スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

日本上陸を果たした米国のSIMフリーメーカーの雄・BLUの実態

文●山根康宏 編集●ゆうこば

2017年06月25日 12時00分

 元々は中南米向けに低価格でGSM方式のSIMフリー端末を手がけていました。GSM端末はSIMスロットさえ搭載しておけばユーザーが自由に端末を買い、SIMはキャリアから自由に手に入れることができることから市場参入のハードルは低かったのです。

 2000年代初頭は北米ではまだCDMA方式が主流であり、SIMを入れ替えるという概念がありませんでした。

 BLUは北米にも展開をはかりますが、通信キャリアでロックのかかったCDMA端末が格安で買える市場だったため、単体では割高感のあるBLUのSIMフリー機はメジャーな存在になることはなかったのです。

 2011年には早くもAndroidスマートフォン「Magic」をリリース。Snapdragon S1(600MHz)にメモリーは256MB、ストレージは512MB、3.2型HVGA解像度(320×480ドット)ディスプレー、3.15メガピクセルカメラというエントリーモデル。OSはAndroid 2.1を搭載しています。

 ちなみに、ほぼ同時期はファーウェイからIDEOSこと「U8150」が登場。2.8型QVGA解像度(240×320ドット)ディスプレーを搭載し、ほかのスペックはほぼMagicと同等でした。当時はこのクラスの製品がスマートフォン利用者の拡大を促していったのです。

BLU最初のスマートフォン「Magic」

 しかし、当時のBLUはフルタッチディスプレーのフィーチャーフォンも多数出しており、電話としての使い勝手はMagicよりもそちらのほうが高かったようです。低価格なスマートフォン需要はありましたが、それだけでは消費者の目をBLUに向かせることは難しかったのでしょう。

 そこで2011年冬に上位モデルの「Studio 5.3」をリリースします。このモデルは名前の通り5.3型480×800ドットディスプレーを搭載したミドルレンジモデル。

 当時はまだ5型のディスプレーでも大きいほうで、5.3型といえばサムスンの初代「GALAXY Note」が採用していたくらい。無名なメーカーがいきなり大型ディスプレーを採用し、しかも価格はSIMフリーで259ドルと割安でした。

 もちろんStudio 5.3はディスプレー解像度が低く、CPUもMediaTekのMT6573を採用するなどコストは下げられていました。しかし、大手メーカーを出し抜くような製品を出したことでメーカー名の認知度は少しずつ高まっていきます。

 とはいえ、北米ではまだまだキャリア経由のSIMロック端末販売が主流であり、BLUはプリペイドSIMを買うユーザー以外にはなかなか広がりませんでした。一方、新興国では安価な大画面スマートフォンとして大きな人気になります。

新興メーカーの大画面モデルとして話題になった「Studio 5.3」

 2012年には超低価格の「Dash」とスタイリッシュな「Vivo 4.65」を投入。大手メーカーの隙間を狙うような製品で攻めていきます。

 2013年には防水防塵で衝撃にも強い「Tank」、NVIDIA製Tegra 3搭載の「Quattoro」、新しい中核ライン「Life」を投入。さらには、既存モデルも「Dash Music」「Dash JR」「Dash 4.3」「Dash 5.0」「Studio 5.0」「Studio 5.0S」「Studio 5.3S」と、怒涛の新製品ラッシュが続きます。

 ここまで製品が増えてくると、キャリアや販売店のほうでも自社の顧客ニーズにあった製品が見つかるというもの。なかなかシェアを伸ばせなかった北米市場でも、ウォルマートなどのスーパーやBestBuyなどの家電量販店でBLUのスマートフォンの取り扱いが増えていきます。

怒涛の新製品投入でアメリカシェア1位に

 2014年になるとWindows Phone 8.1をOSに採用した「Win JR」を発売。CPUがSnapdragon 200に4型400×800ドットディスプレー、500万画素カメラというエントリー機です。

 同じころに発売になったノキアの「Lumia 530」がAT&Tなどキャリアから販売されたこともあり、北米での純粋なSIMフリーモデルの低価格Windowsスマートフォンという位置づけで販売されました。

 アメリカのマイクロソフトストアにも堂々と同社の製品が並べられていたのです。その後、Windows Phone端末は新製品をリリースしましたが、合計4機種に留まっています。

 そして、この年はついにフィーチャーフォンの自社ブランド販売からも撤退しました。BLUはヨーロッパや東南アジアへも進出先を広げていきましたが、それらの市場でもユーザーの大半が求めているのはスマートフォンに変わっていったのです。

