視覚のVRに体の感覚が加わると……
最後に、今回の企画展で一番ダイナミックなVR体験、Birdlyについてです。Birdlyは、VRゴーグルを装着してうつぶせに装置の上に寝そべると、名前のとおりにさまざまな場所を鳥になって飛ぶことができる仕組みです。広げた手にもセンサーがあり、自分で羽ばたいて速度調節をしたり、上下左右に方向を変えたりします。
装置は画面の中の動きに応じて、わりとしっかりと傾きます。また顔の正面には扇風機があり、やはり画面の中の飛行速度に応じた風が顔に当たる仕組みです。雪山では、山々を鳥の視点で俯瞰しながらゆったりと飛ぶことができ、ニューヨークではビルの間を縫って飛んでいく体験を楽しむことができました。
視覚に加えて、体のバランス、手の動き、そして風が当たる感覚など、複数の感覚で作り出されるバーチャル体験は、非常にリアルなものでした。いや、リアルかどうかはわかりません。実際には鳥のように生身で空を飛んだことはないのですから。
VRは、知っている体験の再現だけでなく、自分が経験したことがない感覚を体験するツールにもなりえます。数分の飛行体験でしたが、羽根の傾け方によって高度が変わったり、高度変化と羽ばたきでスピードを付ける感覚などもわかった気がします。もし自分に羽が生えたら、最初から上手に飛び始められるのかもしれません。
羽が生えて飛ぶ、というのはちょっと極端な例ですが、体のバランス感覚をつかめばできる類いのもの、スキーやサーフィンなどは、VRで学んで実践という流れがより盛んになる可能性もあります。
その意味で、自宅でも、バランス感覚を養える、VRゴーグルと連携する装置は、早めに手ごろな価格になってくれると良さそうですね。
筆者紹介――松村太郎
1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。
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