、3キャリアは6月以降、パンテックのスマートフォンを1台も購入しなかったとのことです。つまり、キャリアに納入できたのは5月の1ヵ月分だけだった、ということになります。

 製品が売れなかったことから、パンテックは同年の8月に入ると資金繰りがショートしてしまい、法定管理を申請することになってしまいました。これは日本でいう会社更生法で、事実上倒産してしまったのです。

 しかし、当時開発中だった「VEGA Pop-Up Note」は11月になんとか販売にこぎつけ、初期販売台数3万台を瞬足で完売させました。ですが、次の新製品までは手が回らず、ここで一旦息をついてしまいました。

最後の力を振り絞って投入された「VEGA Pop-Up Note」

 実は、パンテックの経営は2013年から苦しくなっており、同年9月には1920億ウォンの赤字を計上し、副会長ら経営陣が失脚。

 一方、本来はライバルであるサムスンがパンテックの株式を10%買収し、同じ韓国企業の事実上の救済にも動いていました。2014年には韓国のサムスンの店舗でVEGAシリーズを販売するなど、パンテックの資金回収のための動きも見られました。そして、最終的には新たな出資者を探し、再建の道を目指すことになったのです。

起死回生のスマホを投入するも、IoTへ特化の道を選ぶ

 パンテックへ興味をもつ企業は多かったものの、約1年間売却条件が折り合わない状況が続き、このまま市場から消え去る可能性も出てきました。

 しかし、2015年6月にオプティス・コンソーシアムが買収で合意し、最悪の事態は逃れることができたのです。2016年に入ると新たな経営戦略を発表。韓国及び新興国向けにスマートフォンを開発するほかに、IoT製品にも取り組むと発表されました。

 復活後初となるスマートフォン「V950」をまずはベトナムに投入。CPUはSnapdragon 415、5.15型HD解像度(720×1280ドット)ディスプレーを搭載したミッドレンジモデル。

 ゴリラガラス3によりディスプレーの傷をつきにくくすると共に、IP67の防水防塵機能を備えており、新興メーカーの格安端末よりも丈夫で使いやすい点をアピールできる製品でした。価格は549万ベトナムドン、約2万6900円でした。

復活後初となる製品はベトナムに投入。V955は5.5型ディスプレーのミッドレンジ機

 さらには、ディスプレーを5.5型とした「V955」も同じくベトナムで発売。この2つのモデルは自社製造ではなくODMメーカー品ではあるものの、久しぶりに「Pantech」のロゴの名前を冠したスマートフォンの登場に市場は大きな注目を寄せました。

 続けて、韓国市場には「SKY IM-100」を7月に発売。生まれ変わったパンテックを意識し、ブランド名はVEGAではなく昔のSKYの名を復活させました。

 本体は背面側にジョグホイールを搭載し、片手でも楽に音楽再生操作が可能。そのホイールと同じデザインのつまみを持った外付けのワイヤレスBluetoothスピーカーもセットで販売されました。

 スピーカーの上はIM-100本体のワイヤレス充電台にもなっていました。まるでオーディオ製品を意識したかのような、意欲的な製品として登場しました。

 価格は44万9000ウォン(約4万4600円)とミッドレンジクラスの製品。スペックはCPUはSnapdragon 430、ディスプレーは5.15型フルHD解像度(1080×1920ドット)、カメラは背面が1300万画素、正面が500万画素。手ごろな価格と、サムスン、LGの製品にはない本体デザインで若い世代を狙いました。

ジョグホイールを搭載し、スピーカーもセットになった「IM-100」

 このIM-100は話題の製品となり、出だしの動きは順調でした。しかし、年間30万台の販売目標に対し、実数は13万2000台に留まり商業的な成功を収めることはできませんでした。

 この結果を受けて、2017年5月にはスマートフォン事業の見直しを発表することになってしまったのです。本格的な復帰から1年をまたずして、今後はIoT製品に特化し、新たなビジネスチャンスを模索することになりました。すなわちスマートフォン事業は継続を断念することになったのです。

 本体と同じデザインテイストの周辺機器をセット販売するというIM-100のアイデアはほかのメーカーには無いものでした。他社には無い自社ならではのスマートフォンをつくり続けてきたパンテック。IoT製品で成功を収め、スマートフォン市場への復活をぜひ期待したいものです。

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