 まだ数千円程度のフィーチャーフォンを求めるユーザーもいましたが、利益を考えるとほかのメーカーに任せたほうが得策でしょう。

 BLUは低価格から高性能機までスマートフォンラインアップの拡大を進めていきます。BLUのスマートフォン新機種数は2013年が23モデルでしたが、2014年は29モデル、そして2015年は34モデルへと毎年増えています。

毎年モデル数を増やすBLU。2015年にはWindows Phoneもリリース

 2015年1月には厚さ5.1mmの超スリム端末「Vivo Air」を出して世間を驚かせます。当時の世界最薄はOPPO「R5」の4.85mmとその差はわずか。スペックはMediaTekのMT6592(オクタコア、1.7GHz)、メモリーは1GB、ストレージは16GB、4.8型HD解像度(720×1280ドット)ディスプレー、背面800万、正面500万画素カメラのミッドレンジで、つくりもしっかりしつつ199ドルと言う安価な価格設定でした。

 BLUはコストパフォーマンスの高さだけではなく、Vivo Airのようなしっかりとした製品設計のできるメーカーとしてさらに名を高めていきました。

 また、製品のバリエーションを増やすために、この年には他社品の自社ブランド製品も投入。例えば、正面カメラに1300万画素カメラを搭載した「Selfie」は中国のセルフィースマートフォン専業メーカー・Meituの「M2」のカラーバリエーション変更品でした。

 セルフィースマートフォンを他社から調達して出すほど、BLUはセルフィーブームが来るものと考えていたのでしょう。それだけではなくこの年は4000mAhの大容量バッテリーを搭載した「Energy X」を投入。長時間駆動可能なタフなスマートフォンを新たにシリーズを展開させたのです。

 そして、本ラインの「Studio」シリーズにも5000mAhバッテリー搭載の「Studio Energy」「Vivo」シリーズには両面800万画素カメラ搭載の「Vivo Selfie」を投入するなど、複数のシリーズそれぞれに流行となりそうな機能を搭載したモデルを用意し、製品バリエーションを鉄壁なものへと仕上げていきます。

 もはやBLUのスマートフォンは「安い」に加え「欲しいと思う機能を乗せた」製品が多数揃うようになったのです。こうなれば、SIMを1枚持っておけばそれをキープしたまま、比較的安価に端末だけを買い替えていくことが可能になります。

 折しも2015年8月にはアメリカ最大手のキャリア・ベライゾンが「スマホ2年契約の割引」を廃止。キャリアで2年契約したからと言って、iPhoneが無料になることはなく、定価の端末を24ヵ月分割して買う、というスタイルに変わったのです。

 シェア4位(当時)のT-Mobileはすでに2013年から割り引きを廃止しており、残るAT&Tとスプリントも2016年1月に追従した結果、北米は「高性能な端末は高く、安価な端末は性能が低い」という、まっとうな市場になったのです。

 そうなると価格に対しての性能が高い、コストパフォーマンスに優れた製品に人気が集まっていきます。もちろんiPhoneを買える所得層はこれからもiPhoneを買い続けるでしょう。

 しかし、キャリアで無料だったから、とiPhoneを買っていた客はそうはいかなくなります。「SIMフリーで自分の予算に見合う製品でより機能が高いもの」を探しているユーザーにとって、BLUの製品が魅力ある端末に見えてくるわけです。

 Strategy Analyticsの調査結果によると、BLUは2015年のアメリカSIMフリー端末市場でシェア1位となりました。BLUの出荷台数は520万台で、2位アップルの180万台の約3倍も売れたわけです。3位はモトローラの140万台でした。SIMフリースマートフォン市場でのBLUのシェアは全体の約3割、35.6%に達したのです。

 なお、同調査によると北米のSIMフリースマートフォンの出荷総台数はスマートフォン全体の9%で、前年の4%から倍増しました。SIMロック端末がまだ9割以上と主力であるものの、SIMフリースマートフォン需要は着実に伸びているのです。

BLUの2015年の躍進をけん引した「Studio 6.0 LTE」。6型の大型ディスプレー搭載

 2016年には55種類もの新製品を投入。これは圧倒的な強さを誇っていた数年前のサムスンに匹敵するほど。2017年にはいっても上半期に16モデルを発売しています。

 2017年は新たにタフネス端末「Tank」シリーズを投入、最下位モデル「Tank 2.4」は久しぶりに同社から登場したフィーチャーフォンでした。そして、日本向けにも「Grand X LTE」「Grand M」で新規参入を果たしました。

 コストパフォーマンスに優れた製品をキャリアの縛りの無いSIMフリー端末として毎月数モデル投入し続けるBLU。これまでは大手メーカーの陰に隠れた存在でしたが、今後参入先の国では上位メーカーを脅かす存在になるかもしれません。日本向けにもTankなど特徴あるモデルをぜひ投入してほしいものです。

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